Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー森 達也×平野 悠 〜2016年新春特別対談〜(Rooftop2016年1月号)

これからの日本に展望はあるのか?
私たちはどこから来て、どこへ行くのか?

2016.01.04

生まれた瞬間から死に追いやられる宿命

平野:では、このほど出版した本の話を。『人間臨終考』『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『チャンキ』、この3冊を読んで、全部つながっていると思いましたね。「人はなぜ死ぬのだろう、死後どこへ行くのだろう」っていう「生と死」が森さんのテーマな気がしました。『人間臨終考』では歴史に名を残した人の死に方を、ジョークを交えながらいろいろ考察している。その後の『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』は難しかったけど、好奇心で何とか読みきりました。これは凄く哲学的な話で、人はなぜ死ぬのだろう・人はどこから来てどこへ行くんだろう・私とは何だろうっていう3つを注視しました。「人は望んで生まれてきたわけじゃないのに生まれた瞬間から死に追いやられるという宿命」があって、「命は尊くも卑しくもない」、ただの自然現象だと痛切に感じました。

森:問い続けたところで絶対的な解は出てこない。でもあがきたいんです。

平野:僕の持論は、この世では誰一人死んだ経験がない、なのになぜ死を怖がるのか、と。絶対に分からないじゃないですか。多くの人は、死ねば何もかもなくなると思ってるでしょ。そんなことはないよね。

森:分かんない…僕はなくなるんじゃないかと思う…。

平野:意識は残るでしょ。残るよ! 意識は死なないよ!

森:結局、意識はさ、脳内の電位差や化学物質の受け渡しだから、脳が損傷したら性格も変わっちゃうじゃない? だから僕は、意識は残らないんじゃないかって気はしてます。

平野:でもたぶんでしょ? すべてたぶんだよねぇ。

森:それはもちろん。こう言いながら、今もお化けは怖いし。断言は絶対にできない。

平野:ところで、なんで森さんはこの『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』で、科学者にインタビューしようと思ったの?

森:彼ら科学者は理系でしょ? そこに敢えて、僕の文系の言葉をぶつけてみようと考えたんです。そうすると、これまでとは違う化学変化を起こすかもしれないって。

平野:なるほど。もう一歩進んで、哲学者や宗教家にぶつけてほしいって思うんだけども。科学者だけでなく。

森:ある宗教学者にはインタビューしたんだけど、後からカットしろって言われちゃって…でも悠さんの言う通り、あの本に宗教・哲学っていうのは必要だったと思う。

平野:そうでしょ。でも絶対そこに哲学や宗教が入らないと、命とか死後という問題はいい着地をしないと思う。

森:それは本当にその通りです。

平野:そうすると、より分かったって感じがすると思うんだよね。そしてね、またこの森 達也がもの凄く勉強してインタビューに臨んでいるわけです。僕も死とか哲学的問題はなぜか好きなんだよ。あと数回読まなきゃ私にとっては理解できない本だと思いました。たぶん僕はこの本を死ぬまで持っていると思う。

 

周囲の人がどんどん死んでいく『チャンキ』の世界は今の現実と変わらない

平野:さて、続いては『チャンキ』です。初の長編小説。チャンキって、森さんの犬の名前だっけ?

森:友人の猫です。昔、うちにもチャンキって名前の猫がいたけど、それはその猫のチャンキがいい名前だなと思って付けたんです。うちのチャンキのことをすっかり忘れてたな…。

平野:これはね、情景設定が凄いんだよ。突然日本でだけ、自殺が流行るんです。周りがどんどん死んでいくなか、自分もいつ自殺願望(衝動)に駆られるか分からない。そんな世界で主人公の高校生がどう生きていくか? っていう話。

森:主人公の17歳の男の子は、恋人の女の子にキスをしたい。できればセックスもしたいんだけどさせてくれない。周りはみんなやってるのに、いつ死ぬか分からないのに、なんで自分だけ童貞のままなんだ? って悩むんです。

平野:……そんな話じゃないでしょ!?

森:そう思ってくれて大丈夫。そこが主軸なことは確かだから。自殺願望と言うより自殺衝動ですね。しかも理由や根拠がまったくない。本人にもまったく制御不能。ウイルスか何かなのでは? と諸外国は日本をパージし、日本は呪われた国として逆鎖国状態なんです。もちろん産業は衰退し、日本人は海外旅行もできない。世界中から忌み嫌われていますから。そんな20年後の日本の話です。そこで高校生が何を思い、何を願い、何をするのか。

平野:面白くって一気に読んじゃったね、何なんだこれは!? と。よくこんな発想しましたね?

森:読んでくれた人の反応は、悠さんも含めて、凄く強いです。手応えがあります。藤沢の有隣堂って書店では、「21世紀を代表する圧倒的傑作!」という手書きのPOPを店員さんが作ってくれた。でも相当に分厚いから、なかなか手に取ってもらえないけれど、数ページ読み始めたら絶対に止まらなくなるって自信は絶対にあります。

平野:こうして生と死の問題について話しているわけだけど、『チャンキ』のなかでは目前の死が大きなテーマになっている。

森:癌を宣告されて生や世界への意識が変わるっていうのは聞く話だけど、僕たちだってあと数十年内に必ず死ぬ、でも普段はそのことから目を背けている。背けないと日常を維持できない。今日の最初の話にもつながるんだけど、嫌なことや苦しいことから目を背けすぎちゃいけないんだと思う。まさしくメメント・モリ、死は時折思い出さなければいけなくて、『チャンキ』の世界ではどんどん周囲の人が死んでいくけれど、それって実は今の現実とそう変わらない。そこに気づいてほしい。

平野:僕はもう、死に対する覚悟がなきゃヤバいって思ってるんだけどね。

森:悠さん、覚悟してるの? 今ここに(死が)来ても慌てない?

平野:慌てない慌てない。もういつ死んだっていいと思ってるもん。やり尽くしたって感じはあるね。全国に無数にあるトークライブハウスの礎を作れたって矜持があるからね。俺ってけっこうエラいじゃないかって(笑)。

森:それこそトークライブハウスが世界中に広がって、ガザ地区やシリアやアフリカでもどこでも、言論空間で戦う平和な世の中になったらいいな。

平野:僕も森さんの本を読んで小説を書きたいって思ったよ。

森:いま映画も新作を撮っています。今年の公開は決まっています。でも公開したら、また敵もたくさんできちゃいそうで…。

平野:森さんは、やっぱり凄いな。今春、ピースボードに乗るんですけど、森さんも一緒に乗りましょうよ。森さんが乗ってくれたら、とてもいい船旅になりそうだから。

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