できる限りアルバムを出して、死ぬまでバンドをやりたい
──『アコギな夜 2016』でワンマンをアコギ一本でやりきったように、近年はレピッシュ的なエンターテインメント性の高いことよりもシンプルの極みを行く表現を形にしたい欲求が強いですか。
杉本:アコギ一本でもエンターテインメント性の高いことは充分やれているつもりだけど、何事もシンプルにやれるようになりたいと思うようになってきたのは確かだね。極端な話、PAも照明も何もなくてもライブをやれるくらいのところまで一度はたどり着きたい。実際、アコギもけっこう長く弾いてきたせいか、弾いてるのも楽しくなってきてね。いつかまたエンターテインメント性の高いことをやりたくなる時が来るのかもしれないけど、いまはシンプルなことに徹してみたい。
──これだけ景色が目に浮かぶアルバムを完成させたわけですし、20年前から本格的に模索し始めた“ピクチャーミュージック”はかなり理想的なレベルに到達できたのではないでしょうか。
杉本:毎回、何かひとつは到達できた気がするんだけど、そうなるとまた次の欲が出てくるんだよね。その欲がなくなったら創作をやめるのかもしれないけどさ。今回はアーティスト仲間からいろんな刺激やアイディア、イメージをもらいながら音楽になっていって、それを聴いた人のなかでその人なりの景色が思い浮かぶようになっているのなら、またひとつ成し遂げることができたのかな? とは思う。
──冒頭で被災した故郷を思う曲は作らなかったとおっしゃっていましたけど、こうしてまたパワフルな作品を生み出して、全国を旅して元気な姿を見せるのも復興支援のひとつの形だと思うんです。何もこんな時期だからこそ直接的な応援ソングを作ることがすべてじゃないし、音楽を通じてやれることは他にもあるじゃないですか。
杉本:俺も結局、そう思った。今回、熊本のことを書いた歌もあったんだけど、最終的に入れるのはやめた。気持ちだけは入れたつもりだけど、直接的なことを唄うのはやめたね。4月以降、ずっと熊本のことが頭を支配してたんだけど、そんな歌を聴いたところで俺は何ちゃ思わんし。
──それよりも、「コーヒー! シュガーイン! 不味い、、、ブラックで♡」(「NEW1」)というクスッと笑えるような歌を唄うほうが恭一さんらしいですからね(笑)。
杉本:「分かりやしねぇ未来恐れるなら/目の前の事ちょっと変えてみろ」なんてちょっといいこと唄っておいて、幼稚なレベルまで落とすっていうね(笑)。
──直接的な表現はなくても、復興支援のライブはこれまで何度かやってこられたわけですし、この先もずっとやっていかれるんでしょうし。
杉本:まぁ、何ができるかは分からんけれども、これからもずっと関わっていこうとは思ってる。熊本市内は全然元気だけど、益城や南阿蘇のほうはまだまだ復興から程遠いからね。たとえば、世界が滅びて無人島に10人くらいで暮らすことになったとして、そこで自分に何ができるのかと言えば、楽器もないだろうから何か物を叩きながら唄って楽しませることくらいだと思うんだよね。人によっては魚を捕る、農作物を育てるんだろうけど、自分にやれるのはやっぱり音楽しかないんだと思う。
──年末に向けては、毎年恒例の『Tail Peace Tour』で有終の美を飾る感じですね。
杉本:4人で回るのがいまから楽しみだね。もうすでに今回のアルバムの曲をバンドでリハーサルしてるんだけど、「Stowaway」をやるたびに4人とも崩れ落ちるくらいに体力と気力を消耗してるよ。みんな演奏も足元も忙しいし、脳みその限界に挑戦してるって言うか(笑)。まぁ何にせよ、こうしてまた新しいアルバムを出せるのは毎回嬉しい。ちゃんとした盤にして出せるのがね。ミュージシャンにとってはアルバムを出すのが一番の力の入れ時だから、アウトプットしたぶんだけインプットの時間がかかるんだよね。だからいまのペースだと、新しいアルバムを出すのにどうしても最低2年はかかる。でも、この先もできる限りアルバムは出したいし、死ぬまでバンドはやりたい。だって、こんなに面白いものは他にないもん。