2014年12月、男性として史上初のアダルトDVDメーカーとの専属契約を結んで話題を呼んだ、ノンホル(女性ホルモン未使用)&ノンオペ(未工事)の元"男の娘"AV女優、大島薫。今年の6月にAV女優を引退し、タレント・文筆家としてより広い世界に挑戦していくことを発表したのは記憶に新しい。そんな彼(女)の最初の決意表明として、生い立ち、女装すること、考え方、生き様などが赤裸々に綴られたフォトエッセイ集『ボクらしく。』が8月18日に発売された。この本の発売を記念して、ロフト系列のトークライブハウス4店舗を制覇するトークライブ・ツアーの開催が決定。オネェでもなく、女の子になりたいわけでもない大島薫の未来はどっちだ!? 『ボクらしく。』の編集を手がけた井戸隆明とともに話を聞いた。[interview:野口結生(LOFT/PLUS ONE)&白井絢介(LOFT PROJECT)]
自分の半生を嘘偽りなく正直に書いた
──初のフォトエッセイ集『ボクらしく。』が発売されたばかりですが、一冊書き上げたいま、どんな思いがありますか。
薫:自分の生い立ちや考え方、生き様などを赤裸々に書かせてもらったんですが、自分の半生を振り返ってみるといろいろあったんだなと思いましたね。それを波瀾万丈だねと言う人もいれば、平凡だねと言う人もいるでしょうけど、今までの人生に起きた出来事を嘘偽りなく正直に書いたつもりです。本の冒頭から本名まで書いてるくらいですからね。
──インパクトのある表紙の写真と、「こう見えても100%男子です。」という帯のコピーが冴えてますね。
薫:帯に関しては、ボクはノータッチなんです。その辺は井戸さんにお任せで。
井戸:こうしていい本を仕上げた以上はしっかりと売りたいし、固まったターゲットに対して堅く売るのが課題なんです。編集者としてのこだわりよりも売るのが優先で、帯は格好いいことよりも広く伝わる、引きのある言葉を連ねることにしたんですよ。
薫:あと、「Twitterフォロワー数10万人。オネェでもなく、女の子になりたいわけでもない、元“女装男子”AV女優の赤裸々フォト&エッセイ」って言葉も小さく入っていて。
井戸:この本を作ろうとした時の薫ちゃんのフォロワー数は9万6千人くらいだったんだよね。発売が近づく頃に10万人になるかなと思っていたら、意外と早く達成したね。
──フォロワーを買ったわけじゃないですよね?(笑)
薫:そんなことしませんよ(笑)。フォロワー数が本の売上に連動するとは考えていましたけど、目先のフォロワー数を闇雲に増やしてもしょうがないし、ボクに興味を持ってくれて、なおかつボクのことをちゃんと理解してくれているフォロワーを増やしていく努力を本が出るまで続けたんです。
井戸:そう言えば、薫ちゃんがAVを引退した頃に「本が出るまでにフォロワー数を8万人に増やします」って言ってたのを思い出した。本が出る前にそれを有言実行していたんだから凄いよね。
──AVを引退してからフォロワー数が増えましたか。
薫:辞めたから増えたってことは全然ないです。ある程度見られることを意識したツイートをしていった結果じゃないですかね。AVを引退したことも、実はまだそれほど浸透してないんじゃないかと思ってるんです。エゴサーチをすると、ボクのことをまだ現役の男の娘AV女優だと思ってる人のほうが多い気がするんですよ。
井戸:ヘンなbotみたいな、エロ画像の定期ツイートとかもけっこうあるよね?
