ありのままの自分で臨む
——ヴォーカルで良かったなって思ったことは何ですか?
ryo:すごい些細なことで言えば、機材を持ち歩く労力がない。
一同:(笑)
ryo:あとは機材トラブルもないですね。
有紀:バンドの中でもフロントですし、矢面に立つ分リスクも高いですけど、頑張った分だけ賞賛される度合いも高いのかなって。目立ちたがりには向いてる職業かなとか。あとは表現の次元が強いですよね。バンドですけどヴォーカルだけ別じゃないですか。言葉を持っているのはヴォーカルだけだから。そういう部分で言うと、バンド内でのパフォーマンスで言う競合相手がいないっていうのは1つ良いかなとは思いますけどね。楽器の言う表現のそれとは多分違うので。
インザーギ:そうですね。やっぱり1番心に響くパートと言うか。ギター1本だけで人を泣かせるのって相当難しいと思うんですね。超一流の方ぐらいしか多分出来ないと思うんですけど。歌は比較的、心に響かせることは1番、簡単って言ったら語弊があるかもしれないんですけど…。
有紀:まぁ、確かに間口は広いよね。日本語さえ通じれば日本人に届けるチャンスは1番大きいパートだとも思うしね。
インザーギ:そうですね。それが1番やってて良かったなって思います。
有紀:そして世の中の人の大半は歌が上手くなりたいでしょ。そういう部分で言うとやっぱり強いパートだなって思うかな。
——先ほど、矢面に立つという言葉があった様に、バンドの顔と言われるポジションだとも思うんですけど、そのポジションだからこそ、普段から気を付けていることはありますか?
ryo:ヴォーカルだからっていうきっかけではなかったですけど、煙草は止めました。悪影響がどれだけあって、人に合うかどうかもあるんですけど、僕の場合は煙草を吸ってた時の方が歌ってる時に痰が絡み易くて、喉の邪魔になるっていうのを止めて気付きました。よくまた吸う人もいるけれど、僕は止めて楽になったんで、止めたままもう10年近く経ちますね。その代わりお酒の量が増えました(笑)。喉のことを考えて、と言うよりは、歌ってる時に喉の違和感が減ったんで止め続けている感じですかね。
有紀:励みになりますね。僕は止めて5年なんで。
ryo:多分それぞれの恩恵があると思うんですけど。
有紀:そうですね。禁煙の先輩が出来て、励みになります! 禁煙って孤軍奮闘じゃないですか。結局自分次第だし、自分との戦いじゃないですか。
ryo:5年止めてるんなら大丈夫ですよ。
有紀:運が良かったのか、止めようと思ったその日から吸う気がなくなって。離脱症状と言うか好転反応って言うのかがもの凄くて、平熱が37度3分ぐらいが半年間続いて、ぶつぶつぶつって常に出てる状態で。
ryo:3の倍数は気を付けた方がいいと思います。
有紀:言いますよね、それね。
ryo:まず止めて3日。で、3ヶ月と半年とか。
有紀:1年とか、3の倍数は結構肝だって言いますよね。
ryo:夢で、「あっ、吸っちゃった!」っていうのを何回か見ましたね。
インザーギ:あ〜、よく聞きますけどね。
有紀:僕も未だに時々見るんですけど、必ず母親が吸ってる所をじ〜って覗いてるんですよ。
一同:(爆笑)
インザーギ:(笑)怖いっすねー。
有紀:あれ、不思議じゃないですか。夢の中でちゃんとガツンって煙がきて吸った感があるんですよね。そして母親が必ず…。
一同:(笑)
ryo:もし、これを読んで、歌をやってるけど煙草止めた方がいいのかなって思ってる人がいたら、止めるといいことがちょっとあるかもって。止めなきゃ駄目、とは思わないけど。止めるまでは、「煙草止めるより練習した方がいいんじゃね?」って言って吸ってたんで(笑)。
有紀:同じですね。「煙草も吸ってるのに歌が上手い!」って言われたい、みたいな。「煙草は関係ないよ」って言い切りたくてね。
ryo:それよりも水分の方が大事だなって思いますね。
——水分をよく摂るってことですか?
ryo:喉に水分が供給される環境を作る方がいいなと。多分個人差があると思うんですけど、ライヴ中、すごい汗をかくんですけど、汗をかきたくないからって水分を控えていると、喉が渇くのがすごく早いんですよ。僕、結構がなったり、シャウトしたりもするんで、ライヴでスモークを焚かれてる時に全力で歌っていると、30分ぐらいですぐかすかすってなることが多くて。がんがんに酒を飲んだ次の日って大体声がはずれたりするんですけど、水分を多めに摂っておくと回復が早かったり。そういうのは若干意識します。そもそも飲むなよって話なんですけど(笑)。
一同:(笑)
インザーギ:いやいや、でも飲みますよね。
有紀:止まらない、止まらない。
——(笑)インザーギさんは何か気を付けていることはありますか?
