ポリコレがどうとかうるさいこの時代に「マンコ マンコ」なんて曲が収録されたアルバムが発売されるという、この痛快過ぎる事件! そう、前作から10年ぶりとなるオナニーマシーンのニューアルバムは、まさに事件! オナマシを知らないヤングにこそ聴いて欲しい、平均年齢50歳オーバーの1000%純粋な勢いだけが濃縮還元された超大問題作、堂々爆誕! 中心人物のイノマー(Vo, Ba)に話を訊いたゾ! [interview:前川誠(Asagaya/Loft A)]
歳をとったらバカになった!
──この雑誌が出る頃には終わってますが、今度行われるワンマンライブ(11/26開催)が2年ぶりということで。
イノマー:それまで毎年ワンマンをやっていたんですけど、一昨年オイラとオノチン(Gu, Cho)が身体を壊しちゃったんですよ。それで1年お休みして、今年こそやろうねとオイラが言い出したら、オノチンが「何もなくて2年ぶりのワンマンやったって、誰も興味持ってくれないしこっちもテンション上がらないからCD作ろうよ」って。
──なるほど。
イノマー:それで、レーベルやってる知り合いに声をかけて、1ヶ月で曲を作ってレコーディングして…。合計3ヶ月ですかね。本当に時間がない中での突貫工事でした。
──かなり大変だったんですね。
イノマー:うーん、そうでもなかったかなあ? まあ、年齢じゃないですかね。昔だったらサクッとできていたのに「あれ? できないぞ?」みたいなことが多かったです。バンドを始めた30歳のときにできていたことが、50歳の今はできない悲しさとか寂しさとか、侘び寂びが詰まったアルバムだと思います。
──CDのブックレットにも書いてありますが、収録曲の「あいかぎ」では仮歌だと思って歌った歌がそのまま使われてしまったそうで。
イノマー:キーは合わないしダメだし、でも一番大好きで大切な曲だったんですよ。だからキーを替えて何回か歌い直そうかと思ってたのに、みんなが「これでいいよ!」って言いだして。アイツらね、自分のことしか考えてない! だって「あいかぎ」以外も全部仮歌ですよ! 歌い直した曲は一切ないです。そのくせオノチンなんて、「アチョー!」とか「ワー!」みたいな簡単なことを10回も20回も録り直してるんですよ! それで時間がかかったせいでオイラは歌わせてもらえなくて。
──それはヒドい(笑)。
イノマー:まあオイラは別にこだわりないんで。誰もオナニーマシーンに上手い歌とか求めてないですからね。一応ベースも弾いてるんですけど、それも弾きたくないから全部一回で終わらしたし。
──以前に比べてだいぶ音が若返った印象です。
イノマー:嬉しいなあ。きっとヤケクソなんでしょうね。誰にも縛られてないし、自由にやってる感じなのかなあ。歳はとっているけど、とっている分どんどんバカになっているというか、痴呆症というか。若いときってマジメだったり「こういう風にしなくちゃいけない」とかいろんなことを考えると思うんですけど、オイラはもう何も考えてないですもん。
──それにしても、このご時世に「マンコ マンコ」が収録されたCDをリリースするレーベルは偉いですね。
イノマー:こないだ全部録り終わった後にレーベルの人に「どうでした?」って訊いたら「すいません、まだ聴いてません」って言ってましたよ。
──えー!!
イノマー:関わってる人がみんなバカなんですよ(笑)。
オナマシは変わらない!
──オノチンさんにCDの話をされたとき、イノマーさんとしても何か踏み切るモチベーションがあったんじゃないですか?
イノマー:なんかね、グズグズしてた自分がいたんですよ。オナニーマシーンに関しても正直どうしたら良いのか分からなかったし、きっかけがないとこのままフェイドアウトしてっちゃうのかなっていう気分があったので、オノチンが良いパスをだしてくれたなっていうのが正直なところですね。
──ちょうど停滞していた時期だったんですね。
イノマー:まあ、ずっと停滞ですけどね。だから、なんか楽しかったです。でも、もっと昔と同じくらいできると思ってたんですよ。30代前半、『恋のABC』とか『彼女ボシュー』とか『義雄』とか出してた頃は1日に3曲とか5曲とか勢いで作っていたのに、50歳になった今それをやろうとしても全然できなかった。「まあいつか降りてくるだろう」と思っていたら全然降りてこないし、「よしこういうときはAVだ」と思ってAVを流しながら曲を作ってもダメで。まあ、結局どうにかなったんですけどね。
──難産だったと。
イノマー:難産って訳でもないんですけどね。ただ、10年前と時代が全然違うじゃないですか。音楽業界も全然違うし、TVから流れてくる音楽も違う。こういうところにオナニーマシーンなんていらないだろうなってすごく強く思ったのは事実です。配信とかがメインになってる今の時代に、CD作ってフライヤー作ってCDショップ回って……っていうオナマシのやり方は古いから。そのへんはレーベルの人にお任せするしかないんだけど、レーベルの人もまだ聴いてないみたいだしね。だから、レーベルの人には悪いけどリハビリみたいなもんですよね。
──これだけCDが売れないなかでCDを出す理由とかは考えました?