薫:ありますね、完全にアフィリエイト目的のやつが。しかも、最新作をどんどん更新していくならまだしも、ずっと放置されっぱなしで同じ作品ばかりが投稿されてるんですよね。でも、そういうbotみたいなものがいくつもあるということは、ボクの画像を載せることで多少なりとも儲かると判断した人がいるってことだし、自分のやってきたことが少なからず認知されてるってことなんだと思ってます。
──『ボクらしく。』を制作する上でこだわったのはどんなところですか。
井戸:本文を部分的に強調するために太字にしてあるんですけど、それはそこだけ拾って読んでもいいように意識したんです。文章量はけっこう詰まってるんだけど、読みやすさにはこだわりました。
薫:本にも書いたんですが、最初は全然文章を書くつもりがなかったんです。AVを見ない層にも見られる本を作りたくて、「写真集はどうですか?」と井戸さんに企画を持ち込んだんですよ。でも写真集よりもみんなが興味を持ってくれるもの、読み応えのあるものがいいんじゃないかとアドバイスをもらって、フォトエッセイという形にしたんです。で、いざ書いていったら、結局は200ページを超える文字量になっちゃって。
井戸:フォトエッセイと言っても、よくあるタレント本みたいな感じにはしたくなかったんです。巻頭に載せた写真はすべてセルフポートレイトで、薫ちゃんがプロデュースしているんです。いつも自撮りがツイッターで話題になってるから、その世界観はこの本にも活かしたかったんですよ。カメラマンを用意してこっちで撮るのではなく、カメラマンはあくまでサポートの機材として薫ちゃんに使ってもらって、撮影場所もセッティングもすべて薫ちゃんに考えてもらうことにしたんです。
怒濤のロフト系列4店舗縦断トークライブ・ツアー
──この『ボクらしく。』の発売を記念して、新宿ロフトプラスワン、阿佐ヶ谷ロフトA、新宿ネイキッドロフト、大阪ロフトプラスワンウエストと、ロフトプロジェクトが運営するトークライブハウス4店舗を制覇するトークライブ・ツアーが開催されることになりましたが、ロフトプラスワン以外は豪華なゲストが発表されましたね。
薫:ゲストに関しては「こんな人どうですか?」とボクが候補を挙げたんですけど、いつも最終的に決まる直前に教えてもらうので、ロフトプラスワンのゲストはボクもまだ知らないんですよ。誰になるのか楽しみですね。
──他の店舗のゲストは、過去に対談したり会ったことのある人たちなんですか。
薫:直接お会いしたことがあるのは、ロフトプラスワンウエストに出ていただく佃煮のりお先生だけですね。以前、阿佐ヶ谷ロフトAで行なわれた先生のトークライブにボクがお呼ばれしたんです。先生もずっと『ひめゴト』という男の娘漫画を連載されてて、その連載が始まった頃は男の娘ブームがちょっと下火だったんですよ。ちょうどボクがAVをやり始めた時期と被ってて。先生は先生でいろいろと大変な時期を乗り越えながら男の娘を広めていった方だし、先生なりの男の娘観を改めてお聞きできたらいいなと思ってます。ネイキッドロフトに出ていただくファーストサマーウイカさん、阿佐ヶ谷ロフトAに出ていただくしみけんさんとは直接お会いしたことがないんですけど、どんな話ができるか楽しみです。
──ファーストサマーウイカさんにはどんな印象を持っていますか。
薫:ウイカさんは、先にツイッターでフォローしていただいたんですよ。ボクがハマジムさんのDVDに出た頃の話なので、おそらくハマジムさんのつながりだったんじゃないですかね。ボクが撮ってもらったのは梁井一監督なんですけど。ウイカさんはやっぱりBiSのインパクトが凄かったですね。『ゴッドタン』で「ちょっと変わったアイドル・グループがいる」みたいな触れ込みでBiSが出ていたのを見たんですけど、ただの色物だったらあんなに話題にならなかったはずだし、それぞれのキャラクターが魅力的でブランディングがしっかりしていたんだと思います。ウイカさんはいま別のグループで再出発して、ボクもいま男の娘AV女優を辞めてタレントとしてやっていこうとしてる段階なので、「今後どうしていくのか?」という自分がよく訊かれることを逆にウイカさんに訊いてみたいですね。
──しみけんさんはどうですか。
薫:男の娘AV女優の現役だった頃にお会いしたことはないんですが、しみけんさんはニューハーフさんのAV女優さんと絡んだことがあったので、共演する機会が全くなかったわけではないと思うんです。ずっとタイミングが合わなかったので、今回ようやくお会いできるのが楽しみですね。実はしみけんさんってクイズとかもお得意らしくて、地頭がいい方だと思うんですよ。
──ちょうどいま、うんこ味のカレー屋を期間限定でオープンさせて話題ですよね。
薫:よく「カレー味のうんこ」と「うんこ味のカレー」のどっちがいい? みたいな質問があるじゃないですか。それを聞いていつも思うのは、「うんこ味のカレー」はすでにうんこじゃないか、ってことですね。
井戸:じゃあ「カレー味のうんこ」はカレーなの?
薫:カレーですかね、ボクの中では。固まってたらちょっと微妙ですけど(笑)。
──しみけんさんをゲスト候補に挙げたのは井戸さんだったそうですね。
井戸:しみけんさんも5月に本(『AV男優しみけん 〜光り輝くクズでありたい〜』)を出したばっかりだし、薫ちゃんと共通項があると思ったんですよ。
薫:AV業界から本を出すと言えば、紗倉まなちゃんもそうで(『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』)、ボクとしみけんさんと紗倉まなちゃんの本の写真を一緒にネットに上げてる人もいて、同じ一角に並んでるみたいですけど、切り口は3人とも違うと思うんですよ。ましてやしみけんさんは男優さんですしね。トークライブでは男優と女優の視点の違いみたいなものもしみけんさんに訊いてみたいです。井戸さんは、ボクの本を作る上でしみけんさんの本を意識したりしたんですか?
井戸:ファン層が違うからね。薫ちゃんのファンは若い女性が中心だから、その層に受けるためにデザインはポップな作りになるようにこだわりました。デザインがダサいとイヤだろうなと思ったし。