Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー戸川階段/あヴぁ階段/MikaTen(Rooftop2016年1月号)

音楽とノイズの未来は元気で明るい!

2016.01.04

あり得ないミクスチャー感覚がある今のアイドル

──あヴぁんだんどの名前が出たのであヴぁ階段の話に移りますが、あヴぁんだんどの運営スタッフや楽曲提供の方は非常階段やアルケミーレコードの大ファンだったそうですね。

広重:そうなんですよ。去年の6月に新宿ロフトで初めてあヴぁんだんどの曲を聴いて、ルー・リードやフレンチ・ポップスの要素があると気づいたんです。唄っているのは十代の女の子たちですけど、楽曲の背後に僕らがよく聴いてきた音楽のメロディ・ラインが見て取れたんですね。

──「Feedback Friday」にはルー・リードの「ワイルドサイドを歩け」へのオマージュと思えるパートがありますからね。

広重:そういうのが窺えると、スタッフの方とも自ずと話が弾むんです。よく聞けば、彼らはアルケミーレコードから出した花電車やメスカリン・ドライヴが大好きだった。そんな人たちがアイドルの楽曲に携わっているケースが今は凄く多いし、今一番尖っている面白い音楽のひとつはアイドルだし、その楽曲の隠し味として昔のロックから引用することが結構あるんですよ。この間もxoxo(Kiss&Hug)っていうプログレ・アイドルのライブを見させてもらったんですけど、ELPの「Hoedown」みたいな曲をやっていたんです(笑)。僕らはこうして分かりやすい形で異種混合をやっていますけど、今のアイドルは普通ならあり得ないようなミクスチャー感覚が自然にあるんですよね。原曲を理解している、理解していないはともかくとして、女の子たちは違和感なく唄っている。その意味ではロックとアイドルの垣根はだいぶ薄れて、かなり敷居が低くなっていますね。

──『あヴぁ階段〜恋のノイズ大作戦〜』には宇佐蔵べにさんのナレーションあり、東雲好さんのアコギの即興演奏あり、小日向夏季さんのノイズ演奏あり、星なゆたさんのドラムとボイス・パフォーマンスあり、ラップ・テイストやフレンチ・ポップスの要素のある楽曲ありと、実にバラエティに富んだ仕上がりじゃないですか。ノイズの世界の入口としても敷居は低いですよね。

広重:純粋にエンターテイメントとして楽しんでいただけたら有り難いんですけど、なゆたちゃんがやっている「五百四十万億那由他の肖像」と、あヴぁんだんどにスポークン・ワードをやってもらった「The Arrest Village Another」の2曲は凄まじくアバンギャルドな曲なんです。なゆたちゃんの曲は音楽の最新形態であり、アバンギャルドの極致だと思うんです。それを18歳の女の子がやっている凄さを感じるし、仮にこの曲を単体で取り上げたら、アイドルとのコラボだとは誰も思わないでしょう。世界的に見ても、アバンギャルドな音楽の中でも極めて高いクオリティだと自信を持って言えます。この曲で世界に向けて挑戦したいですしね。

──広重さんにそこまで言わしめるあヴぁんだんどの感性と技量は並大抵のものじゃないですね。

広重:特になゆたちゃんにはアーティスト志向があって、「あヴぁんだんどという形態にこだわらず、自分はアーティストになりたい」と何かのインタビューで仰っていたんですよ。だから、こうしたアバンギャルドなことをトライしていきたい気持ちが一番強いのはなゆたちゃんなのかもしれません。

──BiSともゆるめるモ!とも違う、あヴぁんだんどの特性とは?

