“初期衝動”がD・O・Tの重要なキーワード
── 去年の9月にレッドシューズで行なわれた新生D・O・Tの第1弾ライブは、1曲目がNURSE後期の代表曲「赤い月/RED THE MOON」でしたよね。あの選曲が失われた四半世紀をつなげたと言うか、後期には民族音楽の要素がある楽曲もあったNURSEからの流れが新生D・O・Tにとって必然だったように感じたんですよ。
NEKO:不思議ですよね。25年間切り離されていた景色が、この2人と再会して音を合わせるうちにつながったんです。NURSEの頃に予言のように唄っていたことが現実のものになって、すべてはここに至る道程だったんだなと実感できたんですよ。若い頃に自分でメンバーを募集して始めたNURSEもムダじゃなかったんだなと思えたし、それはD・O・Tにつながるためのものだったんですよね。
── 話を伺っていると、まるで3人が引き寄せられるように巡り会う運命だったんじゃないかとすら思えますね。
NEKO:ホントにそう思います。2人と25年振りに再会しても、当時と同じように話ができて違和感もなかったですし。それと意外だったのは、2人がアラブ音楽にも興味があると言ってくれたことなんです。それが凄く嬉しかったんですよ。
── NEKOさんが加入する前にも、D・O・Tにはアラビックな曲調のナンバーがあったそうですね。
HIROSHI:今回PVを作った「72」という曲は彼女が入る前に作ってたんだよね。
MARU:僕も“いかあぶら”のオープニングSEでアラブ調の曲を作ったことがありましたからね。
NEKO:そういう偶然が重なって凄くびっくりしたんです。あと、さっきMARUちゃんが話していた土取利行さんは私も凄く好きなパーカッショニストで、ピーター・ブルック国際劇団の音楽家としても有名な方なんですよ。前からとても興味があって、CDも全部揃えていて、ライブを見に行ったりもしていたんです。そんな土取さんのグループに旧知のMARUちゃんがいたっていうのも驚きだったんですよね。会っていない間にそんなことをやっていただなんて。
── やっぱり、見えない糸で結ばれていたとしか言えませんよね。
NEKO:以前のHIROSHI君のイメージからはアラブ音楽が好きだなんて想像もできませんでしたからね。でも、ムズマール(オーボエと同類で、2枚のリードを持つ円筒型管楽器)とか民族楽器のことも凄く詳しいし、アザーン(イスラム教における礼拝への呼びかけ)のCDを持っていたりして、ちょっと感動しちゃったんです。
── D・O・Tを形作る要素のひとつだったアラビックなテイストが、NEKOさんが参加したことでフォーカスが絞られたわけですね。ひいてはそのイメージがバンドのアイコンとしても機能しているという。
MARU:視覚的な部分や雰囲気は彼女のおかげでだいぶ定まりましたよね。
HIROSHI:「72」みたいな曲の旋律はたまたま浮かんだだけで、アラブ音楽を意識した楽曲をやるバンドにしようと思っていたわけじゃない。でも、その手の曲が増えたのは間違いなく彼女の影響だよね。アラブ調の曲は自然とフィットするし、ライブで踊れる要素も増えたから。
NEKO:ただもちろん、アラブ音楽そのものではないんですよ。そこからインスパイアされつつ、HIROSHI君独特のベース・ラインやMARUちゃんのタイコが活きた曲になっているので。
── 確かに民族音楽べったりではないですよね。部分的な要素として咀嚼した上でD・O・Tにしか出せないハードコア・サウンドとして昇華していますし。
HIROSHI:そう聴こえるなら嬉しい。実を言うと、アルバムをあと3、4枚作れるぐらい曲があるんだよ。NEKOが入ってからさらに増えてるしね。その中からファースト・アルバムに入れる楽曲を選ぶ上で、僕はやっぱりハードコア色を強く打ち出したかったわけ。そこから始まったバンドだからね。何曲かはアラブ調の曲も入れたけど、結成してから出来た曲を順に入れるぐらいの構成にしたかった。
── だから敢えて「D・O・T」みたいな初期のハードな曲も入れたんですね。歌詞にもある通り、D・O・Tがまだ“Deborah Harry On The TV”を正式名称として名乗っていた頃のもので。
