2015年10月30日、ネイキッドロフトにて『せきしろスタディゲーム1』と題するイベントが開催された。バッファロー吾郎A氏が中心となり、A氏の他に出演者は、ザ・ギースの高佐さん&尾関さん、鬼ヶ島アイアム野田さん、しずる村上さん、そして今回のゲーム結果を判定するせきしろさん。A氏が提案する今回のゲームは、とにかくせきしろさんが好きそうなモノを演者がひたすら考え、それをカードゲーム形式にして対戦するという、考える側も観ているこちらもただただ温かく幸せな内容だった。そんな幸せライブのレポートを、A氏が書き上げた。これ以上に素晴らしいレポートはないほどのライブレポ、ライブを観れなかった方にも是非お伝えしたく思います。[text:鈴木恵(NAKED LOFT)]
バッファロー吾郎A先生による『せきしろスタディゲーム1』レポート
今回のレポートをイベント企画者である私、バッファロー吾郎Aが書かせていただくことになった。せきしろさんの好きなモノを考えるのは相当難しい。なぜならせきしろさんの好きなモノは大きく分けて二つあるからだ。それは『ユーモア』と『叙情』。この『楽しさ』と『切なさ』という、相反する二つをバランス良く配合することが優勝のカギであることは“せきしろチルドレン”と呼ばれるプレーヤーたちも十分理解しており、この配合に頭を悩ませ、本番5分前になっても皆カードが決まらなかった。ザ・ギース尾関を除いては……。
一回戦。流れを引き寄せたのは『スマホチャンスカード』を引き当てた村上だった。自分のスマホに入っている写真を見せることができる。村上はお兄さんの幼い娘とお姉さんと仲良く手をつないだ後ろ姿の写真を披露。せきしろさんの『叙情』の部分を巧みに突いてきた。しかし、次の尾関が場の流れを強引に自分に引き寄せた。
尾関『誕生日にマイケル・ジョーダンに年の数だけダンクしてもらえる』。せきしろさんと20年以上も付き合いのある私でさえ、せきしろさんがジョーダン・ファンであることは知らなかった。
せきしろさんがチョイスしたのは村上の写真。「大きくなったなと思って。村上のお兄ちゃんも好きだし、写真としていい写真だよね」。村上の勝利に観客が温かい拍手を送る。しかし、尾関に対するコメントで場内の空気が一変。「俺、マイケル・ジョーダン好きだって1回も言ってない」。会場から悲鳴が上がる。本人が言ってないのだから我々が知らないのも無理はなかった。
その前に尾関が出した『引っ越しのバイトが午前中に終わった』に対しても、「何とも思わないよ。すげー面白くないマンガの1コマ目」と厳しいコメント。しかし、尾関は二回戦で『未解決事件を布団の中で延々見続ける』でせきしろポイントをゲットし、なんとか汚名を返上した。
村上と尾関が1ポイントずつで休憩。休憩中の控え室はいつもの和やかな雰囲気とは違って殺伐としていた。その理由は高佐である。最近、ユーモア軍団内でメキメキと頭角を現し、『ユーモア軍団のタケノコ・ボーイ』と呼ばれる高佐にとって優勝は必須である。そしてその高佐のオーラに対して噛みつくように対抗していたのが村上だった。さすが『ユーモア軍団のマッドウルフ』と恐れられているだけのことはある。
二人の間に火花が散る。私はその火花にタバコを近づけ、一服しながら二人の様子を見守った。そんな我々に目もくれず黙って自分のカードとにらめっこをしている男がいた。その男の名はアイアム野田。ここまでの野田は『能代工業の生徒たち「ファンです!」』『知らない土地で深夜の散歩』『複雑な相関図』など、終始ゲームの趣旨に則った素晴らしいカードを連発し、せきしろさんから「野田君がやってることが一番正しい」と褒められていた。後半戦で野田が大爆発しそうな予感。ちなみに尾関はずっと頭を抱えていた。「開演前のあの余裕は何だったんだろう?」と思い返したら笑いがこみ上げてきたので必死に我慢した。
