ベースレスの3ピース編成に立ち返り、今年1月に地元・西宮で行なわれた復活ライブ、3月に代官山UNITで行なわれた復活ライブ東京篇で完全蘇生を果たしたKING BROTHERS。
bloodthirsty butchersのトリビュート・アルバムへの参加を経て発表された待望のオリジナル作品は、ニュージーランド産奇天烈ガレージパンク・バンド、The DHDFD'sとがっぷり四つに組んだスプリット・アルバムだ。互いのカバー曲も収録した本作を単なる企画盤と侮ることなかれ。オープンリールのアナログ・レコーダーで録音された暴走爆裂サウンドはコクとキレが格段と増し、ダイナミズム溢れるロッキンブルーズの健在ぶりを十二分に示している。活動休止中に彼らがただ足踏みをしていたわけではないことがよく分かるはずだ。これは"NISHINOMIYA"から全世界に向けたKING BROTHERSの宣戦布告であり、逆襲の嚆矢である。ドキドキするような革命のはじまりなのだ。
このインタビューは、大盛況のうちに終わった代官山UNITでの自主企画『Are You Ready Tokyo?』の翌日に新生KING BROTHERSを直撃したものだ。こうしてまたバンドを始められたピュアな喜びと今後の活動に対する確たる意志が言葉の端々から窺える。ドス黒いブルースのなかで生まれた魂は彷徨の途上であり、お楽しみはまだまだこれからなのである。(interview:椎名宗之/pix:Satomi Ito)
ゾニー加入の決め手は「西宮に来るって言うから」
──昨夜はお疲れ様でした。活動休止前の最後のワンマンが行なわれた代官山UNITで復活の狼煙を上げられたことがとても感慨深かったです。
ケイゾウ(vo, g):去年の7月以来、8ヶ月ぶりでしたからね。活動が止まって、絶対にまたUNITでライブをやってやろうと思ってたので、戻ってこれて良かったですよ。
──ケイゾウさんが何度もメンバー紹介をしたりして、この3人でバンドをやれているのがとにかく嬉しくて仕方ないんだという気持ちがよく伝わってきました。
ケイゾウ:まさにそんな感じでしたね。ホントに素晴らしいドラマーが入ってくれたので、ここからどんどん新しいKING BROTHERSを見せていけたらいいなと思ってます。
──ゾニーさんはKING BROTHERSの歴代のドラマーのなかでも一番にこやかで、一緒に歌を口ずさんでいたのが印象的だったんですが。
ゾニー(ds):よく言われるんですけど、自然とそうなっちゃうんですよ。ドラムを叩いてて幸せな部分がたくさんあるので。それがKING BROTHERSとしていいのか悪いのかはまだ分からないんですけどね。叩くのに集中するのも大事なんでしょうけど、歌を外へ飛ばすのも同じくらい大事だし、そういうのも自分の役目だと思ってるんです。
──ゾニーさんという“新しいお友達”が見つかったから再始動に踏み切れたわけですよね?
