1980年代の終わりから30年に渡り今も続いている東京アンダーグラウンドロック・シーンの名物イベント"Back From The Grave"。日本にガレージ・パンクを根付かせたこのイベントの主宰者とバンド、そして観客に焦点を当て、5年以上の歳月をかけて完成した映画『GARAGE ROCKIN' CRAZE』が1月14日(土)より劇場公開される。何と言ってもこの映画の特筆すべき点は、本作のマリオ・クジク監督がクロアチア人であるということ。90年代に来日した彼はどのようにこのシーンに魅了され、映画を撮るに至ったのか!? 本作の主演とも言えるDaddy-O-Novとマリオ・クジク監督、脚本・構成を担当したB.B.クラークの3人の対談から紐解いていく。インタビュアーは、自身もシーンの人でありレコードレーベル"DECKREC"の運営だけでなく、CHILDISH TONESとしてバンド活動も続けるネモト・ド・ショボーレ。映画を観る前に読むと映画をより楽しめるのは間違いありません。
新宿ロフトのガレージ・イベントを観て「ワオ! 信じられない!」
ネモト:マリオ監督の到着がちょっと遅れているので、まずはDaddy-O-Novさん(ダディー・オー・ノブ、以下ノブさん)に話を聞こうと思います。このドキュメンタリーで取り上げられているイベント、“Back From The Grave”(バック・フロム・ザ・グレイヴ、以下バックフロム)ですが、ノブさんが最初に新宿ジャムスタでやってたバックフロムの話はいろんなとこでしてると思うので、その後の話を聞かせてください。最初のバックフロムが1回終わって、その後またバックフロムを再開したのって下北沢シェルターですか?
ノブ:最初のバックフロムが終わってから1年目? 多分、ハロウィンは休んでないから。
ネモト:ナス君(90年代の下北沢シェルターでのバックフロム主催者)が引き継いだバックフロムの頃?
ノブ:いや、その前に俺が1回やってるんだよ。最初のバックフロムが終わった最初の1年目に、亡くなっちゃったヒデロウ君(ザ・モンスター・ア・ゴーゴーズ)が「バックフロムやりましょうよ」って言ってくれてシェルターを紹介してくれて、それでシェルターで初めてやったんだよ。
ネモト:じゃ、ナス君主催のバックフロムはその後?
ノブ:シェルターでは何回かやってて、企画を動かした人もその時によってって感じだったんだけど、その辺でナス君が「バックフロムって名前を使ってやっていいですか?」って言って、ハロウィンじゃない時もシェルターで定期的に始めて。だから、ハロウィンじゃないバックフロムを定期的にやってたのがナス君で、ハロウィンだけは俺がやってたのかもしれない。ただ、その頃はハロウィンも毎年やれてたかは分からないんだけど。そのあとナス君がやってたバックフロムが終わって、バックフロムがやらない時期があって、そしてまたシェルターでやろうよって言い出しっぺはねー、はっちゃく(当時のギターウルフのマネージャー)なんだよ。なんか、はっちゃくが「ハロウィンくらいやりましょうよ」って。
ネモト:あー、そう言えば一時期、はっちゃくとノブさんのコンビみたいな時期ありましたね。
ノブ:2009年のハロウィンがマミーズ(サンフランシスコのガレージ・バンド)の来日なんだよね、多分。
ネモト:マリオはいつ日本に来たんですか?
ノブ:日本に来たきっかけは、クロアチアだから格闘技の記事を書く記者みたいな。ミルコ…何だっけ? すごい有名な…K-1とかで大活躍した人がいて、で、クロアチアはK-1とか格闘技が盛んな国みたいな感じになってて、それでなんかマリオは日本に初めて来た感じ。
ネモト:そうだったんですね。
ノブ:それでK-1とかも日本であんま人気がなくなっちゃって、それでもマリオはずっと日本にいて。
ネモト:マリオはどういう経緯で日本のガレージ・シーンを知って、ガレージのイベントに来るようになったんですか?
マリオ:よくギターウルフのライブに行っていたクリスっていう男がいて、彼が経営していた六本木のBARでシリル・ロイという男に出会って。彼は私と好みが似ていて、ロイは日本のガレージ・シーンを知っていた男で、彼とつながりのあったミネソタ・ヴードゥーメンなどを知って。
ネモト:初めて行ったガレージのイベントは?
マリオ:2009年2月に新宿ロフトでのイベントに行ったのが最初です。
ノブ:新宿ロフトでやった、矢内(ホットショッツの初代ギタリスト&リーダーの矢内勝氏)の追悼イベントに来たのが最初。
マリオ:たくさんのガレージ・バンド、ロックンロール・バンドのライブが2つのホールで交互に行なわれていて、「ワオ! 信じられない!」という光景で。ガレージ・シーンと出会う前も、10年間日本に住んでいたのですが、どこに行けば良いのかも考えたことがなかったし、フェイスブックなどでフライヤーを見かけても日本語が分からなかったし。
ネモト:なるほど。
マリオ:24歳の時にカナダのトロントにクランプスを観に行ったのですが。
ノブ:それ、俺も観に行ったツアーだ。
マリオ:そのオープニング・アクトでギターウルフが出ていて、「今のは何だったんだ!?」という衝撃を受けました。そしてそのライブで出会って仲良くなった日本人の女の子がいて、次の週にその娘とたまたま会って、その時にThe 5.6.7.8'sも入ったMIXカセットテープをもらって。しかし、そのカセットテープにはタイトルも何も書いていなくて(笑)。
ノブ:タイトルも何も書いてなかったんだ。それに入ってたのがゴロッパチ(The 5.6.7.8'sのこと)だったんだ?
マリオ:そう!
ネモト:マリオはどんな音楽が好きだったんですか?
ノブ:なんかもともと音楽はすごく好きで、高校生ん時にニュー・ウェイブのバンドとかゴシックのバンドとかいろいろ観たりしてたみたい。
マリオ:最初、クランプスはゴシックからの流れで知りました。まずクランプスを好きになって、クランプスはいっぱいガレージパンクをカバーしていたので「オリジナルが聴きたい!」と思って、1984年にBIG BEATからリリースされた『Rockabilly Psychosis And The Garage Disease』を手に入れて聴いて。
ノブ:あー、あれはメチャ良いコンピだよね。俺もあのコンピで初めてヘイジル・アドキンスとかソニックスを聴いたんだもん。クランプスがカバーしてたオリジナルをね。