「俺のベストは今なんだよ」と言い切る潔さ
──それだけ爽快な曲調にも関わらず、歌詞は「土砂降りの中を走ってゆけ/記録を塗り替えるんだ 今日こそ」とじたばた足掻く泥くさい感じなのがAFOCらしいですよね。
佐々木:自分の偽らざる気持ちをストレートに書こうと思ったら、その冒頭のフレーズが浮かんできたんですよね。「ベストライド」って言葉は、たとえば「武豊の今年のベストライドはあのレースだ」みたいに使う和製英語なんですよ。それをワンワードにした「bestride」という英単語だと、「またがる、馬乗りになる」という意味になる。それと、「虹がかかる」というもうひとつの意味があるんですね。歌詞の中に「虹」という言葉こそ使わなかったけど、俺の中では虹がかかった青空の下を駆け抜けていくイメージが出来上がっていたんです。
──「俺のベストは今なんだよ」という力強い一言に、過去を振り返らず、常に前を向いて突き進んでいくバンドの信条が見て取れますね。
佐々木:「I LOVE YOU」とか「FUCK FOREVER」とか、はっきりした言葉を言い切るバンドだと思っているので、今このタイミングで「ベスト」という言葉を使いたかったんですよね。
──「YES」という曲もそうですよね。どれだけ辛酸を舐めても何度でも立ち上がる、何度でも始める、「YES」と肯定するんだという歌で。
佐々木:今回の6曲の歌詞に関しては、ちゃんと言い切ることが大事だと思って。「YES」は最初、「答えてくれ」という歌詞しかなかったんだけど、3番でメロディを変えてでも「辿り着ける場所がある」「叶えられる夢がある」まで言い切りたかったんです。
──「YES」はAFOCの正調ナンバーと言うか、一番スタンダードなAFOC節が効いた曲ですよね。
佐々木:そうですね。だから歌詞には「旅人」や「道化師」、「探検者」や「亡霊」といった過去の曲の登場人物が出てくるんです。
──亮介さんのソロと言ってもおかしくなさそうな、アコギとピアノだけで唄われる「Trash Blues」を収録したのはどんな意図があったんですか。
佐々木:アルバムに軽さを出したかったからですね。3人になったばかりだから3人で演奏したほうがいいんじゃないかと悩んだんですけど、『GOLDEN TIME』に入っていた「Party!!!」でピアノを弾いてもらった山本健太さんに今回もお願いしたんです。俺の弾き語りの活動も結局はAFOCに還ってくるためのものという意識があるし、この曲はあえて俺が一人でやるのはどうだろう? と姐さんとナベちゃんに聞いたらOKしてくれたんです。それも信頼関係があってこそなのかなと思って。
HISAYO:「Trash Blues」は純粋に凄くいい曲でしたからね。最初に「ベストライド」と「リヴェンジソング」を聴かせてくれた時も「これは行ける!」という手応えを感じたし、亮介君の中で先のヴィジョンが見えていたから今回は凄くやりやすかったです。アレンジはけっこう最後のほうまで時間がかかって、「One Shot Kill」はアレンジの詰めをしたまま録ったんですよ。カチッと決まったものを録るわけじゃなかったので、その場の勢いをパッケージできたところはありますね。今の精神性や魂をそのまま音にすればどの曲も絶対に大丈夫だという自信がありました。
──拭えぬ痛みを抱えたまま自分にしか唄えない歌を唄っていく、そして「借りは返すぜ」と堂々と唄い切る「リヴェンジソング」を聴いて、AFOCはまだまだ行ける、バンドの“GOLDEN TIME”はこれからなんだという強い確信が持てたんですよね。
佐々木:夢を見るならそれを叶えなきゃいけないし、何かに立ち向かう、闘っていく以上は「絶対に勝つんだ!」と信じるかどうかでだいぶ結果が変わってくると思うんです。だから今回は、今までなら書き切れなかったことも断定の言葉で言い切りたかったし、みんなにどんな景色を見せたいのか? ということをちゃんと書き記しておきたかったんです。「リヴェンジソング」なら“リヴェンジを誓う行為”を歌詞にしたかった。あと、これは余談なんですけど、「リヴェンジソング」は俺たちの新旧マネージャーの思いを込めた裏テーマがあるんです。前のマネージャーはリヴェンジ精神の塊みたいな人で、AFOCでリヴェンジを果たせなかった思いがあるだろうから、この先を見ていて下さいと。そんな気持ちも込めたつもりなんです。それと曲調に関しては、「ホットチョコレート」みたいなハチロク(8分の6拍子)のリズムでテンションを上げていくのはどうかと今のマネージャーからヒントをもらったんですね。そんなふうに、自分たちの周囲を取り巻く新旧のスタッフが与えてくれたことを融合してみたんです。
渡邊:ああ、確かにそんな仕上がりになってるね。
──「リヴェンジソング」みたいにバンドの覚悟を歌詞に込めつつも軽やかな曲調のショート・チューンでアルバムのエンディングを飾るのも粋ですよね。
佐々木:アルバムの最後を「心臓」みたいなスケールの大きい曲で締めるのではなく、「リヴェンジソング」のような軽快な曲で締めることによって次の一歩を踏み出す意志表示ができると思ったんですよ。
