Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューa flood of circle(Rooftop2015年6月号)

最新作『ベストライド』に刻み込んだ不退転の決意と覚悟

2015.06.01

 a flood of circle(以下、AFOC)の最新作『ベストライド』は全6曲収録のアルバムという体ながら、フルレングスのオリジナル作品と同等の位置づけがされるべき重要作である。4月から3人体制で再出発を果たした彼らの不退転の覚悟、逆境を撥ね除けた分だけ強度を増すバンドの結束力と一体感が楽曲に刻み込まれているからなのは言うまでもない。また、彼らのベストが常に今この瞬間であることを如実に伝える格好の作品だからという理由もある。だがそれよりも何よりも、ただ純粋に収録された楽曲がどれも恐ろしくクオリティが高いのだ。テーマはヘヴィだが表現は限りなくキャッチー。しなやかで軽い。異端にして王道。ブルースを分母に置いた最新型ロックンロールの最高傑作は常にネクスト・ワンであること、AFOCの自己記録更新と快進撃がこの先まだまだ続いていくことは、彼らが意気揚々とした発言を連発するこの最新インタビューからも窺えるはずだ。(interview:椎名宗之)

ここで止まるわけにいかないと当たり前のように思った

──新体制となって2ヶ月が経ちましたが、今はすっかり心機一転といった感じですか。
佐々木亮介(vo, g):前しか向いてないですね。俺たち3人としてはここで止まるわけにいかないと当たり前のように思っていたし、3月末にDuranが脱退することを発表した時点では覚悟を決めて曲作りとレコーディングに臨んでいたんです。でもファンの人たちにはあまりに突然の報告になってしまったので、申し訳ない気持ちがありましたね。
──このタイミングでミニ・アルバムを出す計画は、新体制になる、ならないに関わらずあったんですか。
佐々木:『GOLDEN TIME』の次の展開として何らかの作品を出す予定は最初からありました。4人編成になったのが『GOLDEN TIME』の制作過程だったので、次はちゃんと4人で楔を打つような作品を作るつもりだったんです。そこへ予期せぬ脱退劇が起こってしまったんですが、そこで歩みを止めないのがAFOCですよね。バンドの最新作をこの3人でしっかりと作り上げようとしたわけだから。でもそれが却って良かったと言うか、来年の結成10周年に向けて早い段階で3人の新曲を聴かせることができたし、さっきも言ったようにファンの人たちに申し訳ない気持ちがありましたからね。俺たちはロックンロール・バンドだし、お客さんに「今のバンドはこんな感じだよ」って伝えるには曲を作るのが一番だと思ったんですよ。それで6月のリリースをずらさないと決めて、Duranが辞めてから1ヶ月で曲を作ってレコーディングまでしたんです。
──HISAYOさんと渡邊さんも、ここで足踏みしているわけにはいかないというのが今回のレコーディング作業における原動力だったんでしょうか。