ケイゾウ:タイチとシンノスケが抜けて活動ができなくなってしまって、僕はKING BROTHERSしかやる気がなかったからすぐにドラマーを探し始めたんですよ。マーヤ君は「いいヤツが見つからへん限り絶対やらへん」って言ってたので、凄いたくさんのドラマーとセッションをしたんです。そのなかでホントに凄いヤツが見つかったので再び動き出せたんですよ。
──以前から面識はあったんですか。
ゾニー:ガッツリとした面識はなかったです。間に人が入って紹介してもらって、とりあえず一度KING BROTHERSと合わせてみようって感じだったので。
──決め手はやはり、バスドラを自在に操るマグマの轟音ビートだったんですか。
マーヤ(g, screaming):一番の決め手は、西宮に来るって言うから。
──ああ、ゾニーさんはKING BROTHERS加入のためにわざわざ東京から西宮へ引っ越したんですよね。
マーヤ:自分が東京へ行ってバンドに入れって言われてもできひんし、それってけっこうデカいことだと思うんですよ。知り合いも誰もいないしね。
──昨夜のライブを見た限り、この3ピースは長く続きそうだなと思ったんですよ。ゾニーさんのドラムが重心と緩和剤の役割を果たしていて、ケイゾウさんとマーヤさんの暴れっぷりがより自由になった気がしたので。
ケイゾウ:もう交替はナシで(笑)。今日見てくるローリング・ストーンズみたいに不動のメンバーでいきたいですよ。
──7年ぶりにベースレスの編成になってみて如何ですか。
ケイゾウ:マーヤ君が何かのインタビューで「KING BROTHERSは骨みたいな音楽や」って言ってて、ホンマそうで、人が1人増えるぶん音が分散されるんですよ。鳴ってる音楽は変わらなくてもそうなる。4人でやってた時代の曲を3人で再現する時に苦労することもありますけど、それが4人でも3人でも鳴らすべき音やリズムはあまり変わらないんです。人が減ったぶんだけマーヤ君のギターがよく聴こえるようになったし、ベースを入れて追求しようとしてた経験が今の編成にも反映されてるんですよ。自分のプレイ然り、バンドのグルーヴ然り。
もう好きなことだけやってやろうと思って
──スプリット・アルバムを出すことになったThe DHDFD's(写真上)とは、以前ワッツーシゾンビと3組で帯同ツアーをしたことがありましたよね。
ケイゾウ:そうですね。何年か前に彼らの出身であるニュージーランドとオーストラリアにツアーへ行く機会があって、ニュージーランドには特殊な音楽シーンがあると言うか、面白いバンドがたくさんいたんですよ。そのなかのひとつがThe DHDFD'sで、KING BROTHERSがニュージーランドへ行った時はボーカルのスコットの家に泊めてもらったりしたんです。僕らのことをめちゃ好いてくれていて、スコットの身体には“NISHINOMIYA”っていう刺青まで入ってるんですよ(笑)。
──どうかしてますね(笑)。歳は近いんですか。
マーヤ:僕らより全然下ですよ。
ケイゾウ:写真を見ると凄い貫禄があるけど(笑)、初めて会った時の彼らはまだ10代やったんで。
マーヤ:身長はデカなっとるけどな。
──「ニュージーランドからの恐るべき刺客」という異名の通り、音源を聴いても如何に奇天烈なバンドかがよく分かりました(笑)。
ケイゾウ:あの音の通りデタラメなバンドですよ(笑)。僕が見たビデオでは、確かドラム缶に掴まって転がってましたからね(笑)。とにかくスコットはマーヤ君のことが大好きなようですね。
──マーヤさんのDNAが受け継がれているのを感じます?
マーヤ:もともとそんなやと思うよ(笑)。でも、スコットはむちゃくちゃ誇り高きキウイの男ですよ。
ケイゾウ:The DHDFD'sの音源をプロデュースしてるのがMINT CHICKSっていうニュージーランドのバンドのメンバー(コーディ)で、The DHDFD'sと知り合ったのもMINT CHICKS経由なんです。MINT CHICKSもニュージーランドでめちゃくちゃ格好いいバンドとして知られていて、地元の若い子たちの間では伝説のバンドですね。
──ニュージーランドも西宮も特異なバンドを生む土壌があるんでしょうか?(笑)
ケイゾウ:どうなんだろう?(笑) ニュージーランドと言えば、行く前はバート・マンロー(映画『世界最速のインディアン』のモデルにもなったオートバイの地上最速記録保持者)の出身地っていうイメージしかなかったけど、凄くいい所ですよ。
──KING BROTHERS待望の新曲ですが、昨日のライブでも「ここ数年の怒りを全部ブチ撒けた」というMCとともに披露された「JUDGEMENT MAN」は気迫に満ちた歌と演奏でグイグイ引き込まれますね。他にも「Kill your idol」の世界観に通じる「Keep on Rollin'」のダイナミズム、夢見心地な「KaKuMeI」のポップさと、バンドの持ち味がいいバランスで凝縮していますよね。
ケイゾウ:何て言うか、もう好きなことだけやってやろうと思って。それでボツになった曲たちを使わせて頂きました(笑)。今回のスプリットは4曲ずつ持ち寄って、そのうち1曲はお互いのカバーなんですけど、新曲3曲のなかで新しいKING BROTHERSをどれだけ見せられるか? ってところで曲を選んで、3人で詰めていった感じなんです。曲の候補はいっぱいあったんですけどね。