絶大な影響を受けたジョニー大倉の訳詞センス
──「Showdown」=ポーカーで持ち札を全部見せること、すなわち「切り札」。意味合いとしては、二度目の野音でも持ち得る力を最大限発揮するといったところでしょうか。
KOZZY:そんな感じだね。「今夜はShowdown」は大舞台である野音に相応しいタイトルだと思ったし、使ってみたかったんだよ。今回のアルバムはその「今夜はShowdown」を軸に据えて、それを支える曲を揃えようって発想だったかな。最初は「今夜はShowdown」とプラス1曲じゃちょっと寂しいだろうってことで、サービスで何曲か入れようと思ったんだけど、いざ作ってみたら意外といい曲が揃ってね。メインの曲を際立たせるような周辺の曲っていうのもロックンロールには大事だし、「中の上」くらいの曲も1枚のレコードのなかには必要なんだよ。今回はそういうのを意識して新曲作りをしたね。
──だから「トゥイスティン・ナンバーワン」も「真っ赤なチェリー」も「あの娘のファラウェイ・アイズ」もシングルのB面感が前面に漂っているわけですね。
TOMMY:そのB面感がいいんだよね。僕は昔からB面好きなんで。ミディアムっぽい感じのね。
BIKE BOY:派手さはないけど、いい感じのミディアム感がある曲ですよね。でも、そういう「中の上」みたいな曲を狙って作るのはけっこう難しいんですよ。ちゃんと狙わないと普通にいい曲になっちゃうので。
KOZZY:まぁ、わざとそんなB面感を出す必要もないし、いまどきそんなことをあえてやってるのはマックショウくらいだろうけどね(笑)。
──本作では他にも、チャック・ベリーの「喜八露留(キャロル)」とニール・セダカの「OH! CAROL」のカバーが目を引きますね。
KOZZY:ジャケット撮影でマツダのキャロルを使ったから、キャロルにまつわる曲を入れようと思ってね。キャロルはマツダがまだ東洋工業と名乗っていた頃に発売された軽自動車で、こうしてジャケットに使ってるのは僕らなりの広島感を出したかったって言うかさ。
TOMMY:広島出身じゃない人は見たことのない車だろうね。「この外車、何すか?」ってよく訊かれるし(笑)。
KOZZY:これは余談だけど、永ちゃん(矢沢永吉)とジョニー(大倉)さんがキャロルを結成した時、バンド名を考えたジョニーさんのなかではチャック・ベリーの「CAROL」とかニール・セダカの「OH! CAROL」のイメージがあったと思うんだよね。でも、広島出身の永ちゃんが「CAROL」と聞いて思い浮かべたのはきっとマツダのキャロルだったんじゃないかな。永ちゃんはマツダのキャロルみたいにちっちゃい車が好きみたいで、当時はスバルの360に乗ってたっていうしね。そういうキャロルという言葉の捉え方の違いが象徴的で面白い。ジョニーさんと永ちゃんではロックンロールの捉え方も違うけど、そこで奇跡的に噛み合った部分がキャロルの音楽として身を結んだわけでさ。
──「喜八露留(キャロル)」の訳詞とインパクトのあるタイトルの当て字はジョニーさんによるものなんですよね。
KOZZY:ジョニーさんの『ポップン・ロール・コレクション』っていうアルバム(1991年6月発表)でカバーされててね。ジョニーさんのは僕らよりもゆっくりなバージョンなんだけど。『ポップン・ロール・コレクション』の収録曲は全部漢字表記で、「監獄労苦(ジェイルハウス・ロック)」とか「水都里留敷天(スウィート・リトル・シックスティーン)」とかカバーの選曲もいいし、ジョニーさん独特の訳詞の妙も味わえるし、バック・バンドのジョニー&ダーリンの演奏もいいんだよ。デカパンさんって人がギターでさ。
──ジョニーさんの訳詞は、まるでコージーさんが書き下ろしたオリジナルの歌詞みたいですよね。「ハイウェイ飛ばせば ロックンロール」とか「キャロルはあきれたテディーガール」とか、いかにもマックショウのレパートリーにありそうな歌詞じゃないですか。
KOZZY:そうなんだよね。「喜八露留(キャロル)」の訳詞を見れば、僕がどれだけジョニーさんから影響を受けたかが分かると思う。マックショウの曲における重要な言葉が「喜八露留(キャロル)」には全部入ってるからね。
──平易だけどポップでスイングしている言葉をいかに選び取るか、みたいな部分が主に影響を受けたところですか。
KOZZY:たとえば「ツイスト踊れば ロックンロール」なんて何のことだかさっぱり分からないし、そんな安直な歌詞でいいの!? とか思うじゃない?(笑) でも、それが音に乗るとちゃんと伝わるものがある。そういう訳詞の完成度の高さは、この「喜八露留(キャロル)」が一歩も二歩も抜きん出てるんだよね。当時は『ポップン・ロール・コレクション』の歌詞カードをくしゃくしゃになるまで読み込んでたし、ものすごく影響を受けたよ。いま改めて「喜八露留(キャロル)」の訳詞を読んでもすごいよね。「いつまでたっても あばずれ女」なんて歌詞がよく出てくるなと思うし、結局のところ歌詞を通じて何も語ってないっていうのもすごいよ(笑)。そういうジョニーさんの訳詞の継承者としては、「喜八露留(キャロル)」をさらに磨き上げた形で聴かせたいと思って今回のアルバムに入れてみた。