三回戦。尾関は「せきしろさんがこういう夢をよく見ると言っていた」という、『花火大会の次の日 土手を散歩すると大量のお金が落ちている』。野田はスマホチャンスを引き当て、『歯の抜けた高佐が笑顔で写っている写真』を披露。観客の反応が実に良い。野田ダイナマイト爆発3秒前だ。しかしココで野田は高佐の名前をド忘れしてしまう痛恨のミス。野田ダイナマイトは不発弾として処理されてしまった……。
バ吾A『転校生2 おれが喝であいつがアッパレで』
高佐『レベルをMAXまで上げて一気にクリアする』
村上『RITZの箱で作る獅子舞』
の5枚が卓上に並んだ。三回戦、せきしろさんがチョイスしたのは私のカードだった。せきしろ「転校生は良いよね。でも入れ替わった感じもしない。好きなんだよね、喝とかアッパレ。最近そればっかり言ってる…。レベルMAX、俺はやんないけど山ちゃんは完全にコレ。高佐コレいいカードだからさ、落ち込むなよ。RITZは共感がない。タバコの箱の傘は分かる。でもこれもいいカードだアッパレ!」
せきしろさんはいつも優しい。ユーモア軍団のタオルケットだ。しかし、せきしろさんは尾関のカードに対し、「こんな話したっけ? すげーつまんない四コマの4コマ目。尾関が尾関スタディやってるみたい」と、ココでも厳しいコメント。二人を見て清水アキラさんと淡谷のり子先生のやりとりを思い出した。
四回戦。遂にタケノコ・ボーイが伸び出した。
高佐『2012優勝 せきしろ 2013優勝 せきしろ 2014優勝 大江健三郎 2015優勝 せきしろ』
高佐「説明させてください。これは2014せきしろさんは出てないんです!」
バ吾A「何の大会ですか?」
高佐「以上です」
高佐は何の説明もしなかった。私は高佐の竹のように真っ直ぐな瞳を見て「(筍に「なぜお前は伸びるのか?」なんて聞くのは野暮か)」と、それ以上聞くのをやめた。高佐が伸びればマッドウルフが噛みつく。
村上『アイスコーヒーは見ている』。コレも全く意味が分からない。
バ吾A「なんですかこれは!」
村上「以上です」
村上の瞳もまた高佐と同じように真っ直ぐだった。「(狼に「なぜお前は噛むのか?」なんて聞くのは野暮か)」と、私は聞くのをやめた。
せきしろさんが選んだのは高佐だった。せきしろ「だってこれ、エアギター大会でしょ? こいつ(大江健三郎)はね、俺が出てない時に出たんだよ。そういう想像力を…。アイスコーヒーは想像力って言うか観に行かない邦画みたい。東中野でやってる(ような)。悪い映画ではないけど観には行かないかな…体調を整えていかないと」
高佐が筍から竹になった瞬間だった。ちなみにイベントが終了しても高佐と村上はカードの説明をしてくれなかった。
5回戦。
高佐『良かった! 朝5時だった!』
村上『霜柱ソール』
尾関はスマホチャンスを引き当て、『元広島カープの北別府さんがホースでスナイパーのようにちょけた写真』を披露。続く野田もスマホチャンスを引き当て、『耳をすませばのロケ地のロータリーの木の写真』を見せた。そして私は『せきしろ大百科シリーズ「せきしろボイス」岩をも笑わすせきしろの声はなんと1万ユーモアヘルツだ! お葬式にせきしろがいたら耳栓を忘れるな!』。これは自分の中で二番目に出したかったカードだった。カードが出揃い、せきしろさんが選んだのはなんと私のカードだった。
せきしろ「好きだよ、こういうのね。これはマナーがない人みたい。葬式で俺がずっと喋ってる。面白いって言われるのが一番いいわ。村上のもいいよね。野田君のもいい。野田君のやってることが一番正しい。高佐のもいい。コロコロコミックっぽい」
