「非常階段 featuring ゆるめるモ!」名義で昨年末に発表されたライブ・アルバム『解体的交歓〜真夜中のヘヴィ・ロック・パーティ〜』が好調なセールスを記録するなか、今度は非常階段の本塁であるノイズの世界にゆるめるモ!がどっぷりと浸かり、四つに組んだのが『私をノイズに連れてって』と題された異色かつ出色のスタジオ・レコーディング作品だ。両者による怒濤のノイズ・バトルはもとより、各人のセッション、カバー、ポエトリー・リーディングなど内容は盛りだくさんで、本来は水と油であるはずのノイズとアイドルの核融合がこれほどまでに親和性の高いものなのかと驚愕すること必至。両者を代表して、JOJO広重、もね、ようなぴの3人に一連の共演の手応えや表現の極北がもたらす革新性について語り合ってもらった。(interview:椎名宗之)
『愛欲人民十二球団』みたいな作品にしたかった
──昨年末に発表されたライブ盤はゆるめるモ!の楽曲に非常階段がノイズ演奏を添える格好でしたが、今回のスタジオ盤は非常階段の提案するアイディアにゆるめるモ!が添う形になっているとのことで。レコーディングに臨んで如何でしたか。
ようなぴ:ノイズの世界や非常階段の凄さをよく知らなかったんですけど、純粋に楽しんでレコーディングできました。
もね:私もノイズのことは全然分からなくて、最初は何をしたらいいのかな? と思って。何が正解なのかが分からなかったので、とりあえず楽器に囲まれた中で暴れ狂ってみました。その結果、スティックをへし折っちゃったんですけど(笑)。
──ああ、豪華なパーカッションが用意されたという「ノイズ印象派宣言」で。
もね:はい。でも凄く楽しかったです。
──そもそもどんなきっかけで両者が共演することになったんですか。
JOJO:四谷アウトブレイクで定例でやってる『自家発電』というイベントがあって、3年前にBiS階段としてライブをやったです。去年の6月にそのvol.3があって、非常階段と組み合わせると面白いグループはいないかということで、ゆるめるモ!の名前が挙がり、そこで初共演となりました。と言うのも、ゆるめるモ!のアルバムにNEU!のファースト・アルバムのジャケットをオマージュしたものがあったり(2ndミニ・アルバム『NEW ESCAPE UNDERGROUND!』)、NEU!を意識した「SWEET ESCAPE」というクラウト・ロック調の曲があったりして、これは面白いなと思ったんです。僕らはジャーマン・ロックに多大な影響を受けてますからね。この四谷では「SWEET ESCAPE」1曲のみで共演しました。このコラボは凄く感触が良かったのですが、彼女たちはちょっと遠慮がちだったんですよ。もっと暴れていいのにと思ってたので、9月に渋谷マウントレーニア・ホールで再共演したんです。
──『解体的交歓』として音源化されたライブですね。
JOJO:あのライブは最高でした。じゃあもう一歩進んで、今度はゆるめるモ!の楽曲ではなく、ノイズの即興演奏で非常階段と彼女たちを組み合わせてみるとどうなるか? と思ってスタジオ盤を企画させてもらったんです。
──ゆるめるモ!のアルバム・ジャケットはNEU!ばかりではなく、WEEZERやGANG OF FOUR、ESG、SUICIDEへのオマージュもあるし、ニューウェイヴ色の濃いエレクトロ・サウンドが音楽性の特徴だから、ロック・ファンにも受け入れられやすいですよね。
JOJO:コアな音楽ファンが付いてるアイドル・グループですよね。衣装がDEVOっぽかったり、僕らが思わずキュンとなるツボをいつも押さえていて。バックトラックを作っていらっしゃるプロデューサーの方が僕らの感覚と近いので、非常階段とは親和性が高いと思ったんですよ。彼女たちにその辺の認識がどれだけあるのかは別にして、一緒に組むのは純粋に楽しいだろうなと思って。
──今回発表される『私をノイズに連れてって』は純然たるノイズ・アルバムと言うよりも、ノイズを軸に置きながら歌や語り、ドラマやお遊びを入れてみるという幕の内弁当的な内容ですね。
JOJO:ゆるめるモ!のファンもいきなり即興ノイズだけのアルバムっていうのはキツいだろうし、僕の中ではアルケミーレコードで昔出した『愛欲人民十二球団』や『愛欲人民バトルロイヤル』みたいなオムニバスがイメージとしてあったんです。歌もお喋りもドラマもお笑いも何でもあるようなコンピレーションをまた作りたいなと思って。ゆるめるモ!の6人はそれぞれ個性があるし、バラエティに富んだことがやれるんじゃないかと。それでもねちゃんとあのちゃんにお話を考えてもらったり、赤痢の曲をみんなにカバーしてもらったりしたんです。
ゆるめるモ!のバンド演奏を見て赤痢を連想
──アルバム・タイトルは『私を赤痢に連れてって』へのオマージュなんですか。
JOJO:そうです。アルケミーの代表作ですね。赤痢の「睡魔」をカバーすることだし、タイトルは赤痢のアルバムに絡めてみようと思って。あと、ゆるめるモ!はノイズのことをよく知らないということで、ノイズの世界にご招待しましょうという意味も込めて。
──ジャケットでビーチ・ボーイズを意識したのは?