広重:ひとつには凄くポジティブで明るいこと。BiSもゆるめるモ!もちょっと大人びていると言うか、実際の年齢以上のインテリジェンスが強いユニットなんですけど、あヴぁんだんどには弾けるような躍動感と満面の笑顔で飛び跳ねる感じがありますよね。ロフトで彼女たちのライブを初めて見た時はショックで、あんなにニコニコ笑っている女の子たちを見たのは初めてだったんですよ(笑)。最近のアイドルは総じてアーティスティックで、どこかすましているような印象があるんですけど、あヴぁんだんどはとても子どもっぽいし、純粋さとパワーがあるんですよ。その部分でアイドルの中でも頭ひとつ飛び出せるような気がしたんですね。アバンギャルドなことを一緒にやるにしても深く考えることはしないけど、考えなくてももの凄いところまで一足飛びに行ける期待があって、それは見事に応えてくれましたね。

 

記録して残すことが凄く大事

──当然ですが、コラボをする上でアイドルならどんなグループでも良いというわけじゃないですよね。

広重:もちろん。ライブを見させてもらって、こちらがビビッとくるような感覚は僕も美川さんも外れていないと思います。

──そのビビッとくる感覚の基準とは、既存の枠からはみ出してしまう個性みたいなものでしょうか。

広重:ありきたりなもの、普通の感覚からどうしてもはみ出さずにはいられない感じって言うんですかね。アルケミーレコードがずっとリリースしてきた作品はどれもそうだったし、アイドルという枠の中には到底収まりきらないものを持っている人たちに惹かれますね。BiSもゆるめるモ!もそれぞれ違うベクトルではみ出していたし、そこが面白かった。それでいて本来のアイドルとしてのポジションもちゃんとキープしているし、そんな本人たちの振れ幅や遠心力をこっちで引っ張り上げるともっと面白くなるんですよ。

──『あヴぁ階段〜恋のノイズ大作戦〜』はジャケット周りもだいぶはみ出しちゃいましたね(笑)。

広重:僕も身体を張ってかなり頑張りましたよ(笑)。大友英良さんとのコラボ作『NOISE JOIN INN』のジャケットがアシュ・ラ・テンペルの『JOIN INN』のオマージュだったように、非常階段のアルバム・ジャケットはどれも何かしらのアルバムのオマージュになっていて、今回のはチェイスを意識したんです。ただチェイスの『追跡』は地味なジャケットで、それをそのままオマージュしても何だかよく分からないので、僕があヴぁんだんどのメンバーに追いかけられていて最後に逮捕される設定にしたんです。「The Arrest Village Another」の“Arrest”は“逮捕する”という意味ですからね。曲のタイトルを略すと“AVA”(あヴぁ)になるんです。

──「The Arrest Village Another」は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのノイズ演奏、アレン・ギンズバーグやアンディ・ウォーホルの肉声が聴けるコラージュ作品『The East Village Other』へのオマージュなんですよね。

広重:そうなんです。『The East Village Other』は新聞の朗読とかフリー・ジャズとかがコラージュされたシュールな作品で、ヴェルヴェット目当てで買うと「何なの、これ!?」って面喰らうんですよ(笑)。全然理解できない内容なんだけど、当時のイースト・ビレッジのアンダーグラウンド・シーンを捉えた時代の記録ですよね。そのアルバムにヴェルヴェットの「Noise」というノイズ音楽の原点みたいな曲が収録されているのが象徴的で、それが僕らには響いたんです。あのアルバム自体のおかしな感じを「The Arrest Village Another」でオマージュできたし、個人的にも凄く気に入っているトラックですね。あヴぁんだんどの屈託のないお喋りの後ろでアバンギャルドなノイズが延々と鳴り響くというアブストラクトなコラボですよ(笑)。ゆるめるモ!とのコラボでも同じようなスポークン・ワードが2テイクほどあったんですけど、それは物語仕立てだったんです。今回は完全に意味をなくしたお喋りだったので、表現としてはさらに踏み込めたんじゃないですかね。

──『The East Village Other』が時代の記録だったように、アルケミーレコードも“記録するレーベル”だと広重さんは常々仰っていますよね。

広重:記録して残すことが凄く大事なんですよ。『The East Village Other』の「Noise」という曲だって、記録されていたからこそ50年近く経ってもなお聴くことができるわけで。アルバムを1枚残すことによって、僕らの想像以上の面白いところまで広がっていく経験をこれまで何度もしてきましたからね。今回のアルバムをあヴぁんだんどと非常階段のファンの方に届けるのは大前提ですけど、記録することでそれ以外の全然違うチャンネルに引っかかってくれたらいいなと思うんです。

 

