『片腕マシンガール』『電人ザボーガー』の監督として知られる井口 昇の最新ヒーロー映画『スレイブメン』が、3月10日に公開される。本作の公開に併せたイベントも東西のロフトで開催が決定し、大きな盛り上がりを見せている。
今回本誌では、井口監督と本作の宣伝・配給を務めるSPOTTED PRODUCTIONSの直井卓俊による対談の模様をお届けする。気心の知れた2人は、『スレイブメン』のことから、故・しまだゆきやすへの思い、そして今の映画制作について思うことまでを語り尽くした。[text:平松克規(Loft PlusOne West)/interview:椎名宗之(Rooftop)]
モテない男子の怨念が世の中を変える!?
直井:『スレイブメン』は、どういう経緯で作ることになったんですか?
井口:最初は、G-STAR.PRO(芸能プロダクション)のワークショップの卒業制作だったんだよね。だから映画として劇場公開するかもちゃんと決めないままスタートしたんです。でも作っているうちにドンドン話が大きくなって……。気がついたらヒーロー物になってました。それで「今の時代にフィットするヒーロー像」を考え始めたんですけど、いろんな武器で戦うのは、もう今更だなって。で、「自画撮りするヒーロー」はどうだろうと思ったんです。今って、自分や相手を撮ることで人と繋がってたりするわけじゃないですか。撮ることがコミュニケーションになってる。じゃあ、相手を撮影してやっつけるのはどうだろ、って思ったんですよね。
直井:なるほどなるほど。
井口:あと、今ヒーローがいるとしたら、僕は世界のためよりも、個人の思いのために戦うんじゃないかなと思ってて。個人的な思いで、個人的な敵を倒すっていうのが新しいヒーロー像なんじゃないかなと思ったんですよ。そういうものを取り込んで作ろうとしたのが、『スレイブメン』なんですよ。
直井:ワークショップの卒制ということは、今回のキャストは基本当て書きなんですか?
井口:そうですね。ワークショップに参加していた中村(優一)さんと奥田(佳弥子)さんありきなので。他の出演者もほとんどワークショップに参加してた人たちです。
直井:奥田さんには、井口映画のヒロインの系譜を感じました。
井口:奥田さんはそこまで経験値も高くないし、ひねくれてないから、変なセリフでも素直に喋ってくれるんですよね。もうそれが楽しくて(笑)。
直井:演劇的なメソッドみたいなのがしっかりある人だと、セリフの意味を求めたり、疑問を持ったりしちゃいますもんね。
井口:そうそう。僕もそういう人たちに「これっておかしくないですか?」「これ言わなくてもいいんじゃないですか?」って何度か言われたことありますもん。
直井:井口さんの映画でそこにぶつかるのはもったいないですよね(笑)。
井口:うん(笑)。主演の中村さんも、すごい素直でいい人なんですよ。で、今回、「1回イケメンというものを全部外してみようよ」「人間の持ちうる情けなさの究極をやってみましょう」って話をしたんです。だから僕、「俺はなんでモテないんだ!」っていう長ゼリフを言う時だけ、めちゃくちゃ厳しかったですからね。普段の温厚さは一切消えて、鬼のように。「君はモテてる経験があるからそういう芝居になるんだ!」「モテてない人間はもっと悲しいんだ!」って。メガホンがあったら床に投げつけてましたよ(笑)。今、世の中を変えるのは、モテない男子たちの怨念みたいなものだと思うんですよ。新海誠の『君の名は。』にも、モテない時期が長い男のオーラを感じましたから。けっこう同じことを考えてる人で、相通じるなと。
直井:『スレイブメン』は、ヒーロー版の『君の名は。』って言ってますもんね。
井口:それと星野源さんがモテ出したのも象徴的だよね。彼もある意味「スレイブメン男子」ですから。
直井:だって僕、『逃げるは恥だが役に立つ』を観てイライラしてましたもん(笑)。
井口:それはもうここ2年で急に変わったんじゃない? 壁ドンっていうものがあったけど、今はもう壁ドンする手すら上がんないんですよ。
直井:女の人に逆に引っ張られていく感じですよね。
井口:だから『スレイブメン』も、今の時代にピッタリ合ってる映画なんじゃないかなと。
直井:合ってると思いますよ。女性にこそ観て欲しいですよね。
井口:うん。でも女性からの評判はいいんだよね。試写に来た女の子が、「また観ます」って言ってくれたり。女子はこの映画の本質を分かってくれてるんですよね。人によったら、「笑いました」ってバカムービーの印象で終わっちゃうかもしれない。多面的な見方のできる映画だから、その人のリトマス試験紙になると思いますよ。