インザーギ:僕は、睡眠とうがいですね。
有紀:えらいね。
インザーギ:手洗いとうがいは、必ずするようにしてます。睡眠もやっぱり、最低でも4時間は。
有紀:短い!
一同:(笑)
インザーギ:もうちょっと寝てもいいですかね(笑)。
有紀:十分寝た方がいい!
インザーギ:寝ないと声が出にくくなるんですよね。
有紀:出ないね。
インザーギ:ですよね。なので、どんなに忙しくても、ライヴの前は寝るようにはしてます。あと本番直前までどれだけリラックス出来るか。僕、結構緊張しいで、いい緊張は全然いいんですけど、ガチガチになる緊張はやっぱり喉を締めたりもしてしまうので、それを回避するために極力楽しむ方向でリラックスを解いて、1曲目から全開でいけるようなメンタル意識は心掛けてます。
——有紀さんは?
有紀:僕はないですね。ジンクスみたいなものとかを作るのは止めようと思いまして。本番前に1人になりたいとか、本番の日は必ずこれを飲む、食べるとか、そういうルールを作るのを止めた側なので。もちろん本番の前夜は無茶飲みをしないとか、出来る限り睡眠を確保するとかは、一応努めるんですけど。考えない努力をしてますね。
——自然体でって感じですか?
有紀:自然体と言うか、むしろほぼほぼ怠慢な状態を作ると言うか、何もしないって感じですね。イメージトレーニングとかもしないですし。時に期待って、裏切られた瞬間ってすごい落胆を生むじゃないですか。イメージを膨らませた通りにライヴが進行しなかったら終わってしまうモチベーションだとかをなるべく作らないようにしているので、ジンクスも作らないようにしてるんですよ。万が一それが調達出来ない土地や空間やシュチュエーションだったりして、それで歌が転んでしまうようになりかねないんだったらと思うと。だからインザーギくんと一緒で、なるべく寝ておくとか、自分の体1つで絶対に出来るルールだけを守ろうと思うんです。
インザーギ:僕も共感出来る部分がすごいあって。ジンクスとかを決めてしまうと、それをやらなかった所為にしてしまう自分が出てくるじゃないですか。それがやっぱり嫌ですよね。
有紀:そうなんだよね。万が一失敗した時に、反省するポイントがぼやけるじゃん。「きっとあれをやらなかったからだ」って。そうじゃなくて、きっと本質は失敗と他にあるはずなのに、それを見失わないようにする為には、常に責任の所在をありのままの自分に置いていかないといけないなって思うと、なるべくセレモニーは省きたいなって。いろんな考えを持つ方がいると思うんですけど、僕の場合はそうですね。成功をイメージするってよくアスリートの世界でも言う人がいますけど、イメージって言うよりは、目の前で起こるものを1個1個ちゃんと構築して、毎日、毎回ステージの上で0から100点なのか10000点なのか分からないですけど、イメージではなく現実を詰み重ねていって、成功を手にすると言うか、成功を収めると言うか、みたいなことかなぁ。心掛けるとしたら、そういうことですかね。
——ryoさんは本番前に何かしていることはありますか?