アイドルとロックの融合は音楽の最新形態

──『あヴぁ階段〜恋のノイズ大作戦〜』と同時発売されるMikaTen(T.美川×テンテンコ)の『Angel Noise』はかなり正統派なノイズ作品だったのがちょっと意外でした。アイドルならではの要素を盛り込んだような、もっと変化球で攻めてくると思ったので。

広重:あヴぁ階段みたいにポップなものになるかと思いきや、完全にノイズ寄りですよね。ジャケットは凄くポップだと思いますけど(笑)。BiS階段をやった時に、BiSのメンバーと純粋にノイズのコラボをやりたかったんですけど、その頃はすでに解散に向けたスケジュールが凄くタイトだったんです。いろいろと調整していただいたものの、結局は実現しなかったんですね。特に美川さんはそれが心残りで、BiSが解散した後の各メンバーの活動をずっと追いかけているんです。まるで初恋の相手を引きずるように(笑)。

──DVD『私をノイズに連れてってLIVE!』にはテンテンコさんが広重さん、美川さん、坂田明さんとコラボした「JAZZ_TENKO」みたいな曲があったし、MikaTenの伏線はありましたよね。

広重:他のメンバーが別のグループを結成して活動している中で、テンちゃんだけフリーランスでアーティスティックなソロ活動を続けていて、ピットインのライブでやった美川さんとのノイズ・デュオも非常に良かったんです。それで、BiSの時に果たせなかったノイズのコラボをきっちりと記録に残しておきたいということで、MikaTenの提案を僕から二人にさせていただいたんです。テンちゃんはアーティスト志向なので、アイドル寄り、ポップ寄りよりもアブストラクトな方向で、その世界を美川さんが大事にして寄り添う形のコラボになったんじゃないですかね。

──インキャパシタンツ寄りでもないですしね。

広重:インキャパシタンツとも違う、二人ならではの世界ですね。テンちゃんのノイズは非常階段のメンバーにはいないタイプなんですよ。リズムボックスみたいな電子楽器を使われているし、バックグラウンドがオルタナティブな感じですし。

──出自は違えど、美川さんがライナーノーツで書いている通り、テンテンコさんが“こちら側”の人であることがよく分かる内容だと思います。

広重:ルーツが“こちら側”なんでしょうね。実はテンちゃんがBiSに入る前に対バンをしたことがあって、その時も「この女の子、凄くヘンな人だな」と思ったんです(笑)。だって、まるで小学生みたいな子がアブストラクトなことをやっているんですから。でも不思議なご縁ですよね。BiSの前からの知り合いで、BiS階段があって、今回もこうしてMikaTenとして関われるわけで。

──新宿ロフトも近年はアイドルのブッキングが多いんですよ。たとえばおやすみホログラムのバンド演奏をNature Danger Gangや箱庭の室内楽のメンバーが担っていたり、アイドルの楽曲や演奏をロック系ミュージシャンが手がけることも多いし、アイドルとロックの境界線がどんどん曖昧になってきていますよね。そんな時代が今の非常階段にとって追い風になっていると思うんです。

広重:こういうミクスチャーの在り方は日本だけだと思うんですよ。実は今、あヴぁんだんどを海外へ連れて行こうと画策しているんですが、ニューヨークのライブがなかなか決まらないんです。どうやらニューヨークにはアバンギャルドなものをエンターテイメントとして楽しむシーンがないらしくて。今の日本みたいにアイドルたちがロック主流のライブハウスに出てきた事象自体が特殊ですけど、それが音楽の最新形態だと思うんです。それに比べて海外は旧態依然としていて、ノイズみたいにアバンギャルドなことをやる女性アーティストはインテリで、活躍できる場はアートのシーンしかない。それは何十年も変わらないですね。海外ではあヴぁんだんどみたいに天真爛漫な女の子たちがアバンギャルドなことをやるのが理解できないだろうし、それをできているのが今の日本のライブハウスなんです。だからロフトさんがアイドルとロックを融合させたブッキングをされているのはもっと誇っていいと思いますよ。僕らも海外へ向けて「君たちは遅れてるよ。俺たちはこんなに先へ進んでるんだよ?」っていうのをどんどん提示していきたいんです。

 

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