Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューKOZZY IWAKAWA(Rooftop2016年5月号)

ルーツに根差した不朽のメロディは時代と国境を越えていく

2016.05.02

 ザ・コルツ/ザ・マックショウの顔役、KOZZY IWAKAWAこと岩川浩二のライフワークと言うべき異郷混血・温故知新セッションがいよいよ面白いことになってきた。ロックンロールの原産国であるアメリカはカリフォルニアで現地のミュージシャンと一緒に本場のルーツ・ミュージックの魅力を掘り下げる『THE ROOTS』プロジェクトの要素に加え、自身の全キャリアから精選したオリジナル楽曲を一緒くたにしてマリアッチ・スタイルをベースとしたアレンジで聴かせる試み──それが『ROOTS AND MELODIES』と題された極上のアンプラグド・アルバムとして結実。30年近くに及ぶ岩川の音楽人生を俯瞰できる本作を聴いて実感するのは、一貫して珠玉のグッド・メロディを紡いできたソングライティングの才、音のみで呼応し合う国境を越えたセッション・ワークの素晴らしさ、唄い継がれていくべき歌の存在感である。もちろん出色のラウンジ・ミュージックとして肩肘張らずに楽しむのが一番だが、「こんなにいい曲、忘れていませんか?」という岩川のメッセージを音の隙間から思わず汲み取ってしまう。消耗品には決してなり得ない音楽の醍醐味、人生に寄り添い心を豊かにするメロディは時代も国境も越えることをこの作品は教えてくれるのだ。(interview:椎名宗之)

自慢のオリジナル楽曲をマリアッチ・スタイルで

──全キャリアのレパートリーから精選・構成された作品というのは、いままでありそうでなかったですね。

K:ソロのライブではやってるんだけどね。最初は『THE ROOTS』の3枚目を作るつもりだったんだけど、コルツやマックショウの曲も含めたソロ作品を聴きたいというリクエストも多かったし、それならソロのライブみたいな構成でやってみようと思って。全部で20曲以上録ってみて、そこから最終的に15曲を選んだ感じだね。

──選曲の基準は、マリアッチ・スタイルのアレンジが合いそうな楽曲といったところですか。

K:今回はそうなんだけど、結局どの曲も合うんだよね(笑)。

──確かに。特にコルツの曲は今回のアコースティック仕様の相性がいいですね。

K:コルツはルーツ・ミュージックをごった煮にした音楽性だし、こういう編成でやるとやっぱり盛り上がるよね。向こうのミュージシャンも全然違和感なくプレイしてたし。

──『THE ROOTS』、『THE ROOTS 2』と同様、LAでレコーディングするのが今回も重要なポイントだったんですよね。

K:そうだね。『THE ROOTS』のシリーズみたいに向こうのミュージシャンと一緒にルーツ・ミュージックを演奏すればいいものが作れるのは分かってたから、今度は自分のオリジナル楽曲を持っていって聴かせて、一緒にプレイしてみたらどういう化学変化が起きるんだろうと楽しみにしてた。ただ日本語も分からないだろうし、コミュニケーションの部分で難しい部分もあるのかなと思ってたんだけど、すごくすんなり行ったね。

──マックショウのツアー『トゥイスティン・カーニバル』も春先までずっと続いていたし、渡米してレコーディングする時間がよくあったなと思ったんですが。

K:年明けから1月いっぱい向こうへ行って、ディスカッションやリハーサルを重ねた上でレコーディングしたんだけど、時間は全然かからなかった。今回はLAのダウンタウンにある「INAZUMA ROOM」っていう友達のリハーサル・スタジオを借りたんだけど、LAのリハーサル・スタジオって防音とかが何もされてなくて、ドアもまるで掘っ建て小屋みたいでさ。向こうでは単に四角くてだだっ広い空間を何でもスタジオって呼んじゃうのかな? と思ったんだけど(笑)。

──でも、天井が高くて音の鳴りはいいんですよね?

K:いいけど、隣りの部屋でメタル・バンドが演奏してたら大ごとだね(笑)。最初はそこでリハーサルしてからちゃんとしたレコーディング・スタジオに入ろうと思ってたんだけど、そこのリハーサル・スタジオの臨場感が良くてね。結局はレコーディングもそこでやることになった。だからリハーサルも含めてそのスタジオに20日間以上いたことになるのかな。ただ、スタジオの周辺は容易に外へ出られないような治安の悪い所でさ。昼間はタコスとかを売りに来る人もいるんだけど、夜になると外に出たら危険だって言われてね。川っぺりで電車の車庫があって、橋の下で人がたむろしてるような場所で、夜になるとそこで火を焚く連中がいたりして。

メキシコの民族楽器を使ったロックなアプローチ

──今回、バックを務めたミュージシャンはどんな面々だったんですか。

K:ハラナを弾いてるケン(モチコシ・ホーン)は数年前からの知り合いでね。一時は日本にいたんだけど、いまはザ・ブロンクスっていう向こうでは名の知れたパンク・バンドをやっていて、それと8割方同じメンバーでマリアッチ・エル・ブロンクスっていうマリアッチのバンドもやってるんだよね。何年か前にマックショウでLAに行った時にケンと仲良くなって、マリアッチ・エル・ブロンクスの音を聴いたらすごく格好良くてさ。

