『陽気なステップ』の各収録曲をメンバーが解説!
1.アンラッキーエンジェル
—これは誰が作ったの?
タイチ:僕が作りましたね。最初は適当に作ったんですよ。ていうのは、最初は適当に作った方がバンドにはまる、っていうことが最近わかってきたんで。思いっきり考え込んで作った曲って、独りよがりすぎてメンバーにすら伝わらないんです。骨格重視で作ってきて、バンドでまとめていく内にギターの裏打ちとか付け出して「ああイイ曲だなあ」と。そんな感じです。
アツシ:歌詞もいいよね。
タイチ:10代終わって20代の青春って好きなんですよね。曇った感じというか。10代の青春って上手くいかなくても晴れてるじゃないですか。20代の青春は泣けてくるんですよね、答えがわからなくて。この曲に限らずですけど。この歌詞の男は、上手くいかないのは社会のせいだっていう決めつけを持っているんです。雨が屋根を叩く音が悲しいメロディに聞こえて、これは一生続くんだっていう諦めみたいな気持ちを、一夜の女性と過ごしながら思ってるんじゃないですかね。
ハマ:そう思うと深いね。
タイチ:30年後ぐらいに言いたかったですね(笑)。
2.コインと薔薇
アツシ:これはもう最近の1曲目の定番ですね。
ハマ:これは僕が作りましたね。
アツシ:最初はライブであんま受けなかった気がするね。
タイチ:途中で化けた感じがある。
ドン:これはいつごろからあるんですか。
タイチ:去年のしんじゅく族ではやってたね。これはハマさんらしい曲と思う。
ハマ:これは…女と喧嘩した男が、ポケットに入っていた小銭で取り返そうとする歌です。
アツシ:浅はかな奴だね(笑)。
ドン:ハマさんが書く歌詞の男はいちいちカッコイイんですよね。
ツカサ:愛らしいんだよ。
—こういうのはアツシが歌うのを意識して書くの?
ハマ:いや、歌詞は意識してないですね。メロディとかはこういう風に歌わせようかなってのはありますけど。
タイチ:僕は完全に意識してますね。
アツシ:花のくだりとか好きだね
ハマ:「薔薇の花が売られている」って面白いよね。
タイチ:The ROCKERSっぽい。
アツシ:「あ、これでいいじゃん!」っていう馬鹿さがね。
タイチ:3回言うってすごい。
アツシ:「これでいいじゃん」って小銭を握りしめて買うってね。浅はかだ(笑)。
タイチ:瞬間の情景が浮かびますね。
3.イカレたBABY
ハマ:これはタイチとの共作かな。
タイチ:歌詞はほとんどハマさんですね。リード曲作ろうって相談して作りました。ハマさんがAメロを最初に持ってたんですよね?
ハマ:で、タイチがBメロとイントロを持ってたんだ。
タイチ:それで、いいサビないかなって一杯やってたらできました。サビは、まるまる新しいものが出来たんでミラクルですね。
アツシ:ハマが書く男って「頭脳は子供・身体は大人」って感じがするよ。これも馬鹿な男だ。ロマンチックでいいよね。1番好きなのはBメロの歌詞だね。「夏の方にある君の海まで」。
タイチ:あれは名歌詞です。
ハマ:俺は自分が作った奴だからよく言えないけど(笑)。 歌謡は歌詞が大事だしね。
アツシ:「まだ二人はきっと若いけど」ってのも自分に言い聞かせてる感じがして好きだな。これは土方の歌だっけ?
ハマ:そう。土方の人が仕事終わって原付で帰る歌。
アツシ:夜のコンビニ沿いの道を走ってるような、そういう絵が浮かぶね。
ドン:僕は荒川土手が出てきます。
4.あそぼうよ
ハマ:これは練習曲だったんですよ。THE TOKYOでまだブギーとかブルースが全然わかってないからってことでやってましたね。
アツシ:俺たちは下手くそだから、流行ってるようなこともできないしスタンダードも出来ないんじゃ終わってるなってことになって。それこそリョータがいた時からやってますね。
ツカサ:落陽は別として、このアルバムでは1番古いですよね。
ハマ:だからこんなにライブでやるようになるとは思ってなかったですね。割と盛り上がるんですよね。
アツシ:「あそぼうよ」の一言で終わらせる感じがたまらないですね。AメロBメロでぐだぐだ言ってるんだけど、結局「あそぼうよ」で全部まとめちゃうんですよこいつは。最後の最後でまたぐだぐだ言うんですけどね。昔、付き合った女と久しぶりに会った時の、ちょっと通じ合ってるんだけど、もう歩んできた道も環境も違うから少しズレてしまってるっていう感覚は歌ってる時にいつもあります。そういう切なさ。
5.雨街BLUES
—これはハマかな?
