勘違いから曲が出来るのが面白い
──「crossover」のエンディングも凄くドラマティックで、壮大なスケール感がありますよね。
滝:あれは思いきりオーケストラにしてみたくて、けっこう頑張ったんですよ。ストリングスは全部自分で弾いたし、ヴァイオリンは8本重ねてみました(笑)。チェロも入れたりしたし。
──レコーディングも制約を設けず、4人以外の音も曲に合うなら入れてみようって感じだったんですか。
太田垣:ここまで本格的なレコーディングはなかなかできないことなんで、誰かがやってみたいというアイディアはとりあえずやってみることにしたんですよね。せっかくのアルバムなんで、後で後悔するのもイヤだったし。実際、ストリングスを入れたことで完成のスケジュールが1週間くらい延びちゃったんですけど、いい作品にしたかったし、それも仕方ないよねって話してたんですよ。レーベルのスタッフにはあまり大きな声じゃ言えませんけど(笑)。
──まぁ、制作にすでに3年費やしているんですから、今さら1週間遅れたところで何の問題もないでしょう(笑)。時間をかけたぶん、構成もよく練られていますよね。「hand」みたいなドタバタなリズムの高速チューンもあれば、「bridge」みたいにじっくりと聴かせる洗練されたナンバーもあって、それが違和感なく同じ器に収まっているのも構成の妙だと思うし。
滝:曲ごとのメリハリもあるし、意外と続けて聴けるんじゃないですかね。
田島:いろんな対バンをしていて、オシャレでカッコいいバンドがいるとするじゃないですか。それ用に「bridge」みたいな曲を作るとか、そんな感じなんですよ。
滝:オシャレプログレみたいなバンドとよく一緒にやってたから、それに対抗しようと思って。
──学生時代からこれだけ異質な音楽をやっていたら、サークルのなかでも浮きまくりますよね?
太田垣:大学のなかじゃあまり相手にされませんでしたね。「あいつら何やってんの?」みたいな目で見られてたし、特定のコミュニティには入れてもらえない感じでした。メロコアの人たちにはメロコアじゃないって言われるし、ハードコアの人たちにはハードコアじゃないよねって言われるし。
──ちなみに、当時よく対バンしていたなかで一番の出世頭は?
太田垣:9mm(笑)。
滝:現役バリバリ第一線ですからね(笑)。
太田垣:横浜・横須賀のシーンだと、mynameis...、Qomolangma Tomato、Dr.Downerとか、けっこういますね。NUBOも同世代だけど、当時から格が違いましたね。
──アルバムの話に戻しましょう。重厚な音の壁がこれだけ立ちはだかるなかで、太田垣さんのボーカルが埋もれずにクリアに聴こえるのがいいなと思ったんですけど、そこは意識したんですか。
太田垣:今回のアルバムを作るにあたって、歌詞を全部書き直したんですよ。ちゃんとした作品にしたかったので、英語の先生についてもらったりして。そうやって語感の響きと音の疾走感のバランスを凄く考えながら作ったし、個人的にはもっとボーカルを後ろにしたほうがいいんじゃないかと思ったんですけど、エンジニアの方が前に出そうよと言ってくれたんですよね。いいのかな? と最初は思ったんだけど、仕上がりを聴いてみたら凄くバランスが良かったので安心しました。
滝:オケと歌の混じり具合はいい感じだと思いますね。やっぱりバンドの音をちゃんと出したかったから、普通のロックやポップスで使われるハイファイなやつじゃなく、グッとパンチのあるマイクを使ったりもしたんですよ。そういう細かいこだわりも実はあるんです。
──これだけ複雑な成り立りの楽曲はどんな行程を経て完成するんですか。
太田垣:昔は滝と田島が呑みながら元ネタを作ってきて、それをバンドでジャムってみて各々のアイディアを加えるやり方が多かったんですけど、最近はまたちょっと変わってきましたね。
滝:誰かが持ってきたネタから広げたり、スタジオで適当にジャムってたのを「今の凄くいいじゃん」って採用してみたりする感じですね。
チャック:勘違いから曲が出来ると凄く面白いね。
滝:勘違い?
チャック:「alcohol and homeless」で、跳ねた感じのリズムを叩いて下さいよってタジ君に言われたんですよ。でも、いざ叩いてみたら凄く直線的で全然跳ねてないリズムだったのに、みんなは「それがいいな」ってことになって(笑)。
太田垣:「calling my name」のエンディングでアルペジオのギターが静かに鳴り響くのは俺のアイディアで、ちょっと変わった変拍子のアルペジオを作って持っていったんですよ。それを聴いたみんなは、俺が拍のことをよく分からずに作ってきたと思ったみたいで、なんかヘンだな? って顔をしてたよね(笑)。
滝:太田垣は自信満々に弾いてるんだけど、俺らは「あいつ1拍足んないぞ、間違えてるんじゃないか?」ってニヤニヤしてて(笑)。
太田垣:「1拍足んなくない?」って訊かれたんだけど、「いや、こういうものだから」って答えたんです(笑)。
滝:ああ、そうなのかと思って。でも結果的には予想外のものが出来たし、勘違いも大事なんですよね。
田島:間違いなんじゃないか? と訊いてみるのも大事ですけどね(笑)。