HISAYO(b):そうですね。私はこういう経験がこのバンドでは初めてだったんですけど、考えてみれば自分がAFOCに入った時が周りから一番不安視されていたと思うんですよ。Duranが入った時はこのままの勢いでやっていけばいいんだって感じだったけど、「この先、どうなるねん!?」みたいな、これまで亮介君とナベちゃんが何度も経験してきた感覚はこれか! と思って(笑)。でも、その思いを払拭するためにも次の作品を出す意義はよく理解できましたね。何よりファンの人たちを安心させたかったし、自分たちも安心したかったんですよ。Duranが脱退する発表をした時はもう新曲の原型が出来ていたので、私としてはかなり安心していたんですよね。ファンの人たちはざわついていたと思うけど、「いい曲が出来ているから、もうちょっと待ってて下さい」って気持ちがありました。そういう自信が私たちにないと、発表した時に不安な表情が出ちゃうだろうし。
渡邊一丘(ds):俺たちのことを見守ってくれているファンの人たちに対して申し訳ない気持ちはありつつ、自分としてはとても清々しい気分でレコーディングに挑めたんですよ。恋愛にたとえて言えば、フラレても死ねないんです。死ねないって言うか、死なないって言うか、ちゃんと生きてるって言うか。そんなところかな。
佐々木:それ、恋愛にたとえる必要あるの?(笑) でも、清々しさは俺も感じてましたね。タイトルトラックの「ベストライド」は凄く明るいキーにしたし、木村豊さん(Central67/スピッツ等を手がけるデザイナー)にディレクションしてもらったジャケット写真も青空の下をロケーションにしようと決めていたんですよ。姐さんが入った時点で今のAFOCのスタイルが定まったし、あの時から「ここから絶対に逃げない」という思いで革ジャンをずっと着続けているし、全財産をはたいたグレッチのブラックファルコンを弾き続けているんです。あれから4年半、この3人のスタイルはどっしりとしたものになってきたし、それまでの失踪、脱退、離脱に直面した時の動揺や不安はあまり感じなかった。だから堂々としていられたんだと思います。ファンの人たちには「新曲が出るまでちょっと待ってて。すぐに出すし、聴いてくれれば絶対に安心してもらえるから」って気持ちもありましたからね。
──当初は4人で作る予定の作品だったわけだから、本来想定していた楽曲の方向性が大きく変化したということですね。
佐々木:もし4人のまま続いていたら、「ベストライド」みたいな曲は生まれなかったでしょうね。ツアーをやりながら曲を作るつもりでいたところへDuranの脱退話が持ち上がって、彼が辞めるかもしれない不安定な時期に作曲するモードにはなかなかなれなかったんですよ。Duranとは断片的に「一緒に作ってみようか?」って無理やりやってみたものの、作業が潤滑に進むわけもなくて。その時に作ったリフとか「心臓」の歌詞の一部とか、前から書き溜めていたものはあったんだけど、それをそのまま使いたくなかった。結果的に姐さんもナベちゃんも待たせまくったけど、締切のギリギリまで粘って新曲はあくまで新曲として作ることにしたんです。だから今の3人じゃなければできなかった感じが出ているし、4人のままで行ったら次のヴィジョンをはっきりと作り上げられなかったと思う。
 

