後戻りできないアナログ録音は性に合う
──The DHDFD'sのカバー「Mongo Van」には“NISHINOMIYA”というフレーズが出てきますが、オリジナルでもそう唄われているんですか。
ケイゾウ:そうなんです。自分で唄っててもどんな歌なのか分かってなかったんですけど、和訳してもらったのを見たら全くワケが分からなくて。なんでいきなり“NISHINOMIYA”が出てくるのか意味が分からない(笑)。
──やっぱり、KING BROTHERSに対する愛情表現じゃないですか?
ケイゾウ:ですかねぇ?
マーヤ:実はKING BROTHERSのことを唄ってるんとちゃう?
ケイゾウ:唄ってるのかな? 「日が昇るまでのあいつは狂人/日が沈むまでのあいつは侍」って歌詞があったけど。
マーヤ:「こいつら昼間はただの人間やけど、夜になると侍になる」とか、そういう意味やないの? そう捉えると、芝刈り機で顔を切るような危険人物ってことになるけど(笑)。
──「Lawn mower cut the face/Don't forget warn the door/When that man is back to front(芝刈り機で顔を切られた/ドアには十分注意しろ/あの男が戻ってくる)」という冒頭の歌詞ですね。
マーヤ:まぁ、勝手な解釈ですけど。ひょっとしたら俺のギターで顔を切ったことがあるんかもしれんし(笑)。
──The DHDFD'sによる「GET AWAY」はちゃんと日本語で唄われていて、とてつもない破壊力でしたね(笑)。
ケイゾウ:彼ら自身で曲を選んで、そのまま唄ってくれたんですね。なんで「GET AWAY」になったのかは分からないけど。
マーヤ:英語が入ってるからじゃない? 「I love you」って(笑)。
──今回はオープンリールのアナログ・レコーダーで録音されているから、音の臨場感や奥行きがグッと増した理想的な音像になったのでは?
ケイゾウ:僕らがメジャーと契約したのは2000年くらいで、その頃でももうテープを使うのにお金がかかると言われてたんです。それでもぶっといテープを使わせてもらってたんですけど、当時はその効果が自分でも分かってなかったんですよ。昔のロックが好きやったんで、「テープを使える所じゃないと録りたくない」みたいなことを言ってて。それ以降、コンピューターのお陰で誰でも手軽に録音できるようになって、CDにかけられる予算が少なくなっていくなかで、アナログ録音のことをずっと引きずってたんですね。それで以前からお小遣いができるとちょこちょこ昔の機材を買い集めてて、この3人で新しくKING BROTHERSを始めるにあたって、ずっとやってみたかったことをやろうと思ったんです。今回のスプリットの前にブッチャーズのトリビュートに参加させてもらって、それが新生KING BROTHERSの最初の作品だったから、アナログで録ってみようと。最初はテープの巻き方すら分からなくて、西宮のスタジオの長老みたいな人に電話をして教えてもらったんですけど(笑)。
──実際に録ってみてどうでした?
ケイゾウ:もともとKING BROTHERSがやろうとしてることってシンプルで、キレイに録っていくことよりもその瞬間を切り取る一発録りのほうが性に合うんですよね。いろんな偶発性を含めた音のほうが僕は興奮することも多いし。そういうバンドだから、後戻りできないアナログ録音は緊張感もあって凄くいいんですよ。
──ブッチャーズのトリビュートで「JACK NICOLSON」を取り上げたのはどんな理由で?
