ソロもバンドもすべてが上手く絡み合っている
──まさに音楽が国境を越えたということですね。
K:ヴィンスはマックショウの「リンカーン・コンチネンタル」を聴いて「すごくいい曲だね」って言ってくれてね。しかも、聴いてるポイントも日本人と変わらないんだよ。「『いつかBIGになってリンカーン・コンチネンタルを手に入れたい』って唄ってるの?」って訊かれたし、ちゃんと意味を分かってる。「リンカーン・コンチネンタル」って言葉しか分からないだろうけど、ニュアンスはしっかりと伝わってるんだよね。
──岩川さんのルーツ・ミュージックを辿る旅はこれで3回LAが続いたし、そろそろビートリーな部分を引き出すためにもイギリスへ行っていただきたいですね。
K:ぜひ行きたいよね。ロンドンには何度も行ってるのに、なぜかいまだにアビイロード・スタジオの前を歩いたことがないしね。イギリスは60年代にマージービート系のバンドが出てくる前にスキッフルが流行ったけど、それはロカビリーよりも起源が古くて、それこそ僕がコルツでやってたような音楽に近い。そこにケルト音楽の要素が混ざって、ある時期からポップスやロックンロールに突然変異してビートルズが生まれるわけじゃない? その一連の流れはちゃんと現地で拝んでおかなくちゃいけないよね(笑)。
──ソロとバンドの両輪があって、互いの経験をフィードバックし合う環境がいまの岩川さんには不可欠なんでしょうね。
K:まぁ、マックショウは常に革ジャンを着ていなくちゃいけないからだいぶしんどいけどね(笑)。でも、楽しくやらせてもらってる。音楽的にさまざまなアプローチをしながら自分自身も楽しんでいい音楽を聴いてもらうのはソロが一番だし、ソロのアコースティック・ライブも最初は頑なにソロの曲や『THE ROOTS』の曲しかやってなかったんだよ。だけどマックショウの曲をやるとすごく盛り上がるし、僕自身もやっぱりいい曲なんだなと改めて実感する。それはコルツの曲も同じで、アコギ一本とトミーのベースだけでもいい曲はやっぱりいいんだよね。そういう認識が強まってきたからこそ今回のアルバムが生まれたと思ってもらえれば話が早い。「ワンパイントの夢」みたいな自信作を作れたのもそんな経緯があったからだし、マックショウなしでは出来なかったはずだし、全部が上手く絡み合ってるんだよ。
──数年前に始まったルーツ・ミュージックを辿る旅が自身のキャリアにも波及しているのが面白いし、普遍的な音楽を継承していく理想的な形ですよね。
K:元々スカやレゲエのイベントをやってた知り合いが僕らの影響でブラジルやキューバの音楽を好きになって、そういうラテン音楽のイベントをやるので出ませんか? と誘いを受けたりするんだけど、そうやっていろんな音楽が脈々と受け継がれていくのは嬉しいよね。そのためにもルーツ・ミュージックの本場に出向いて、自分の五感を頼りにいろんなものを吸収するのは大事だと思う。
もっといい音楽を提供できるようになりたい
──ところで、今年の10月16日にマックショウがまた日比谷野外音楽堂でライブをやるじゃないですか。マックショウと野音と言えば、どうしても8年前の活動休止を思い出してしまうのですが、今回はどうなんでしょう?
K:解散も休止もしないよ。もうさんざん「解散詐欺」とか「ファイナル詐欺」って言われてるからね(笑)。ただ、野音が改修されるって噂がずっとあって、やれるうちにまたやっておきたくてさ。それでこの8年間クジを引き続けてきて、やっと当選したから今年はやれるようになったわけ(註:野音でのライブは抽選で決められる)。そしたら森ヤンから「野音が当たったよ」って連絡があって、モッズも野音でライブをやると聞いて。で、モッズとマックショウの両方好きなヤツも中にはいるから、いろいろ調整をして前後の日にちでライブをやることになった。8年前に野音でライブをやった時はすごく気持ち良かったからまたやりたかったし、お客さんもああいうライブを見たいだろうから定期的にやりたいんだけど、全然当たらなかったんだよ。
──なるほど、そういうことだったんですね。ただ何となく、今度の野音は第2期マックショウの節目なのかなと思って。
K:節目は節目だろうね。前回の野音で活動休止して、それ以降の集大成だろうと思ってるから。マックショウは14年間ずっと全力でやってきたし、この先60歳になっても全力のままやれるのかと言えばどうなんだろうとは思うけど、どういう形であれ続けていくべきだと自分たちは思ってる。もう多分やめることは許されないだろうしね。それはコルツも同じだけどさ。こうしてソロをやりながらいろんなバンドをやれるいまの状況はありがたいことだし、もっといい音楽を提供できるようになりたいね。せっかくこんな形で音楽に携わって生きてるんだから、いろんなことを吸収して音楽に還元したい。いまの時代、CDを買って聴いてくれるのはホントに音楽が好きな人だろうし、よっぽど音楽を好きな人じゃなければCDを買ってないじゃない? YouTubeとかでいくらでもただで聴けるんだから。その中でCDを買ってくれたりライブに来てくれる人に対して隙を見せられないよね。絶対に手を抜けない。この世界もいっとき手を抜いて安く作ったようなCDばかり乱発していたからリスナーが離れていったわけだし、いまはホントに手が抜けないね。今度の『ROOTS AND MELODIES』も作りはチープかもしれないけど決してインスタントじゃないし、ルーツ・ミュージックの本場で録ってきた音の重みがあると思う。自分もミュージシャンの端くれとして、ルーツ・ミュージックのように時代を超えて聴き継がれる音楽を作っていきたいよね。