Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー川口 潤(Rooftop2015年2月号)

音楽ドキュメンタリー作品の先駆者が語るコーパス・グラインダーズのライブDVD秘話

2015.02.02

映画として見られていない音楽ドキュメンタリー映画

──たとえばブッチャーズの「デストロイヤー」はライブ映像、射守矢 雄と平松 学の「センボウノゴウ」は留萌の街並で構成されていますが、どちらのMVも音の世界観にさらなる彩りを与えていますよね。音の邪魔にならずに過不足ない画が当てられているんですが、かと言って決して熱量が低いわけじゃないし、情緒や叙情性も映像の端々から窺えます。

川口:MVに関して言えば、その音に僕が感じたものを忠実に当てはめて画にしていくようにしてますね。「センボウノゴウ」はあの音やフレーズを聴いて何となく画が見えていたし、自分が撮り溜めていた留萌の景色を使うという限定的な素材での依頼だったので、特に悩むことなく作業ができました。射守矢さんが「留萌の画をはめれば形になるはず」と考えていたそうで、「川口君が『kocorono』で撮ってたから、何かしらアウトテイクの画があるんじゃない?」ってことで依頼が来たんです。最初、『kocorono』にも出てくる射守矢さんのお母さんとお兄さんの画も盛り込めってこと なのかな? とか思ったんですけど(笑)。

──(笑)最初からモノクロのイメージだったんですか。

川口:特に指定されたわけじゃないんですけど、モノクロのほうが世界観が統一できると思ったんですよ。

──ずっとモノクロの映像が続くからこそ、エンディングで夕陽が色づくのが特に印象に残りますよね。あれはアルバム・ジャケットを意識しての演出ですか。

川口:そうですね。あのジャケットを見て、射守矢さんなりの留萌への思いを絵にしたのかなと思ったんです。それでちょうどああいう映像があったので、これははめたほうが面白いだろうと考えて。

──斬新なMVですよね。本人たちは一切出てこないんですから(笑)。

川口:人物がほぼ映ってないのは意図したことなんですよ。車も機械みたいな感じで無機質で、あとは海鳥と雪景色があるだけで生物感がないっていう。それでも充分成り立つんだから、やっぱり2人の音とプレイが凄いんだと思います。いつかあの2人の音楽が流れるだけの無声映画を作れたら面白いですよね、キングレコードの予算で(笑)。

kawaguchi_photo_4.jpg──ちなみに、川口さんは『センボウノゴウ』という作品にどんな感想を抱きましたか。

川口:今の時代にベース2本が軸のインストでアルバムを出すっていうのも大胆ですよね。しかも誰でも自由に出せるインディーズからじゃなく、れっきとしたメジャーから出るんですから。でも、知る人ぞ知るっていう存在で終わるのはもったいないし、このアルバムをきっかけにサウンドトラックの仕事とかが増えれば面白いなと思いますね。あと、本人たちは全く意識してないでしょうけど、僕が好きなトータスとかシカゴ周辺のポストロック・バンドと似た匂いがありますよね。それに加えて、2人の出身である北国の情景も音に表れてる気がします。吉村さんの音もそうでしたけど、射守矢さんのフレーズもすぐに情景が頭に思い浮かぶし、やっぱり凄いですよね。音がそれだけ雄弁だから、MVは人がなるべく映らない無機質な感じでもいいのかなと思って。実を言うと、冒頭のほんの一瞬だけ僕が映ってるんですよ。ちゃんとは見えないんですけどね。それは僕が見た留萌の1日みたいな感じにしたかったからなんです。ファインダー越しの自分の視点しか映さないと言うか。

──ファインダー越しの絶妙な距離感、客観的な眼差しに川口監督作品の魅力のカギがあるような気もしますね。

川口:それだけがいいとは思ってないんですけどね。僕は普通の劇映画も好きだし、自分のファインダー越しじゃない映像を編集するのも好きだし。ただやっぱり…これは悪い意味じゃなくて、限られた予算とスケジュールで作るものは自分のパーソナルな部分がどうしても出てきちゃうんですよ。それがいいことかどうかは分かりませんけど、私小説っぽいところが出てしまう。

──川口さんにもいつか劇映画を撮って頂きたいですね。

川口:劇映画はずっと撮りたいと思ってるんです。劇映画が好きという単純な理由ももちろんあるんですけど、音楽ドキュメンタリー映画が映画として認めてもらえていないコンプレックスが常にあるんです。

──劇映画よりも一段下に見られていると?

川口:いや、もっと下に見られてるんじゃないですかね。音楽ドキュメンタリー映画自体は今増えてきてるし、劇映画よりも人間の核心を突いた作品やエンターテインメント性の高い作品も多いと思うんです。僕の作品がそうだという意味じゃないですよ。でも劇映画のほうが圧倒的に上のほうに持ち上げられるし、作家も高く評価される。もちろん素晴らしい劇映画はたくさんあります。それにイマイチな作品でも資本リスクのケタが違うので、売れるように工作されるのは当たり前なんですけどね。そこへ向けて僕も自分なりに戦っていきたい。

──ミスチル、横山 健、バックホーン、ワンオクロック、バックナンバー…と、近年は国産の音楽ドキュメンタリー映画が増えていますが、ボアダムスの『77BOADRUM』を2008年に公開した川口さんにはその道の先駆者として、これからも刺激的な作品を作り続けて頂きたいですね。

川口:今の日本の音楽ドキュメンタリー映画は純粋に映画作品を作ると言うよりも、被写体側のプロモーションの手法のひとつになっているところもあるじゃないですか。どちらの在り方もアリだと思うし、こうして音楽ドキュメンタリー映画が増えるのは結構なことだけど、作品性軽視と言うか、売れてる人や資金のある人たちが一人勝ち的になるのが仕方ないとは言え悔しい。それじゃどこの世界も変わらない図式になってしまうし。そういう事態を避けるために、フジロック・フェスティバルならぬ“フィルムロック・フェスティバル”を開催して、並列に作品を揃えて世に問う機会があるといいですね。もしくは逆に、趣味と偏見まみれの独断音楽映画祭。たとえば大トリがメタリカの映画、その前にティーンジェネレイトの映画を上映したりすれば、そのフェスの趣向が明確に出るじゃないですか。そういう総力戦と言うか、無駄な悪あがきをそろそろ本気でやるべきだと思いますね。シアターNやバウスシアターで開催して欲しかった!
 







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