HIROSHI:“Desert Of Tomorrow”と正式に名乗る前だね。アルバムの中で若干浮くかな? とも思ったんだけど、「D・O・T」は初期衝動から生まれた楽曲のひとつだし、やっぱり外したくなかったんだよ。
MARU:初期衝動っていうキーワードがD・O・Tの中では大事なんですよね。それはパンクを語る上でもね。
何も音を埋めればいいってもんじゃない
── 確かに、アルバム前半の曲は「NO WAY」や「72」を筆頭に初期衝動で疾走する直情径行ナンバーの乱れ打ちですが、後半はD・O・Tの音楽性の幅と各人のスキルが窺える構成ですよね。妖艶なアラビック・インストゥルメンタルの「RAQS D・O・T」、重厚にうねるアンサンブルを組曲のように聴かせる大作「I・B・M」、バンドの“静”の部分を前面に出した「CORRESPONDANCE」、先述した「D・O・T」、性急なリズムながらキャッチーでカラフルさもある「AQUARIUS」と、とてもバラエティに富んだ楽曲の連なりになっているじゃないですか。だから、LPで言うA面・B面みたいな感覚もあるんじゃないかなと思って。
HIROSHI:やっぱりアナログ世代だから、曲順を考える時にA面・B面みたいな発想が頭から離れないんだよね。それが一番手っ取り早いしさ。
── NEKOさんが加入して以降に出来た曲はどの辺りなんですか。
NEKO:「RAQS D・O・T」、「I・B・M」、「CORRESPONDANCE」の3曲です。「RAQS D・O・T」はステージ上で踊りに徹する曲なんですよ。今のD・O・Tでは踊りもひとつの重要なパートなんです。
── ギターは曲によってHIROSHIさんが重ねていますが、この3人編成になってからは基本的にギター・レスで行こうと決まったんですか。
MARU:ライブではサポートを頼むこともあるんですけど、今はこの3人だけでやるっていうのがとてもしっくりしてきたんですよ。バンドって何も音を埋めればいいってもんじゃなくて、D・O・Tをやっていると間を活かすことが凄く楽しいんです。
NEKO:ギターがなくても、リズム隊の音が逆に強力に聴こえますからね。ロック・バンドだからギターがいて当たり前っていうのが当たり前じゃなくてもいいんじゃないか? っていう発想なんです。それにHIROSHI君のベースは凄い独特で、ただリズムを刻むだけのベースとは全然違うから、私はギターがいなくても別にいいと思う。MARUちゃんもいろんなパーカッションを器用に叩くし、たまに踊ったりもするし(笑)、2人とも華がありますからね。
MARU:音を埋め尽くすんじゃなくて、研ぎ澄まされた一音を出す感覚が凄くスリリングで面白いんですよ。まぁ、ライブハウスのPAは困ってるみたいですけどね。「ギターがないとロックの音にならない」って。
── でも、普通はやると思われるようなことを敢えてやらないのがパンクじゃないですか。
NEKO:そうなんですよ。先入観を取り払えば面白い景色が見えるはずなんです。
── それにしても、NURSE時代を彷彿とさせるNEKOさんのハイトーン・ボーカルが四半世紀のブランクを一切感じさせないのが凄いですよね。
MARU:良く言えば無邪気な感じだけど、ちょっと幼稚園児みたいだよね(笑)。
NEKO:普段は声が低めなんですけど、大きな声で叫べば叫ぶほど子どもみたいになっちゃうんですよ。自分でも不思議なんですけどね。
MARU:何かに打ち込んで夢中になる様が無邪気なんじゃないかな。
HIROSHI:このバンドではもともと女性ボーカルを入れたかったんだよ。NEKOは単なる唄い手じゃなくて、踊りという大きな武器も持ち合わせているから逸材だよね。踊れる人を入れようというコンセプトは最初になかったけれども、結果的には“やっぱりこの人だな”って素直に思えたからさ。
MARU:その踊りも凄く面白いんですよ。本場のエジプトで学んだトラディショナルなスタイルと、突然飛び蹴りを喰らわすようなハードコアの側面もあるので(笑)。D・O・Tのライブは見せ場がたくさんあるから面白いと思いますよ。