ここから勝ち上がるところをみんなに見せたい

──逆境を撥ね除けた分だけ作品の強度を増すのはAFOCの常ですが、今回の『ベストライド』もまさにそんな作品ですね。ミニ・アルバムではあるけれども、新体制で完成させた事実も含めて、フルレングスのオリジナル作品と同等の価値と意義があると思うんですよ。
佐々木:この3人で作り上げることがむしろ正解だったのかなと今は思いますね。傷だらけでボロボロなストーリーだとしても、ここから勝ち上がるところをみんなに見せたいし、俺たちにしか体現できない物語があると思っているので。今回、あえてミニ・アルバムにした理由は、10周年という未来を見据えた上での第一歩にしたかったからなんです。ここから始まる新たな物語の一歩目にしたかった。メンバーが脱退して、それでもがむしゃらにやっていくんだというヘヴィな感じじゃなく、突き抜けるような明るい曲をみんなに手渡したかったんですよ。「お、いいじゃん」ってサラッと受け止めてもらえるようなね。だから気軽に聴ける6曲入りにして、弾き語りの曲も入れてヴァラエティ感を出したかったんです。
──ヘヴィな事態を受けてヘヴィな曲として表現するのではなく、あえて明るくキャッチーな方向で攻めたかったと。
佐々木:6曲全部バラバラなことをやってやろうと思ったんですよ。全然違う曲調の6曲が並んでいても、今の俺たちなら説得力があるはずだと思ったので。6曲ともシングルとして通用するいい曲で、尚かつどれも似ていない作品にしたかった。
──とは言え、『GOLDEN TIME』という傑作を出した後だし、新体制でやっていく一発目の作品だし、プレッシャーも相当あったんじゃないかと思うのですが。
佐々木:「ベストライド」という曲が割と早めに出来ていたので、これで行ける! という感触が掴めていたんです。フル・アルバムを出した後のミニ・アルバムって大抵曲作りに苦戦するはずなんだけど、レコーディング前の早い段階で潔く覚悟が出来ていましたからね。曲を仕上げるのがギリギリにはなってしまったけれど、これまでみたいにナベちゃんが「もっと早く出来ないの?」って今回は言わなかったのは、俺のことを信頼して待っていてくれたからだと思うんです。
HISAYO:うん、それはあったと思う。
佐々木:絶対にいいものになるはずだから、ギリギリまで悩んでいいよってことなのかな? と。あくまで俺の解釈ですけどね(笑)。
渡邊:信頼はしてましたよ。お互いに培ってきた経験もあるし、曲作りに関しては亮介に任せて大丈夫だと思っていたし、俺は俺で自分のことをしっかりとやらなきゃなと思って、自主練に励んでいたし。ただ面白かったのは、亮介が持ってきた「ベストライド」のデモの弾き語りにドラムを最初に付けた時、実は超揉めたんですよ。「これ、おかしいんじゃねぇの?」って。
佐々木:普通のメロコアっぽい曲だと思ったんだよね? 俺のイメージが先行しすぎていて、それが伝わらずに2人の音になっていなかったと言うか。
渡邊:うん。全然俺たちらしくない曲だと思った。でも今はその「ベストライド」をめっちゃ気に入ってるんですよ。「Dancing Zombiez」も同じ感じで、最初はけっこう揉めたんだけど今は大好きで。そんなふうに、俺たちが揉めた曲が結果的に凄くいい曲になると言うか、俺の好きな曲になる。だから亮介とはこれからもどんどん揉めていこうかなと思って(笑)。
──(笑)「ベストライド」はラモーンズを彷彿とさせるイントロのドラムから一気に昂揚感が訪れますよね。
佐々木:最初はあのイントロがなくて、もっとシンプルな2ビートのアレンジだったんですけど、途中から曲のテーマをアイリッシュ・パンクにすることにしたんです。野外フェスでやったら似合うようなメジャー・キーで爽やかな曲を作りたいと思った時に、イギリスに住んでいた頃のことを思い出したんですね。たとえばウェンブリー・スタジアムにサッカーを見に行くと、5万人の観衆がアイリッシュ・パンクのリズムに合わせて手拍子をしたり、凄く盛り上がるんです。サッカーを見終わった後にはパブに立ち寄って、ギネスビールを呑んでまた盛り上がる。そんな時に店内で流れているのもアイリッシュ・パンクだったりする。2ビートで明るい曲調で、これだな! と思って。最初はメロコアと勘違いしたナベちゃんには「これはアイリッシュ・トラッドなんだよ」と説明したら分かってもらえたし、この曲をプロデュースしてくれた弥吉(淳二)さんともキーワードを分かち合えたんです。
 
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ベストライド

テイチクエンタテインメント
インペリアルレコード TECI-1460
定価:1,600円+税
2015年6月17日(水)発売

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【収録楽曲】
1. ベストライド
2. One Shot Kill
3. YES
4. Trash Blues
5. 心臓
6. リヴェンジソング

LIVE INFOライブ情報

AFOC presents What's Going On Tour 2015
“BRAND-NEW RIDERS”
 
2015年6月25日(木)梅田CLUB QUATTRO
OPEN 18:00/START 19:00
共演:tricot
問い合わせ:清水音泉 06-6357-3666
 
2015年6月26日(金)名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 18:00/START 19:00
共演:tricot
問い合わせ:ジェイルハウス 052-936-6041
 
2015年7月3日(金)渋谷CLUB QUATTRO
OPEN 18:00/START 19:00
共演:GLIM SPANKY
問い合わせ:HOT STUFF 03-5720-9999
 
2015年7月4日(土)渋谷CLUB QUATTRO
OPEN 17:00/START 18:00
共演:the band apart
問い合わせ:HOT STUFF TEL 03-5720-9999
 
総合問い合わせ:VINTAGE ROCK 03-3770-6900
 
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