鬱でもチョコはちゃんと甘い
石丸:ちょっと話変わるけど、アイコちゃん服はどこで買うの?
成宮:え?! わたし…なんか、顔がどうもダサいので。
石丸:…いや、か、かわいらしいじゃん。
成宮:なんで笑ったんですか。
石丸:いやいや、大丈夫大丈夫(笑)。
成宮:文章を書くとかライブをするとか重要なこと意外はどうでもいいやってなってしまうので、意識的に気をつけないと部屋とか外見とかが最悪な状態になるんですよ。
石丸:気をつけないとごはんを食べ忘れたりするんじゃない?
成宮:食べるの好きですよ。甘いものも好きだし…あ、知ってますか? 缶コーヒーとかめちゃ甘いじゃないですか。あれって鬱な時に飲んでもちゃんと甘いんですよ。
石丸:ははは、面白い!!!!
成宮:鬱状態のときってごはんを食べても「無」だし、ただの咀嚼運動になるんですけど、甘いものは甘いんですよ。それで「チョコ甘いって笑って生きるのがわたしの愛だ」っていう詩を書いたりしました。
石丸:文学じゃんそれ!
成宮:石丸さんが昨日ツイートしていた、「君が居ない夕暮れが鉛の底に深く沈むよ」こそ文学じゃないですか。
石丸:あれはね、恋人にふられそうになったの(笑)。髪型は、どこで切ってるの?
成宮:髪?! ギャルのお姉さんに…切ってもらってます。ギャルの子ってすごい好きなんです。みんな、こっちが話すのが下手でもぜんぜん気にしないんで普通に話してくれるんです、優しい。
石丸:ハサミでチョキチョキやりながら「カレシいるんですかぁ〜?」みたいなね。
成宮:「お休みですか〜?」とは聞いてくるけど、「仕事何してるんですか〜?」 とまでは立ち入ってこないし、そんなに興味もない感じなのが居心地良くて。ライブの時の服とか髪型が同じなのは意味があって。知らない場所で知っているものを見ると安心する感じってありません? 知らない街で見る、サーティーワンアイスの強烈なピンクとか、ソープの角海老とか。
石丸:はいはい、なるほどね。
成宮:知らないライブハウス行くのって緊張するけど、いつも同じ髪型で同じ服の人がいたらほっとするかなって思って。角海老の看板のようになりたいんです。
石丸:自分の行ってる床屋はね、「クイックカット」的な適当な屋号で、組合にも入ってなくてインディペンデントなの。会社失敗した流れ者理容師が、帽子とサングラスで顔を隠しながら仕事してて。その匿名感がいいんだよね、なぜなら自分もそこでは匿名でいられるから。
成宮:あ! その感じわかります。
石丸:会話も、仕事の話なんて何にもしないでね、お互いの地元の悪口ばっかり喋ってて(笑)。
成宮:手癖で会話するみたいな、実りのない話っていいですよね。牛丼とパスタどっちが好きですか〜? っていう会話に癒される。高校時代に友人としたかった"どうでもいい会話"を今補填しているのかもしれない。
石丸:それは素敵ね。確かにね、いまこうやって面と向かって話しているけど、そういう会話ってなかなかできないもんね。ほっとするよね。
成宮:大事なことばっかり話してても疲れるし。
石丸:そうそう。
生きづらいのは当たり前、だけど生きてきた
成宮:石丸さんは、例えば悪い人について書いても、「あ〜あ、こんなことしちゃってどうすんの?」っていう書き方をされるので、すごく好きなんですよ。
石丸:わたくしね、昔は言葉で人に意味を伝えようとしていたんだけど、最近はもう、言葉を使わずに伝える人になりたいと思って。いわゆるビジュアル系を目指しているわけです。
成宮:ビジュアル系文学者(笑)。世間からバッシングを受けている人でも、石丸さんのいじり方だと、「この人は何か原因があって今に至るんだな」って考える余地があって。わたしは石丸さんに影響を受けたって公言しているので、この本を読んでもらって、「影響を受けてこれかよ!」ってがっかりされないかヒヤヒヤしました。
石丸:いやもう、この本はとても素敵よ。ライブは、声質を含めた音声表現、朗読表現、文字表現がうまくあわさっているものだけど、本は文字だけなのに、ちゃんと声が聞こえてくるものでしたよ。
成宮:これからも影響を受けたって言い続けていいですか?
石丸:もちろん。わたくしに影響を受けて悪いことまではじめちゃったりしないでね(笑)。でもね、この本は、例えば中年のサラリーマンにもあてはまる表現だからね。
成宮:ライブに来てくれたセクシャルマイノリティの方が「リア充ぽいかたも、車イスの方も、セクトを超えて集っていることに驚いた」って声をかけてくれて、ああ、生きづらさって普遍的なんだなって思うようになったんです。
石丸:生きづらさ問題って重要でしょ? 自分なんて20代からず〜っと生きづらいままで50歳になって、でもね、そうすると今までずっとそうだったから生きづらいことが問題じゃなくなってくるのよ。生きづらいのは当たり前、だけど生きてきたっていう感覚になるから。
成宮:石丸さんが書くときに意識していることってありますか?
石丸:軽いジャブのつもりで投げかけた言葉が相手をものすごく傷つけるかもしれないから、そこは気をつけているのね。だからSNSで発する言葉は「意見」じゃなくて「ニュアンス」にしようと思っていて。自分は時事問題を取り上げても「どひゃー!」とか喜んでるだけじゃん(笑)。
成宮:引用して「きゃー!」とか「えっ」とか「バゴーン」とか多いですよね。
石丸:そうそう、そこで分かってくれよって。
成宮:悪意はあっても憎悪はない、みたいなそのバランスがいいなぁと思っていて。
石丸:炎上したいのよ! 注目されようかなと思うのに、ぜんっぜん炎上しないの! でも内容はさることながら、ヒステリーはよくないと思っているのよ。キーキーするとかっこ悪いからね。ヒステリーのおじさんとか最悪でしょ?
成宮:あはははは(笑) ヒスおじさん!
石丸:男の更年期障害?! って(笑)。
成宮:師匠…最後に書くことについて何かアドバイスをください。
石丸:あのね、今のままでいいからね、綺麗なリズムでいてくださいね。言葉に綺麗なリズムがあれば、どんなメッセージをのせても大丈夫だから。
成宮:ありがとうございます! 宝物の言葉にします!