──同じメンバーで違うバンドをやるところも岩川さんたちと似てますね。

K:コルツとマックショウもそうだし、二毛作みたいだね(笑)。

──そういうマリアッチ・バンドのメンバーが脇を固めているから「ROCKA ROMANTICO」みたいなマリアッチ・スタイルの曲の完成度が高いわけですね。

K:今回は完全に本物だからね。僕はいろんな音楽が好きだし、ジャンルに縛られることなく“○○風”な音楽をずっとやってきたわけ。カレー風味のお菓子とか、広島風お好み焼きみたいなね(笑)。今回はケンがやってる本物のマリアッチをやりつつ、彼らのメキシコの民族楽器を使ってロックなアプローチをやってみたかった。ケンの使ってるハラナはマリアッチのギターなんだけど、すごく倍音のあるパーカッシブな音なんだよね。マリアッチにはドラムがいないし、パーカッションの役割をみんなが兼ねてるからなんだろうけど。で、ケンはマックショウや僕の曲が好きだからその場で弾いてくれるんだけど、ハラナで弾くマリアッチ・スタイルが予想以上に自分の曲と合うんだよ。

──ギタロンを弾いているヴィンス・イダルゴという方は?

K:ケンがウチのバンドのベーシストを連れてくるから、ってことで紹介されてね。ギタロンっていうのはギターのお化けみたいな楽器で、ロバート・ロドリゲスの映画とかに必ず出てくるバカでかいギターなんだけど、要はベースの音なわけ。ネックが20cmくらいしかなくて、フレットもない楽器でさ。ヴィンスのお父さんはロス・ロボスのボーカル(デイヴィッド・イダルゴ)で、お兄ちゃんはソーシャル・ディストーションのドラマー(デイヴィッド・イダルゴ・ジュニア)っていうミュージシャン一家なんだよね。今回は最初にコード進行がほぼ同じの「STOP THE TRAIN」と「リンカーン・コンチネンタル」の音合わせをしたんだけど、2回くらい聴かせたらヴィンスはすぐにギタロンを弾き出すんだよ。フレットもないし、チューニングがどうなってるのか僕には全然分からなかったけど、全部ノリなんだよね。ビールをガブガブ呑みながら弾いてたから(笑)。

──演奏に不可欠なガソリンなんでしょうね(笑)。

K:事前に日本のビールを用意しておいてくれって言われてたんでね。ギタロンはホントに不思議な楽器だった。言ったら、バイオリンとウッドベースの間みたいな楽器なのかな。一応6弦あるんだけど、3本は普通の弦が張ってあって、あとはレインボーカラーのヒモが付いてた(笑)。だから音はベロンベロン。スキッフルの洗濯たらいを利用したベースみたいなノリだよね。そんな楽器なのに、チューニングがぴったり合ってるからすごいなと思ってさ。譜面を読まないどころか、キーすら訊いてこないっていうのに(笑)。

──つまり音感がしっかりしているということですよね。

K:そうだね。音楽一家だからもちろん才能もあるんだろうけど、音感一発なんだと思う。

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マイクが少ないほどいい音が録れる

──アルバム全編にわたって冴えまくるハープは日本人の方なんですね。

K:仲村“TEX”哲也さんという生粋の日本人なんだけど、日本にいた頃はクールスっぽいバンドや横山剣さんのバンドでベースを弾いてたみたいで、途中でハーピストに転向してね。いつからか渡米してLAで活躍するようになって、世界的なファンク・バンドのWARに入ってワールド・ツアーに参加したり、バディ・ガイのバンドの一員になったりしたすごい人なんだよ。その昔、哲也さんがやってたレイカ&ザ・ウェイターズのCDを僕はたまたま持ってて、そのCDがビートルズのアコースティック・カバー集でさ。僕はそれがすごい好きで、当時から哲也さんのブルース・ハープは半端じゃないなと思ってた。

──本作でも、1曲目の「TEQUILA」から圧倒的な存在感を放っていますよね。

K:ハープって音階が限られてるのに、哲也さんは何でも吹けるのがすごい。「TEQUILA」のハープも実は音程が合ってないけど力技で吹いてるんだよ(笑)。それにキャリアの長い人だから、「じゃあ次はこの曲をやろう。サイズはこうでああで…」ってすぐにその場を仕切っちゃう。そういうミュージシャンシップに長けた人で、とにかく仕切りが的確で仕事が早い。僕がマイナー調の「I JUST DON'T UNDERSTAND」をやりたいってことで、マイク2本を立てて試しにみんなで演奏してみたわけ。マイクは僕の歌用に1本、部屋用に1本を用意して録音しながらね。演奏が終わると、哲也さんが「OK!」って言うんだよ。えっ、いまのでOK? って僕は思ったんだけど、「もう一度やってもこれ以上良くならないよ」って哲也さんが言う。「いまのがすごい良かったから、いいよこれで」って。で、録ったのを聴いてみたら実際にいいんだよね。マイク2本だけであの臨場感、絶妙なバランスだから。マイクの数が少ないからこそ音も回り込むし、もしかしたらマイクが少なければ少ないほどいい音が録れるのかもしれない。そうやって機材に頼るのではなく、部屋全体を臨場感のある雰囲気に持っていって音を鳴らすセッションだったね。