これから先はいい事件ばかり起こしたい
──確かに「心臓」は本作の重要なパートを担う大作ですよね。
佐々木:大きな場所で音を鳴らすイメージで、広がりのある音作りをしたかったんです。だからパンニングの位置やギターの鳴りも凄くこだわったし、ベースとキックの音は心臓の鼓動のイメージだったり、ひとつひとつの音にそれぞれ意味を持たせて録ったんですね。ずっと面倒を見てもらっているエンジニアの(杉山)オサムさんと培ってきたものを形にできたと言うか、俺が何となく投げた言葉でもオサムさんがちゃんとそれを拾って音にしてくれたし、そんなキャッチボールができたのは10年間共同作業をしてきた関係性があったからこそだと思うんです。
渡邊:いい音が録れたよね。リズム録りはスタジオインパクトじゃなくてグリーンバードだったんですけど、広いスタジオでゆったりとしたテンポを叩くのは初めてだったんですよ。それも自分なりの挑戦でしたね。
HISAYO:「心臓」はミックスの最後までベースの音をこだわらせてもらったんですよね。文字通り心臓の音をベースで出したかったし、シンプルでいい音にしたかったんです。壮大な感じも出したかったし。
佐々木:姐さんは「心臓」のミックスにもの凄くこだわっていたんですよ。珍しくズバッと「今のミックスのまま行かないで!」とメールをくれたりして。
HISAYO:「『心臓』、ちょっと待って!」って(笑)。
渡邊:ちなみに「心臓」のBメロには、石井(康崇)が抜けた頃に俺と亮介が作った断片が使われているんです。その断片が曲になるのをずっと待ち望んでいたので、その1ピースがようやくハマったのが個人的には嬉しいんですよ。
──「心臓」はあらゆる事象の諸行無常をテーマにしつつも、新たな生命の誕生を描写することで再生に希望を見いだしていますね。その様も今のAFOCの姿と重なる部分があると思うんですよ。
佐々木:曲としてはバンドが次のステージに行くところを見せたかったし、それは成功していると思うんです。曲のスケールが大きくなればなるほど歌の現実感が薄れていくのがイヤで、歌詞は徹底して身近なものにしたんですよね。それで、産まれたばかりの甥っ子を抱きしめた時のことを書いたんです。身体が熱くて、抱きかかえているだけで脈打っているのが伝わってきたことを。その時、仙台に住んでいた婆ちゃんが地震で家がダメになって、足も悪くなったので東京に来ていたんですよ。甥っ子とその母親である俺の妹、婆ちゃん、俺が同じ場所にいて、自分のルーツとこの先の未来をまとめて見れた気がしたんです。と同時に、甥っ子が産まれる一方では世界のどこかで誰かが死んでいるのを考えたし、目の前にある小さな命が世界中とつながっているのを感じたんですよね。
──ところで、新体制のライブでは元The SALOVERSの藤井清也さんがサポート・メンバーとして参加していますよね。
佐々木:初めて年下を入れたんですよ。サポートとは言え、これで平均年齢を下げちゃいましたね。逆に平均身長は上がりましたけど(笑)。
──(笑)どんな経緯でサポートになったんですか。
佐々木:清也君が十代の頃に北海道で対バンしたことがあったんです。SALOVERSのことはそれ以前からずっと好きだったけど、彼はその中でもいい意味で浮いていたんですよ。あんなに青春の塊のようなキラキラしたバンドの中でシブいフレーズを弾く、濃い顔のヤツがいるなと思って(笑)。北海道のライブの打ち上げで「どういうバンドが好きなの?」って訊いたら、クリームとかジェフ・ベック・グループとか、AFOC本来のルーツと凄く近いバンド名が挙がってきて面白いなと思っていたんです。あと、大さんがクリープハイプの音作りの手伝いをしていた時にSALOVERSを見て、「亮介、面白いギタリストがいるぞ」って清也君を推してくれたこともあって。その後、清也君が曽根さんの弟子になったりして、数奇な運命を辿って俺たちのサポートをやることになったんです(笑)。
──藤井さんを選んだポイントはどんなところだったんですか。
佐々木:何人かとセッションを重ねた中で清也君だけが唯一の年下で、音楽的な知識の部分はこれからだとしても、未来や希望を俺たちに抱かせてくれたんですよ。今は彼をめっちゃ鍛えているんですけど(笑)、そういうのも凄く新鮮だし、一緒に音を出すのが楽しいですね。彼は曲のフレーズを付けるセンスも凄くあるので。
HISAYO:それは私も思ってた。こんな引き出しもあるのか! と思ったし。
佐々木:俺の好きなチョーキングのクセが、言わなくても出てきたりするんです。そういう資質は今までのサポート・ギタリストの中で一番近いかもしれない。
HISAYO:何も言わなくてもセンスが近いし、こっちも素直にいいと思えるものを持っているんだなと思って。
佐々木:普段無口な分、ギターで会話しようとするタイプなんですよ。ライブは清也君を入れた4人でガンガンやっていくつもりです。3月にネガティブな事件があったので、これから先はいい事件ばかり起こしたいですね。