俺たちにはまだ可能性がある、まだやれるんだ!
──ロックの文脈を持つアイドルの楽曲はオマージュが随所に感じられて純粋に面白いんですよね。ゆるめるモ!のようにアルバム・ジャケットがロックの名盤へのオマージュになっているのも非常にくすぐられるところがありますし。
広重:今の40代の方たちがアイドルにハマるのは凄くよく分かりますしね。それと、80年代のインディーズ・ブームってあったじゃないですか。ラフィン・ノーズが新宿アルタ前でソノシートをばらまいてみたりして。あの時の感覚と今のアイドル・ブームが重なる部分があるんですよ。面白いバンドがインディーズ・シーンから次々と現れたように、今は面白いアイドル・グループが続々とライブハウスから出てくる。それぞれが違う個性を持っていて、独自の活動を展開している。それが80年代のインディーズ・ブームとリンクするところがあって面白いんですよね。あと、NMB48の木下百花さんが非常階段のことを好きみたいで、9月に僕らが出たDOMMUNEの番組を見てくださったんですよ。その件でツイッター上でご本人ともやり取りをさせていただいたんですけど、そういう地上波のテレビで活躍されているようなメジャーのアイドルにも僕らの遺伝子を受け継いだ方がいらっしゃるし、面白い時代ですよね。百花さんみたいな方が増えれば、今から33年ほど前に戸川さんがやっていたTOTOのウォシュレットのCMみたいなインパクトが地上波のテレビでも出てくると思うんです。あの戸川さんのCMは強烈なインパクトがあったじゃないですか。
──ありましたね。「おしりだって洗ってほしい」。
広重:いわゆるアンダーグラウンドなものが表にグッと出てきた感じがありましたよね。他にも、森田童子さんの「ぼくたちの失敗」がテレビドラマの主題歌になったり、坂田明さんがコックローチのCMに出たり(笑)、ああいうインパクトは一生忘れないものだと思うんです。メインストリームではないけれども、とてつもない影響力を与えますよね。だからCMやテレビの世界の人たちにはもっとアンダーグラウンドな人脈を活用していただきたいですね。
──メジャーな世界にマイナーという異物が混入した時の面白さってありますよね。
広重:ビートたけしさんの息子さんが広告代理店に勤めていらっしゃるんですけど、彼に一度、「灰野敬二さんをCMに使ってくださいよ」と話したことがあるんです(笑)。企画を出してもクライアントに通らないらしいんですけど。灰野さんはキャラが立っているので、ブラックの缶コーヒーのCMとか似合うと思うんですよ(笑)。それはともかくとして、非常階段やアルケミーレコードに影響を受けた人が今やアイドルに楽曲提供しているように、メジャーな会社の中枢でも僕らの遺伝子を受け継いだ方がいらっしゃると思うんです。そういう方がアンダーグラウンドなテイストをメジャーの世界に引っ張り込めば、もっと面白い世の中になる気がするんですよね。
──そんな可能性がある限り、音楽とノイズの未来は明るいと。
広重:明るく元気ですよ。この間、裸のラリーズの水谷孝さんから電話をいただいたんです。僕らが初音階段で参加したラリーズのトリビュート・アルバムの件で。水谷さんと電話で話したことのある人なんて聞いたことがなかったし、こんなに嬉しいことはなかったんですよ。それを誰かに言いたくて言いたくてたまらなくなって、思い切ってそのことをツイートしたら、「水谷さんはご存命だったんだ!」とか「もしかしてJOJOさんと一緒に何かアルバムを出すんですか!?」とか反響が凄くあったんです。水谷さんが僕に電話を1本かけてくださったことでもの凄く夢が広がるし、いつか何かの形でご一緒できるんじゃないかと、とても前向きな気持ちになれた。それと同じように、今回の一連のコラボ作品をこうしてメジャーから出せたり、いろんなアーティストと一緒に面白いことができるのは「俺たちにはまだ可能性がある、まだやれるんだ!」と思えて励みになるし、やる気のスイッチが入る起爆剤になりますね。
──裸のラリーズからあヴぁんだんどまで振り幅が極端すぎますけど(笑)、そんな芸当ができるのは、常に最新の音楽を提示している非常階段だけかもしれませんね。
広重:今はそうでしょうね。バンドとして、こうして作品まで生み出せるのは。コラボに限らず、リリースも凄く多いんですよ。テイチクさんでも6、7タイトル出しているし、非常階段単体もあればソロもあるし、海外での復刻とかまで入れると1年間で44タイトルも出しているんです。ということは、ほぼ毎週じゃないですか。年間のライブも50本はやっていますし。これだけアバンギャルドなことをやっていて、これだけのリリースやライブがあるバンドは他にいないと思うんですよ。
──40年近いキャリアのバンドが今が一番忙しいって、何だか夢がありますね。
広重:非常階段単体とコラボ形態では客層や反応が違うし、それも凄く面白いんですよ。今はものが売れない閉塞的な時代だと皆さんよく仰りますけど、僕らは逆に、こんなにいい時代はないんじゃないか? と思っているんです。昔はデモテープを作って郵送していたのが、今ならMP3のデータをメールで送るだけでいいし、スピード感がありますよね。それもたくさんリリースができる要因なんですよ。SNSを介して仕事のオファーができたりもしますしね。もちろんネガティブな部分もあるんでしょうけど、僕らにはむしろ凄くいい時代に思えます。そこを上手く活用して、もっと面白いことをたくさんやりたいですね。『咲いた花がひとつになればよい』で1曲実現しましたけど、稲川淳二さんとは単体で怪談とノイズのコラボ作を作りたいし、そこまで振り切ったもの、突拍子のないもの、エンターテイメント性の強いものとコラボしたほうが面白いのかもしれない。ノイズは言語でもなければ楽曲でもない、不定形なものだから何にでも合わせられるんです。極端な話、コラボするのは機械やオブジェ、食品や着衣だっていいと思うんですよ。「おむつ階段」とかね(笑)。