──各自が相当なスキルを持っていないと成し得ないことですね。

K:LAではパソコンで録って、帰国してからアナログ・テープに落としたんだけど、とにかく録るのが早くて向こうではテイクをちゃんと確認する暇もなくてさ。1、2回やったらすぐ呑みに行っちゃうから(笑)。

──向こうのミュージシャンはリハーサルをやりたがらないような印象がありますね。

K:やらないね。ケンは半分日本人だからやるけど。でも、真半分じゃないな。身長も2メートルくらいあるし、呑んだビールも12本じゃなくて12ケースだったからね(笑)。スケールも体格もでかいのに、弾いてる楽器はうんと小っちゃいっていうのがおかしかった(笑)。

──伊東ミキオさんのピアノとピロウさんのパーカッションは帰国後に足したんですか。

K:そう。後からダビングしてね。ミキオ君が弾いてる「無言電話」のピアノは、4年前にLAのサンセットサウンド・スタジオで一緒にレコーディングした時に弾いてもらったもので、本チャンに使ったのとは別のテイクなんだよ。それがテープに残ってて、聴き直してみたら、こっちのテイクのほうが良くない!? と思ってさ(笑)。本チャンでは全体のアンサンブルを考慮してベスト・テイクを選んだけど、ピアノ単体で聴くと、リラックスして弾いてるリハーサルのテイクがすごく良かった。それに合わせて唄いたいと思ったんだよね。ホントに素晴らしい演奏と音だったから。

 

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ROOTS AND MELODIES

FAMC-222
価格:2,500円+税
発売・販売:株式会社 KADOKAWA
Released by B.A.D RECORDS UNITED
2016年4月20日(水)発売

amazonで購入

【収録曲】
01. TEQUILA(Music & Lyrics:CHUCK RIO)
02. セドリック(Music & Lyrics:コージー・マック/original:THE MACKSHOW)
03. STOP THE TRAIN(Music & Lyrics:KOZZY IWAKAWA/original:KOZZY IWAKAWA)
04. COME ON, LET'S GO(Music & Lyrics:RICHIE VALENS)
05. ROOM NO.502(Music & Lyrics:岩川浩二/original:THE COLTS)
06. SAYONARA(Music & Lyrics:KOZZY IWAKAWA/original:KOZZY IWAKAWA)
07. MELODY(Music & Lyrics:岩川浩二/original:THE COLTS)
08. I JUST DON'T UNDERSTAND(Music & Lyrics:KENT WESTBERRY, MARIJOHN WILKIN)
09. リンカーン・コンチネンタル(Music & Lyrics:コージー・マック/original:THE MACKSHOW)
10. 涙のロンリー・ナイツ(Music & Lyrics:KOZZY IWAKAWA/original:KOZZY IWAKAWA)
11. NUMBER 9 TRAIN(Music & Lyrics:BOBBY ROBINSON)
12. ROCKA ROMANTICO(Music & Lyrics:岩川浩二/original:THE COLTS)
13. LONG WAY HOME(Music & Lyrics:KOZZY IWAKAWA/original:KOZZY IWAKAWA)
14. 無言電話(Music & Lyrics:コージー・マック/original:THE MACKSHOW)
15. ワンパイントの夢(Music & Lyrics:KOZZY IWAKAWA/original:KOZZY IWAKAWA)

LIVE INFOライブ情報

『ROOTS AND MELODIES』B.A.D オールスター スペシャル・ライブ
2016年5月22日(日)東京:原宿 ASTRO HALL
OPEN 17:00/START 18:00
前売 3,800円/当日 4,300円(共にドリンク代別)
出演:KOZZY IWAKAWA/TOMMY神田/YAMA-CHANG/伊東ミキオ/大島賢治/佐藤ナオユキ/AKIRA 他
問い合わせ:Zepp Live 03-5575-5170
チケットはぴあ、ローソンチケット、イープラスにて発売中
チケット販売協力店:原宿カウンターアクション 03-3423-8227

KOZZY IWAKAWA『ROOTS AND MELODIES』発売記念ツアー
5月7日(土)群馬:伊勢崎 GOLD RUSH【アコースティック・ライブ】
5月8日(日)栃木:宇都宮 POP GARAGE【アコースティック・ライブ】
5月14日(土)福島:白河 JACK & BETTY【アコースティック・ライブ】
5月15日(日)茨城:つくば cafe Puzzle【アコースティック・ライブ】
6月4日(土)佐賀:唐津 ROCK BAR THE ROOTS【アコースティック・ライブ】
6月5日(日)熊本:ONE DROP【アコースティック・ライブ】
……その他のライブも続々決定中! KOZZY一味とルーツ・ロックの旅をおご一緒に!

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