ハマ:いや、違います。これは完璧タイチ、タイチらしい曲です。
アツシ:タイチはハードボイルドだからね。
タイチ:確かにハマさんは書かないかもしれないですね。でもこれは、僕なりにハマさんぽいなって思いながら書きましたよ。
ハマ:俺が書いたと勘違いされるんだよね(笑)。
アツシ:これは一番気持ちが乗ってるから、レコーディングの歌は時間がかかりましたね。
ハマ:「好きなようにしてやるさ」ってテーマ曲っぽいよね、俺たちの。
タイチ:近頃、社会に入ったり人間関係で内心すごいむしゃくしゃすることがあって。そんな時、兄と銭湯に行って「めっちゃ気持ちいいなあ」と思ってるときにサビが浮かんだんです(笑)。
ドン:知らなかった(笑)。
タイチ:「好きなようにしてやるさ お前が何を言おうとも」ってのを、自分がやってしまうことにすごいスッキリするんです。
アツシ:あくまでこれは私的なものではあるんですけど、その上でTHE TOKYOをちゃんと感じますよね。俺らは好きなことをやるけども、どうしても好きなようにやってるとうだうだ言い出す奴もいるし、本当うるせえなって。バンドに限ったことじゃないですけど、それをタイチは素直に歌詞にしたなと思いますね。
6.忘れちまいなよ
ハマ:大まかには僕ですね。
—この曲入りの「ハイッ」ってのは誰?
アツシ:僕ですね、遊び心です。
タイチ:この曲のサビは結構前にハマさんが持ってきてたもので、何かに使いたかったんですけどようやくこれで使えましたね。
ドン:そしてBメロの歌詞もカッコイイですよね。「今夜は任せなよ きっと見せてあげられるよ」って。こんなこと言ってみたいですよ。
アツシ:夏の終わりの感じがするよね。爽やかな風が吹く感じ。
—これもイイ曲だね。
アツシ:他の曲もそうですけど、こんな歌を書ける奴、俺は他に知らないですよ。だからこそ俺は書かないです、全幅の信頼はあります。
7.落陽
タイチ:これは…THE TOKYOになる前からある曲ですね。歌詞は兄です。
ハマ:特にサビがコダマっぽい。「遠く離れたら 届くわけないだろ」ってね。
タイチ:哲学的な感じ。
アツシ:THE TOKYOって別れの歌が多いんですけど、俺は人との記憶が別れぐらいしかないんですよ、物忘れが激しくて(笑)。 小学生も中学生もほとんど覚えてないんですよ、そういう体質なんです。
タイチ:本当に昔のことを全然覚えてない。
アツシ:たまに昔の友達と会って「そんな奴だっけ?」って聞かれるけど、俺もよく覚えてないから「こんな奴だよ」としか言えない。そういうのもあって、ずっと一緒にいるような奴じゃないと俺のことわかってくれないんじゃないかって思うんです。あとは俺の幸福論です。幸せって金太郎飴みたいなもんだと思っていて、どこで切り取るかじゃないかなと。で、俺はあくびをしている瞬間の君が好きだってのがあるんです。あくびをしている瞬間って誰も突っ込めないし、見ているしかない、時間が止まっているような感覚だと思っていて。君とあくびをするってことが一つの永遠だなって思います。
8.ベッドタウンブルース(ナイアガラ・フォーク・フェスティバルver.)
ツカサ:ボーナストラックですね。これはCDでしか聞けません。
アツシ:これはナイアガラ・フォーク・フェスティバルでやった時の音源だね。
—え、ライブ音源なの?
ハマ:違いますよ(笑)。
アツシ:いや、でもそういう体で(笑)。
—これはレコーディングの段階から違う録り方したの?
アツシ:いや、でもこれはそのフォークフェスティバルでダウンタウンブギウギバンドとかと一緒にやったときの…
—なにを言ってるの?(笑)
ツカサ:まぁ一発録りですよ。
ハマ:本当に一回しかやってません。
ツカサ:返しも何もなかったから、コダマさんの口を見て歌い始めを判断しましたね。
アツシ:これは俺とタイチの歌の掛け合いがいいよね。
タイチ:絶妙のバランスの悪さというか良さというか。
アツシ:そこがライブ感出てるよね。
タイチ:昔の音源を聞くと、こういう音質じゃないですか。そこに自分たちがいたらどれくらい戦えるんだろうって、聞いてみたいなあと思って。同じ土俵に立ったらどうなのかと。結果、結構イケるんじゃないかと(笑)。
ハマ:この曲は最初に持ってきたとき、タイチは反対してたよね。「こんなにフォーキーでいいんですか」って。
タイチ:こんな曲どうするんだろうって(笑)。
ツカサ:でもこの曲は長いことやってなかったですよね。しんじゅく族の初回の1曲目にやって、次にやったのが最終回のアンコールですからね。
ハマ:これが生き残ってるのは完全に50回転ズのせいですね(笑)。ドリーさんがすごい好きって言ってくれたんですよ。50回転ズが良いって言ってくれてるんだからこれは良い曲なんだろうってことで。
タイチ:50回転ズの裏付けは大きいです。
アツシ:これも良い歌詞だよね。
タイチ:ハマさんの書く歌のイメージってこうだよね。
アツシ:「忘れちまいなよ」も「イカレたBABY」も、一連のハマ節・ハマ抒情詩が効いてるね。
タイチ:セピア色越えて白黒なんですよ、ハマさんの歌詞って。最近はバンドのアレンジもあってカラフルに聞こえますけど。
—この曲もそうだけど、ミドルテンポの曲の説得力が増してきてると思うな。
アツシ:何をやるかじゃなくてどこまでやるかだと思うんですよね。想いの結晶をどれだけ届けられるかだと思うんです。俺らがたまたま好きでカッコよくやれるのがこういうものだったってことで、そういうのをいかんなく発揮したアルバムだと思いますね。これは、今だからこそ新しいスタンダードになるんじゃないかと。