イノマー:一切考えてないです。完全なリハビリですね。このまま何もやらなくて時間が過ぎてしまっていったら、きっとダメになっちゃうだろうなと思ったから。
──結果として、できたものを聴いてどうですか?
イノマー:歌は最低ですね。
──そこも含めて良かったと思いますよ。
イノマー:みんな機械を使ったりして小綺麗なCDを作るんでしょうけど、こんな汚い音のヘタっぴな歌のCDを世の中に出すっていうのは、逆に良いのかなって。耳触りの悪い音楽もあって良いんじゃないかっていう。それに、オナマシが普通のアルバムを作るのも違うと思うし。例えばブルースロックとかに根付いた、演奏力の高い高級な音楽も素晴らしいと思いますけど、オナマシは中3のクソガキが放課後の部室で出してるような音楽だから。それしかできないし、それしかやれないから。今ウチらは平均年齢52〜53歳なんですけど、普通そうなるとみんなオトナの音楽っていうか、ブルースだったりジャズだったりレゲエだったりソウルだったりファンクだったり、そっちに行くじゃないですか。なぜか。あれがね、オイラは中学生の頃からずっとイヤだったんですよ。例えばオイラの大好きなバンドがいて、1枚目は最高なのに2枚目になると良いと思う曲が減ってきて、3枚目になると1曲くらいしかなくなる。そして6枚目くらいになると全然クソつまんなくなる。1枚目と6枚目が全然違うものになる。なんだろうなってずっと思ってて。オイラはそれをやりたくなかった。オナニーマシーンはやってることも言ってることも演奏力も、1枚目から10枚目まで全然変わらないなっていう、そういうことをしたかったんですよ。『恋のABC』とか『彼女ボシュー』を好きな人たちが聴いても、「変わったな」とか「おとなしくなったな」とか思わないアルバムだと思う。
骨を折った!
──今回のジャケットに使われているこの写真は、どんな状況なんですか?
イノマー:THE NUGGETSのツアーで福岡に行ったとき、セブンイレブンで水を買おうと思って歩いてたら知らない間に倒れちゃってたんですよ。それで気づいたら警察に囲まれてて、オイラはなぜかパンツを脱ごうとしてたらしいんですよね。それをTHE NUGGETSのボーカルのワタルが写真を撮ってたんです。で、良い写真だからこれをジャケットにしようと思って、写真を見ながら酒飲んでたら「冤罪」っていう言葉が浮かんできたんですよ。
──意味深な響きがありますけね。
イノマー:意味は全くないです。今まではかわいいイラストを使ったりしてましたけど、この写真を使おうと決めた時点でかわいいタイトルなんて載せられないですから。実際よれよれの50歳のジジィにかわいいもへったくれもないし。
──だからアー写もイラストなんですよね?
イノマー:ジジィが3人並んで写真撮っても汚いんですよ。ビジュアル系とかかっこいい人たちは良いかもしれないけど、オナマシはそういうのじゃないし、相手にしてる人たちも違うし、相手にもされてないし。例えば、同年代のバンドとかいるじゃないですか。みんなカッコイイですよね。楽曲にしろ見た目にしろやり方とかもスマートだし。なんでオイラこんなに違うのかな? ってときどき思いますもん。
──そもそもバンド名が「オナニーマシーン」ですからね。
イノマー:そうなんですよね。オナニーマシーンなんていうバンド名で、ソフィスティケートされた音楽やってもしょうがないし、やりたいとも思わないしできないし。トイレとか風呂場で鼻歌で作ったような曲を歌ってるだけですから。
──ところで、アルバムができて、ワンマンも控えたなかで骨折しましたが。
イノマー:レコーディング中なんですよ。マスタリングのときに、椅子に座ろうと思ったら上手く座れなくてズコーッて肩から落ちちゃったんですよ。最初は大丈夫だろうと思ってたんですけど、日に日に痛くなって、お医者さんに行ったらレントゲン撮られて「あー折れてますねー」って。「ライブあるんですけど」「ダメですね」って。
──でもライブはどうにかするんですよね?
イノマー:歌を歌うしかないんで、あとはどうにかします。
──この時期に腕を折っちゃうっていうのもドラマチックですよね。
イノマー:そうですかね。