ケイゾウ:KING BROTHERSとブッチャーズのことをよく知る友人に相談して、「KING BROTHERSにはこれしかないですよ!」って薦められたのが大きいですね。
──オリジナルの「JACK NICOLSON」は、田渕ひさ子さんが新たにメンバーとして加入して「このバンドで踏み込んでいたい」「このバンドで存在していたい」とバンドを続けていく決意を表明した曲で、再始動するKING BROTHERSの心境にも重なるだろうから、まさにうってつけだと思ったんですよね。
ケイゾウ:絶妙なタイミングでカバーできましたね。「悪い大人の手本でいたい」っていう歌のテーマにも共感するし、聴いた瞬間に最高だと思いました。今後もずっと自分たちのライブで演奏していく曲だと思います。
素直に格好いいと思えることを追求したい
──さっきケイゾウさんが活動再開にあたって「もう好きなことだけやってやろうと思った」と言っていましたが、端から見るとKING BROTHERSは好きなことしかやってこなかったように思えるんです(笑)。でも、決してそういうわけじゃないんですよね。
ケイゾウ:確かに、やりたくないことはやってないですね。ただ、もっとシンプルにやりたいことをやって、人に格好いいと言わせたいんです。いろんな活動を経ていろんな人たちが関わるようになって、自分のやりたいことを見失うことも何度かあったんです。でも、そんなふうに迷ってる場合じゃないよなと思って。自分が素直に格好いいと思えることを追求して、人に格好いいと言ってもらえたほうが喜びも大きいので。
──昨夜のライブも充分格好良かったですからね。とは言え、復活以降のライブはまだ数本。もっとライブを見たいですね。
ケイゾウ:震災復興のライブを入れてまだ3本…いや、4本かな[3月4日の時点]。こっそり練習を兼ねたライブを1回やったので。フルセットの長いライブは西宮と昨日のUNITだけなので、どんどんやりたいですよ。そのためにも頑張って練習して、もっと上手にならなあかんなって思っていますし。
──上手になりたい気持ちは一応あるんですね(笑)。
ケイゾウ:もちろんありますよ(笑)。(マーヤに)ね?
マーヤ:俺はもう、すでに充分上手いので(笑)。
──(笑)ゾニーさんは、2人から「こんな感じで叩いて欲しい」というリクエストをいろいろ受けたんですか。
ゾニー:リクエストはたくさんあるんですけど、僕は2人のやりたいことをしたいんですよ。そのリクエストに対して「自分はちょっと違うな」っていうのは全然ないです。いいタイミングで「JACK NICOLSON」を録らせてもらった時も、26インチのバスドラっていう全くの聞かん坊を使ったことで「これがゾニーのドラムだ!」と胸を張れるプレイが生まれたんですよ。そんな扉を開けたのも2人のリクエストがあってこそだし、凄く有り難いですね。
──26インチのバスドラを使うのはどんな意味があるんですか。
ケイゾウ:とにかくデカいドラムが格好いいので、ゾニーのために用意したんです。実際に彼がそれを叩いた時にずっと欲しかったサウンドが鳴ったので、もうこれしかないなと。僕のギターとマーヤ君のギターが左右に分かれていて、真ん中から26インチのバスドラがどっかんどっかん聴こえてくるのがシミュレーションしてたサウンドなんですけど、それが「JACK NICOLSON」を録った時に実現したんです。今のロック・バンドで、両面張りで穴の空いてないドラムセットを使うなんてなかなかいないし、変態だと思いますよ(笑)。
ゾニー:普通のドラマーはまず踏めないですからね。中に何のミュートも入ってないですし。僕も慣れるまで凄く時間がかかったんですよ。
──「好きなことしかやらない」新生KING BROTHERSが目下やってみたいのはどんなことですか。
ゾニー:誰もやらないような奇抜で面白いことをやっていきたいですよね。今回のCD特典もおかしいじゃないですか。「“ROCK AND ROLL”アフター・パーティー券」って意味が分からないですよね?(笑)
ケイゾウ:ここ何年も外国のツアーに行けてなかったので、それをまたやりたいですね。あと、海外でもリリースできるCDを作りたいです。作品を作る時はいつも国内向けと海外向けで音源の形を分けなくちゃいけないみたいな感じがあるんですけど、そうじゃなくて、どこで聴いても格好良く聴こえる音源を作りたいんです。そういう音源を作って、海外でリリースできるチャンスがあれば出して、その場所に行ってツアーをする。そういうことがやりたくて今回のスプリットを作ってみたんです。だからチャンスがあれば、このスプリットをニュージーランドでも出せればいいですね。昔に比べて作品を作ることは簡単になってるし、商品でなければ誰でも世界中に音源を発信できるじゃないですか。自分たちさえ求めればそういうチャンスは巡ってくるし、もっと作品を発表して世界にコネクトするチャンスに繋げたいですね。
マーヤ:やっぱり、今回のレコーディングの方法がええんやろなって思うんですよ。不安も多少あったんですけど、やってみたら俺たちに合ってた。前からこのやり方で良かったのに、方法論を知らなかったんです。昔は「レコーディングにはこの方法しかないんだ」って押しつけられてたわけですよね。それはもちろん知ろうとしなかった自分たちが悪いんですけど、知ろうとしたから今がある。だからやっとあるべき形に行き着いたんだなと思って。このスタイルを続けてどこまでブレへんもんなのか、試してみたいですね。今の状態ならやりたいことを楽しくやれそうやから。