良いものは異ジャンルでも垣根を超える
──畑中さんはノイズという未知のジャンルへ踏み込んだことで創作意欲がさらに高まったと思うのですが、今後トライしてみたいのはどんなことですか。
畑中:やりたいことはいっぱいあるし、どんなことでも貪欲にトライしていきたいんですよね。現時点で私が望んでいるのは、コンスタントに皆さんの前で唄えるようになりたいということです。私の歌を聴きたいという方々のために唄える場所を作りたいんです。ありがたいことに大阪ではJOJOさんにライブをセッティングしてもらってますけど、その他の地方でセッティングする力がいまの私にはないんですね。そういうことが自由にできるように自分の幅を広げながら、皆さんがどういうものを求めているのかを考えていきたいです。今回、念願だった「Cherry Bomb」も唄えたし、英語の歌もいいなと思っていますしね。オリビア・ニュートン=ジョンの「Physical」とか、昔から好きな英語の歌がいっぱいあるので、そういう歌だけを集めたアルバムも作れたらいいなと思いますし。
──MVはレオタード姿のオリビア・ニュートン=ジョンがエアロビクスに励む「Physical」、畑中さんにぴったりじゃないですか!(笑)
畑中:でしょう!?(笑) あと、ミニー・リパートンの「Lovin' You」とかも唄ってみたいんですよ。今回の「Cherry Bomb」を唄えたら自分は何でも唄える気がしていたので、JOJOさんたちにはありがたい機会を与えてくださったと感謝しているんです。「Lovin' You」なんてすごく難しい曲だけど、「Cherry Bomb」が唄えたならそれも唄えるんじゃないかと思って。
──セクシー歌謡を知らない若いリスナーにも畑中さんの歌を是非聴いて欲しいですよね。知らないからこそ新鮮に響くでしょうし。
畑中:JOJOさんと一緒にライブをやらせてもらったこともそうだし、ベッド・インのワンマン・ライブにゲストで呼んでもらって若い子たちに私の歌を聴いてもらったのもありがたいことなんです。そうやって若い世代にも私のことを認識してもらえるように歌をお届けしていきたいですね。
広重:畑中さんが「あの人はいま」みたいなものでしかメディアに取り上げられないのはもったいないし、実際はずっと現役で唄い続けていらっしゃるし、ノイズやロックといった新たな分野にも挑戦している方なので、既存の畑中葉子のイメージを壊して「想像以上にとんがっている女性歌手なんですよ」というのを広めていきたいんです。これだけ奥深い引き出しをいっぱいお持ちの方なので、ライブの現場にもっと参加していただきたいですね。僕がいま一番やりたいのは、ソウル・フラワー畑中階段なんですよ(笑)。一応、中川(敬)君からはOKをもらっているんです。「で、俺らは何やったらええの?」って言ってましたけど(笑)。
──いいですね。畑中さんの唄う「満月の夕」を是非聴いてみたいです。
広重:そう、聴いてみたいじゃないですか。「満月の夕」みたいな名曲もやりつつ、ソウル・フラワー・ユニオンが「もっと動いて」を演奏するわけですよ(笑)。たとえば1万人規模の野外フェスとかでそんなことをやったら、何が何だかよく分からないけど何だかすごい! という闇雲なエネルギーが生まれるじゃないですか。
畑中:いいですねぇ、是非やりたいです!
広重:ソウル・フラワー・ユニオンはすごく硬派なバンドだけど、何年か前にソウル・フラワーBiS階段としてライブをやった時にすごくいい空間が生まれたんですよ。音を出していた僕らももちろん気持ちが通じ合えたんですけど、その場にいたお客さんとも演奏を通じて音楽の持つ力を分かち合えたんです。音楽ってやっぱりいいものだな、力を生み出せるものなんだなというのがお客さんにも伝わったし、会場全体が一つになれたのをソウル・フラワーBiS階段のライブで感じたんですよね。だから今度は畑中さんにも参加していただいて、もっと大きな一体感をみんなで共有したいんです。
──今回の畑中階段もそうですが、本当に良いものは異ジャンルでも容易に垣根を超えて一体化できるということですね。
広重:そうなんですよ。異ジャンルが混じり合った表現でも、リスナーやライブに来られるお客さんとすごくいい形でつながれる瞬間があるんです。そういった作品やライブを、残っている時間のなかで一つでも多く形にしていきたいですね。