日本のガレージ・シーンの歴史的なことよりも「今」を撮りたかった
ネモト:それじゃ、マリオは日本に来る前からガレージとかもいろいろ聴いてたんですね。
マリオ:そうそう! 聴いてたけどまだペブルスとかナゲッツ(60'sガレージの名コンピレーション)はまだ知らなかった。ペブルスとナゲッツのレコードは、日本に来てから見つけて買いました。ゴシックを聴いていた流れでクランプスと出会ってからは、ほぼセンス的な部分ではクランプスが基本と言うか、どこ掘ってみたらいいかとか、どこ探せばいいかなどはクランプスが教えてくれました。ガレージの入門はクランプス。
ネモト:マリオが初めてクランプスと出会ったのはいくつくらいの時ですか?
マリオ:初めては12〜3歳くらいの頃です。80年代。トロントはMTVみたいな番組が優れていたから、クランプスなどの映像を観ることができました。最初はガーベージマンのミュージックビデオを観ました。
ノブ:いいなー。俺らは汚い裏ビデオみたいな映像しか観たことなかったよねー(笑)。
全員:(笑)
ネモト:マリオは、自分でバンドをやろうとは思わなかったんですか?
マリオ:ずっとやりたかったんですが、楽器の才能もないし、友達がやってたバンドのオーディションを受けたこともあったけど、行って唄い出した時点で「なんだこれ〜!」みたいな感じであきらめました(笑)。80年代後半や90年代前半に周りの友達がみんな好きだったのは、AC/DCとかハードロック系だったので、ガレージパンクを聴いているような友達は全くいなかったです。周りはみんなロックンロールに興味があると言うよりは、ロックスターという存在になりたかったと言うか、レコード会社と契約したり、豪華なパーティーに行くことが夢だったから。
ネモト:MTVに出るとかね。
マリオ:そうそうそう!
ネモト:ここで脚本担当のクラークにも話を聞きたいのですが、日本にはいつから?
クラーク:2008年から2009年に1年だけ留学してたんですけど、住みに来たのは2010年です。
ネモト:そう言えば、クラークはまだ若いですからね。1987年生まれだし。俺はクラークが生まれた時にパンク・バンドやってました(笑)。
クラーク:(笑)好きなバンドは、だいたいみんな俺が生まれた年に結成ですね。ギターウルフとかTheピーズとか。
ネモト:どうしてマリオとクラークで映画を作ることになったんですか?
クラーク:日本に戻ってライブに行くと、すでにマリオはいつもバンドを撮影していたんです。特に呑んだりしてるわけじゃないけど、マリオはみんなから好かれてて。それでたまたまいろんな場所で会ったりして、会うと「こういうバックフロムやガレージ・シーンのドキュメンタリー映画を作りたい!」っていつもそんな話ばっかりで(笑)。俺も翻訳や和訳の仕事をしていたので、映画の中でインタビューとかで翻訳とか必要だったら呼んでくださいって。
ネモト:手伝いますよって感じ?
クラーク:そうですね。それで、幡ヶ谷ヘビーシックとかの平日DJイベントなどで、Mr. Deathが「マリオ監督が現在制作中の、バック・フロム・ザ・グレイヴのドキュメンタリー映画」という感じで撮った映像を音なしで流してて、そういうイベントでマリオの映像を観て「あ〜、やっぱりセンスいいな、カッコいいな!」って思っていて、「これは面白いかも、絶対良い映画になりそう!」って思って。で、彼の家に週一くらいで行くようになって。それでいろいろやりとりしていて。1時間くらいのノブさんやジミー益子さんのインタビューがあって、「じゃあ、これ翻訳してもらえる?」っていう感じで翻訳作業をしていったら、マリオが「君が話を作ればいいんじゃないの? シーンの人だし、多分だいたい分かるだろうから」「じゃあ、ビデオエッセイやインタビューの流れを作ってくれる?」って。
ネモト:映画全体の構成みたいなこと?
クラーク:そうですね。で、45分くらいで全体のインタビューのみのバックフロムの話や歴史からそういうのを作って、で、説明したら「これで行こう」ってなって。
ネモト:なるほど。自分が試写で観て思ったことは、この6年間でマリオとクラークが見てきた、体験をした、日本のガレージ・シーンにスポットを当てた感じで、歴史的な映像よりも「今」を映した映像が良かったと言うか、リアリティがありました。
マリオ:撮影し始めてから6年間しか撮ってないし、シーンについてのことはノブさんが一番うまく話せたかもしれないんだけど、やっぱり自分が見たシーンの描写と言うか、映画としてはそういうものになりますね。
クラーク:歴史的な部分も入っていて、今の部分も入っていて、(今回スポットを当てていない)真ん中の部分が一番有名な時期だったんじゃないですか、ちょうど90年代とかティーン・ジェネレイトとか。そういうことを調べるのはそんなに難しくないし、この映画を観た人が興味を持って調べることもあると思います。
ネモト:歴史的な部分よりマリオは「今」を撮りたかったのかな?
マリオ:イエスイエスイエス、その通りです。
クラーク:マリオはストーリーよりも、とにかく「このバンドを見せたい!」という部分でこの映画を作ったので。