ryo:僕はずっと空うがいをしてます。最近は負担を掛けない歌い方もチャレンジしてるんですけど、これまでのスタイルは喉に負担を掛けてアタックを強めに出したり、喉を疲弊させる歌唱法をしてたんで、すぐ喉が枯れてたんですね。枯れをすぐに回復させる技として、水を使わずに喉を「あ〜〜〜」って鳴らしていくっていうのをやって、枯れている所が出るようになるんです。楽屋でずっと本番前に10〜20分ぐらいがらがらがらって。周りの人は結構迷惑なんですけど(笑)。2days、3daysとか重なった時とかは、今日はキツいなって所は、ピンポイントでそこは治して。瞬間的には治るようになります。それは割と現実的に有効な手なので。
インザーギ:きっと声帯が起きるとかそういう感じですよね。
有紀:多分、ryoさんの骨格にとっていい相性の動きなんでしょうね、きっとね。
ryo:筋肉痛だったらそこをほぐすみたいな感じで、声帯をほぐしていく感じで僕はよくやってますね。
有紀::むくみが取れるんですね。
ryo:かもしれないですね。
有紀:声帯の動きが鈍いってことは、むくんで大きくなってるってことなんで。高い声が出ないってのは、例えば通常タムぐらいの大きさの物がむくんでフロアになってしまってキーが落ちるような状態なので。大きい動物の方が声が低いじゃないですか。なので、そのむくみが取れると、通常必要としている筋に到達出来るので、空うがいで動かすことによってむくみが取れるんでしょうね。
ryo:おそらく。これはがなりとかシャウトで枯れてしまった声を、即興で、とりあえず付け焼き刃で治すのにはすごくいい。ただ理想としては、負担を少なく、効果は高く、何とか枯れない歌唱法の方が有為なんでしょうけど。どうしても自分のパフォーマンスの中で喉に負荷が掛かった時は、それをやって解消してますね。
有紀:でも、素敵ですよね。それでも守るべき個性をお持ちで、それを評価するお客さんが絶えずいるっていうことが、やっぱり財産だし、そのスタンスそのものが意義ありまくりですもんね。
ryo:この歌唱がメインっていうのを1本構築するよりも、いろんなものに手を出したくて。僕の場合は、歌を歌って他の楽器もやってみるっていうパターンではなくって、自分の歌の違う歌い方を試してみてますね。普通の歌唱からすごく飛ばすようなファルセットとかヘッドヴォイスとかダミ声とか、いろんな歌唱をやっていって、渦を巻くようにちょっとずつみんな大きくなっていって、1つの柱と言うか、個性みたいになればいいかなって思っているんです。最近は喉に負担を掛けないのに、声がスポーンと前に飛ばすようなやり方をどうにかやっていけないかなっていうのを、あれこれ考えながらやってますね。それが楽しくて続けてるみたいな感じですね。
インザーギ:皆さん個性が違うし、自分にない部分が多いので刺激になりますね。ヴォーカル対談って、僕はあんまりしたことがないんですけど、みなさんあります?
有紀:数える程度かなぁ。
ryo:僕は、以前にもLOFTでありましたよね?
——ありましたね。
インザーギ:僕だけかもしれないんですけど、ヴォーカルについてどうしてるとかあんまり話さないんですよ。例えば、「本番前に、自分はこうしてるけど、どうしてる?」とか、そういう会話ってあんまりヴォーカル同士はなくて。ギターやベースの方は「どこの弦を使ってる?」とかあるじゃないですか。
有紀:そうだよね。「どこの喉使ってる?」みたいな話はないもんね(笑)。
インザーギ:(笑)ないじゃないですか。だから、こうやって人のお話を聞けるタイミングはあんまりないので、そうなんだって思うことが多々ありますね。
ryo:僕は、どんなマイクを使ってるのかとか、ステージのモニター環境がどんな感じかとか、結構聞きますね。知らない取り組み方とかやり方をしている方のお話を聞くと、全部じゃないんですけど、1回試してみるんです。気軽に買えるマイクを何本も試して、やっぱりこれだなって戻ったりとか。実際に自分がやると相性が合うとかっていうのを、結果を求めてやっているというよりも、そういうことをやっているのが楽しいんです。
有紀:勉強熱心なんですね。
ryo:いや、研究してるとか、勉強してるって気はあんまりなくて、好きでやってるだけですね。
有紀:義務感に駆られるんじゃなく、好きで自らってことは、特技ですよね。
ryo:あ〜、そうですね。やらなきゃいけないとは思ってないですね。自分の個性はしっかり出来ているとしても、いろんなバンドと対バンしたりして、自分に持っていないいい所って必ずあるじゃないですか。その人がどういう取り組み方をしているのかっていうのを聞くと、テンションが上がるんですよね(笑)。さっき有紀さんがおっしゃっていた「自分のありのままで臨む」って言っていたのを聞いて「おお〜!! 」ってなったり。
有紀:恐縮です。やっぱり刺激がありますよね。ヴォーカルって1人で打ち込むことっていうのが割と多かったりするから、こういうチャンスはあんまりないですもんね。
ryo:歌1本でってステージに立っているよりは、その前後のライヴの流れに持っていく空気とかも自分の存在している要素の1つだとも思うので、自分だけにしか言い訳の要素を残さないっていうのは、「言われてみたらまさにそうだ!」って思って、目から鱗が落ちる思いです。
有紀:有難うございます。