いよいよ最終決戦。最後は残りのカードから自分が一番出したかったカードを選んで出す。私は『死神が千利休を襲おうとするが大きな鎌がどうやっても茶室に入らない』。今日一番出したかったユーモアカードで勝負した。高佐は『「はたらくくるま」のすべての車に武田鉄矢が飛び出してくるというOPで始まる武田鉄矢単独ライブ』というユーモアカードで勝負。そして村上は『10年後に行こうとタイムマシーンに乗っていると10年後の自分とすれ違う』という、しずるコントの十八番でもある『叙情と時空』が見事に合わせた素晴らしいカード。尾関は『パチンコで勝ってすべての支払いを終えてまだ3万円残っている状態』という、まさに尾関にしか出せないクズ野郎カード。
そしてなぜか野田が泣きそうになっている。なぜだか分からない。野田は涙を堪えながら「せきしろという人間を考えた結果、コレだああああ!」とカードを卓上に叩きつけた。そこには『スカイダイビング』とだけ書かれていた。
野田「大声も出せるし、広大な景色も観れるし、解放感もあるし」
私「野田さん経験は?」
野田「ないです。パーケンもやってない」
ここでキンコメ高橋は関係ない。そして、スタディシリーズでやってないことをプレゼンされたのは初めだった。だが、野田のアツい気持ちは十分に観客にも伝わっていた。
泣いても笑ってもこれで最後。せきしろさんは少し悩み、
「死神だね」
私の優勝が決まった。第一回せきしろスタディは私の圧勝で幕を閉じた。
今回、私は万全の態勢で臨みたくてすべてのカードを前日に書き上げた。でも当日になるとやっぱり不安になって、私はネイキッドロフトに早めに入ってカードの内容を見直すことにした。
考え始めて10分くらい経った頃、私が東京に来たばかりの頃のせきしろさんとの思い出を急に思い出した。それは数年前の正月明けに私とせきしろさん、藤本、カニ先生の四人で一泊二日の草津温泉旅行に行った時のこと。温泉を楽しんだ次の日、藤本とカニ先生は仕事のため先に東京に帰り、私とせきしろさんは旅館から歩いて15分くらいの所にイチロー記念館みたいなのがあったので、そこに行くことにした。
昨日の深夜に雪が降ったらしく、車道の路肩には雪が積もっていた。歩道がないので仕方なくそこを歩いた。関西出身で雪道に慣れていない私は、車が激しく通り過ぎゆく横をおそるおそる歩いた。せきしろさんは北海道出身なので雪道をどんどん進んでいった。私は滑ることにビビりながら下ばかり見て歩いた。たまに前を見ると、せきしろさんが待っていてくれた。そんなことを何度か繰り返しているとせきしろさんが、
「俺の足跡を辿って行けばいいよ」と言ってくれた。
それでもの凄く安心して、ちょっとだけ私の歩く速度が速くなった気がした。「今の自分ってあの時の雪道に似てるなぁ」と思ったら泣きそうになった。
東京に来て良いことなんてそんなになくて、神戸に帰ること、時にはそれ以上のことを何度も考えた。でもそれを踏みとどまらせてくれた大きな存在のひとつにユーモア軍団がある。野田と尾関はずっと面白くてファンだし、最近の高佐や村上の急激な成長は眺めていて本当に楽しい。この感覚は、大阪で仕事がなく草野球ばっかりやっていた頃に似ていて心地が良い。あの頃はコバやザコシやコヤブや友近がいた。
東京に来て私に居心地の良い遊び場を与えてくれたのはせきしろさんだ。仮に、もし仮にせきしろさんが北海道に帰ることになったら(帰って欲しくないけど)、足跡がなくなってしまうので、ユーモアは辞めないけど、芸人という仕事には固執しなくなると思う。芸人でなくてもユーモアなことはいくらでもできるからだ。
ただ、キョンキョンが「芸人を辞めちゃダメ」って言ったら絶対に辞めない。
ユーモア軍団はキョンキョンの次に大切な存在だ。(text by バッファロー吾郎A)