ある日の午後、生きづらさをテーマに活動する朗読詩人の成宮アイコちゃんをインタビューしました。2017年9月に刊行された真新しい著書『あなたとわたしのドキュメンタリー』、とても良い本だと思います。こないだワンマンライブも見に行きました。ぼくにとってのアイコちゃんはもう、一人の表現者なのですーー。(interview:石丸元章)
難しい顔をして語っても、現実は変わらない
石丸:ご著書『あなたとわたしのドキュメンタリー』読ませていただきました。言葉のリズムがきれいですね。文字を読んでいるのに、アイコちゃんの音声でメッセージが届く感じでした。
成宮:ぎゃー! もともと石丸さんの文章の大ファンなので、ありがたいです。熱量だけで書いてしまったので、完成してからこれで大丈夫か?! って頭を抱えていたんですけど。
石丸:タイトルもいいし。自分とアイコちゃんが初めて会ったのって2年前くらいですよね。
成宮:ロフトプラスワンのイベントですね。
石丸:…プラスワンの周りは変な人が多いのでここにいて大丈夫かな、というのが第一印象でした。それが、このあいだ「四谷天窓.comfort」へワンマンライブを見に行ってビッッッッッックリしたわけです。アイコちゃん、あなた立派な表現者になったんですね! というか、もしかしたらずっと前から表現者だったんでしょう。とにかく印象に残るライブでした。会場には若い人から車イスの人までいろんな人で満員で、その日を楽しみにしていた熱気がみなさんから伝わってくる。メッセージに反応して、一人一人が笑ったり、考え込んだり、拍手したりする。ああいうライブをやれるのってすごいなと。…そして、こうして本も書いて。本を読んで初めて知ったことがたくさんあったけど、あながち…本に書かれていた過去の暗い人生も、悪くないんじゃないかとすらも思いました。
成宮:石丸さんが『平壌ハイ』で書かれてた "不幸や悲しみのもとになっているどうしようもないバカバカしさを笑い飛ばす勇気" っていうのが心にいつもあるんです。難しい顔をして語って解決した風にしても、現実は何も変わらないから。わたしがやっている生きづらさというジャンル的に、シリアス100%にするのは簡単だと思うんですけど、そうしたらもとから興味のある人にしか聞いてもらえないので、本音の中にいかにわかりやすいポップさを残すかっていうのが最大のテーマなんです。スタンスや文末にちょっと入るユーモアとか、石丸さんからとっても影響を受けています。
石丸:表現活動としてのライブは、いつごろからやってるんですか?
成宮:対人恐怖と醜形恐怖がひどかったので、活動をしてから人の顔をちゃんと見られるようになるまで5年くらいかかったんですよ。本格的にライブをはじめたのは東京に引っ越してからなのでここ2年くらいですね。
石丸:まだ新潟に暮らしていたときに、「こわれ者の祭典」のイベントで月乃光司さんを見て、すごいショックを受けたわけですよね。精神病院入院時代のパジャマが衣装のハゲた人が「アル中になって良かった!」って叫んで、それでいいんだ――!! と。そんなインパクトを目の当たりにして、アイコちゃんも表現をはじめるわけでしょ? きっかけからして凄いですね。
成宮:イベントに出るようになったといっても、すぐに自分が明るくなれるわけじゃないんですよ。会場にもいろんな方がいて、そこで例えば――わたしが「(社会不安障害で)咀嚼音が不安で人前でごはんが食べられなかった」っていうMCをすると「わたしは自分が橋を歩くと割れるような気がして、だから遠回りしないと家に帰れない」とか打ち明けてくれる人がいて、「…案外、みんなとんでもないなぁ」と(笑)。死ななければなんとかなるんだな、っていう認識ができました。
ほんとうは地元大好きになりたかった
石丸:ところで、鬱になったのって、どういうきっかけなんですか?
成宮:もともと、地元の新潟に全然なじめなかったんです。地元タウン誌といえば、ラーメン・居酒屋・美容室特集のローテーションだし。それに加えて、祖父のDVとか父親のフェードアウトとか、学校の「あいつの声キモい」っていう悪口とか、唯一の友人の自死とか、とにかくいい記憶が全然ない場所なんですよ。でも本当は地元大好きになりたかったっていうジレンマで、生きていく術が一つも見つからなくなっちゃったんです。
石丸:同じように、身の回りにカルチャーのカの字もない田舎に暮らしながら、自分の居場所を見つけられない人たちって、たぶんいっぱいいるよね。こないだ、知床という北海道の端っこに旅行で行ったんだけど、「自分はここで一生暮らすんだ」と、子供時代から信じ込んで育ったら苦しいだろうな…と考えました。
成宮:今はネット社会だから暮らしている場所は関係ないって言われがちですが、新潟に住んでいる時に全然そんな風には思えなくて。例えば行けなかったライブのネット配信を見ても、現場で体感した人としていないわたしとではものすごい差があるわけで、その積み重ねはほんとうにきつかった。
石丸:鬱っていう不のパワーが、閉塞した地方から脱出するために必要なパワーなのかもしれないですね。溜め込んで増殖していった鬱屈した気持ちが、ある日、核融合みたいに爆発して、「このままここにいたら死んでしまう!」「ここから出るんだ!」って噴出して、その勢いが生き様になったりするような。手首の古傷もさ、アイコちゃんの格闘の跡なわけだものね。それを自傷行為と片付けてしまうのはおかしいですよね。本当は、一歩間違えたら死んじゃうくらいの自分との格闘の痕=パワーが噴出した足跡だと思います。
成宮:新潟では、それまで10年近く、ここに暮らすのは無理だから引っ越そうって思ってたのに自力では動けなかったんです。でも人から「きっかけ」さえもらえたら、そこからは突っ走れたのでびっくりしました。
石丸:いつでも発射できるように、気持ちが飽和してたんだろうね。
成宮:ライブを始めたことも、東京に来たことも、わたしはこれまでまわりの人から「きっかけ」をもらい続けて生きてきたので、その「きっかけ」を投げる順番がまわってきた感じがしていて、だから今、こんなにムキになって活動をしているんです。それでプロフィールにも「朗読であなたを人生の当事者にしたい」って書いていて…って話すとめちゃめちゃ恥ずかしいんですけど!