JOJO:『私を赤痢に連れてって』はそもそも『私をスキーに連れてって』が元ネタなんですよ。ビーチ・ボーイズはサーフボードを抱きかかえていたけど、僕らはスキー板をかつごうと思ったんです。その辺、あまりひねりはないですね(笑)。
──赤痢の「睡魔」を唄ってみてどうでしたか。
ようなぴ:ヘンな歌だなぁと(笑)。何を唄っとるんじゃ、この歌詞は!? と思いました。
JOJO:今聴いてもシュールですよね。「あたしの夫はちびでハゲ」ですから(笑)。
もね:私は、大阪のおばちゃんが唄ってる歌なのかな? って(笑)。
JOJO:美川さんのことだと思わなかったですか?
もね:そんなことないです(笑)。こういう歌の世界もあるんだなと思いました。
──赤痢の曲を若い女性グループに唄ってもらうアイディアは広重さんの中でずっとあったんですか。
JOJO:やってくれそうな人たちがいませんでしたからね。以前、サエキけんぞうさんが初音ミクを使って「パチンコ」をカバーしてくれましたけど。赤痢はかなりきわどい歌詞があるんですが、さすがにそれをゆるめるモ!に唄ってもらうわけにいかないと思って「睡魔」を選んだんです。
──「知ってはいけない真実のお話」のもねさんのストーリーテラーぶりは凄いですね。ゼウスと地球の関係を綴った物語の構成力も、声優顔負けの語りも。
もね:自分で物語を考えたんですけど、ちょっと頭がおかしい人みたいな感じですよね?(笑)
JOJO:いや、素晴らしいですよ。語りはノーミスで一発OKで、プロの声優さんみたいでした。語りはもうひとつ、あのちゃんが考えたお話のナレーションに美川さんがノイズを操る「渋谷夢想」というトラックがあるんです。かなりぶっ飛んでて強烈ですよ。
──「知ってはいけない真実のお話」を書くにあたって何かモチーフはあったんですか。
もね:モチーフは特にないんですけど、私はもともと映画が好きなんです。自分で映画を撮るとしたらどんな物語にするか頭にいくつかあって、その中のひとつみたいな感じですね。30分くらいで考えたお話なんですけど。
──もねさんと同じく語りのトラックを務めたあのさんに対抗意識を燃やしたりは?(笑)
もね:それは全然なかったです。お互いに考えることが全然違うだろうし、自分らしさをそのまま出せば正反対のものができると思ったから、全然気にしませんでした。
──もねさんはさっきも話に出た「ノイズ印象派宣言」で用意されたあらゆるパーカッションを乱れ打ちしているし、実に多才ですよね。
JOJO:天才ですね。グロッケンもティンパニも全部叩いてもらったんですが、凄く器用だしセンスがありますよ。
もね:パーカッションをやったことはなかったんです。吹奏楽部だったので、フルートは吹いていたんですけど。
JOJO:ゆるめるモ!のバンド編成の時はドラムを叩いてますよね。
もね:それもライブで4回くらいしかやってないんです。練習時間は全部合わせて5、6時間くらいですかね。
ようなぴ:私もベースは全部で3時間くらいしか練習してないです(笑)。
JOJO:去年の8月に恵比寿のリキッドルームでゆるめるモ!のワンマンがあって、それに僕もゲストで出させていただいたんですけど、彼女たちが割と簡単な曲をバンドでやってたんですよ。もねちゃんがドラム、あのちゃんがギター、ようなぴがベースで、その演奏を見た時に「これは赤痢だ!」と思ったんです。僕の中でイメージがつながったんですね。