マージービートというロックンロール・クラシックのなかでもコアなジャンルを深く掘り下げ探求し続けるビート貴公子、ザ・ニートビーツ。60年代初期の英国・欧州で活躍した知られざるビート・グループたちのマニアックでクールな名曲を惜しげもなく詰め込んだ『MORE BEAT SIDE HITS』は、肩肘張らずにマージービートの真髄を楽しめる極上のカバー・アルバムだ。ロックンロールのマナーとエチケットに則り、国内最高峰のビンテージ機材を使ったこだわりのモノラル録音はますます時代と逆行するかのようだが、彼らは決して懐古趣味やノスタルジックに走っているわけではない。最もヒップな音楽として燦然と輝いていたロックンロールを現代に甦らせてハイファイなアナログの良さに新たな価値を見いだし、それを次の世代へと受け渡すこと。つまり温故知新ならぬ音故知新がニートビーツの本分なのだ。今や絶滅危惧種指定のマージービート、その灯を絶やさぬよう孤軍奮闘を続けるMr.PANこと真鍋崇に、自宅の地下にあるプライベート・スタジオ「GRAND-FROG STUDIO」で独自のロックンロール観を語り尽くしてもらった。(interview:椎名宗之)
オリジナル曲と同じくらい重要なカバー曲
──フル・アルバムの発表は『DANCE ROOM RACKET』以来2年3ヶ月ぶりですが、このタイミングでマージービートの源を辿るカバー・アルバムを発表したのはなぜなんでしょう。
真鍋崇(以下、M):2009年に出した『BEAT SIDE HITS』っていうカバー・アルバムの続編を出したくてね。レコーディングはちょこちょこやってて、溜まっていく一方で録ったのを忘れちゃうから、そろそろ出したかった。で、今年で結成19周年やから19曲入りにしようかなと。来年はこの調子で20曲入りにして(笑)。
──こうしたカバー作品はもはやライフワークみたいなものですよね。
M:俺らはもともと時代を先取りしたオリジナル曲を作って始まったようなバンドじゃないし、誰かのカバーをするという古典的なやり方…ビートルズやストーンズと同じ方式で始まったしね。ニートビーツはカバー曲もオリジナル曲と同じくらい重要なので。
──本作のライナーに「ザ・ニートビーツの歴史は1曲のカバーから始まり、今に至る」と書かれていますが、最初は何をカバーしたんですか。
M:サーチャーズの「EVERYBODY COME AND CLAP YOUR HANDS」(『BEAT SIDE HITS』に収録)。結成して初めてスタジオに入った時、まずはマージービートのバンドの曲をやってみようと思って。でもやってはみたものの全然上手くできなくて、「やっぱりサーチャーズって凄いな!」って話で終わった(笑)。
──本作には60年代初頭のイギリス、欧州のビート・グループが発表したルーツ・ミュージックの名曲から知られざる佳曲までが収録されていますが、誰もが知る有名曲は少ないですよね。これは意図したものなんですか。
M:当時のバンドって、シングルのB面曲こそが真髄みたいなところがあるじゃない? ミュージシャンズ・ミュージシャンみたいなバンドは、A面ではなくB面が気になるっていう。ビートルズ然り、当時のマージービート・バンド然り、「お前ら、この曲知らんやろ?」みたいな感じで自慢げにカバーしてたと思うんだよね。チャック・ベリーならあえて「JOHNNY B. GOODE」はやらずに、やるなら「BYE BYE JOHNNY」か「TALKIN' ABOUT YOU」でしょ! っていう感覚があった。そういうちょっと外した感覚が昔から面白いと思ってて、聴いたことのあるアーティストでも「あれ? この曲、どのアルバムに入ってたっけ? …そっか、シングルのB面にしか入ってなかったな」とか考えるのが楽しい。一般のバンドがカバー・アルバムを作るとだいたいヒット曲を網羅しようとするけど、俺らはそういうのが全然面白くないし、誰もカバーしてない曲をやりたい。あと、それをいかにも自分たちのオリジナルのようにやるのもけっこう大切かなと思って。
──レノン&マッカートニー作の曲でも「I'M IN LOVE」を選ぶところが本作の醍醐味ですよね。
M:ビートルズでも発表してない曲だし、ジョン・レノンがピアノで演奏してるデモが残ってるだけだしね。ビートルズそのものではなく、レノン&マッカートニーがフォーモストに提供した曲をあえてカバーするのが楽しい。
──当時のバンドマンはみな音楽マニアで、自分たちがいかに通好みな曲を知っているかを競い合う感じでカバーしていたんでしょうね。
M:そうそう。俺らの若い頃と感覚が近いって言うか。レンタルレコード屋が出来て、みんな先を越すようにいろんなレコードを借りまくってた時代と似てる。売れてる音楽は後回しにして、とにかく誰も知らへんような音楽を先に見つけてくるっていう。その優越感に浸りながら音楽を聴いてたし、それは60年代の若者とけっこう似てたんとちゃうかなって。
──収録曲がどれも孫引きみたいなのが面白いなと思ったんです。たとえば「AND I DO JUST WHAT I WANT」はジェームス・ブラウンがオリジナルだけど、ボ・ストリート・ランナーズのカバーをお手本にしているからJB感はまったくないじゃないですか(笑)。
M:そもそも日本人がジェームス・ブラウンの曲をやるにしても、とにかくやりにくいよね。完全に黒人向けの曲だし、日本人がどれだけ理解したふりをしても再現するのはムリで、誰かのジェームス・ブラウンのカバーを聴いたほうがジェームス・ブラウンの凄さを認識するのが早い。ワンコードの曲が多いし、初期は早めの曲も少ないし、良さがそのまま伝わりづらいと思う。それなら誰かがカバーしたものを参考にしたほうが分かりやすいし、そのことで自分たちもジェームス・ブラウンの凄さが分かる。何度もカバーすることでアレンジがどんどん冴えていくのは、やっぱりオリジナルが凄いんだなと思うし。