今年で結成18年を迎えるplaneがミニアルバム『Airport City 82』以来、5年半ぶりとなるフルアルバム『僕らに今があるということ』をリリースする。前作をリリースして以降、キクチユウスケ(Vo.Gt)は、弾き語りで全国を旅し、そこで出会った人たちや、日頃から自分を支えてくれる仲間、友達、ファンの方への思い、そして改めて音を奏でていくことを強く感じていた。そして完成した今作は、これまで以上に歌うこと、音を鳴らすことに対する強い意志を感じられる作品だった。それぞれに過去があって、それを背負いながら今を生きている。
キクチ自身も、昔からの夢であったカフェの経営をしながら、現在音楽活動を行なっている。少しずつ自分と音楽活動とのバランスが取れ始めているのだそう。きっとplaneは、今後も気張ることなくこうして音楽を続けていくのだろうということを感じられた。久しぶりに会った彼は、自分の芯となるものを見つけたんだろうと思うほど、言葉からも自信が溢れていた。(interview:やまだともこ)
音楽をやらなしゃあないやん
── 今作『僕らに今があるということ』は5年半ぶりの作品だそうですが、ライブ活動はされていたので、こんなにも長い期間リリースされていなかったとは驚きました。
キクチ:お店に並ぶ作品としては5年半ぶりですけど、その間にアコースティックライブアルバムやミニアルバム『ENTRANCE』を会場限定でリリースしていましたから。
── 前作からの5年半の間に自主で活動をするようになったり、キクチさんはお店を経営し始めたりもして。
キクチ:前の事務所を辞めて、その後いろいろとありましたね。昔からカフェをやりたいという夢があって、planeもお世話になっているレコーディングエンジニアの間瀬さんが経営している、スタジオを併設しているカフェ(TOOTH BRUSH.be)で働いたんです。間瀬さんのおかげで今のplaneがあると思っているし、間瀬さんとずっと仕事がしたかったので。そのお店の夜の時間を自由に使って良いよと言って頂いて店長をやらせてもらい、カフェをやったり、ライブをやったり、合間にスタジオを使ってレコーディングをしていたんです。それが3年ぐらい前で、このアルバムはその時から録っていたものです。それで店長をやり始めて1年経ったぐらいに、今中目黒で“ONDEN”と“OOPS!”というお店をやってるんですけど、この店のオーナーに誘われて経営に携わるようになって。でもそうなると、まわりの人から、音楽はもうやりたくないんでしょって言われるようになったんですけど、そういうわけではないんです。
── キクチさん1人での弾き語りも精力的に活動されてますしね。でも、以前はソロで活動されることがあまりなかったように思いますが。
キクチ:メジャーにいた時は、バンドの曲をアコギ1本で出来るわけがないって、弾き語りをやらなかったんです。もともとアコギで曲を作ってなくて、スタジオでメンバーと合わせながら曲を作っているから、アコギ1本でやるということが無理やったというか。でも、一昨年の震災の次の日ぐらいに、シンガー・ソングライターの大柴広己くんに誘われて、香川にあるRUFFHOUSEというライブバーに出演したんですけど、その時に大柴くんがMCで「音楽を好きでいてくれてありがとうございます」ってお客さんに言っていて、それが、すごいなと思ったんです。もちろん頭ではわかっていたことなんだけど、震災直後で気持ちは東京にあったから、口に出せる状況じゃなくて。でも、「地震があったら、医者は治療をするでしょ。ミュージシャンもミュージシャンをやらなければしかたないでしょ」と言う彼の言葉を聞いた時に、バンドで音楽をやるという概念がなくなって、1人の人として音楽をやらなしゃあないやんって。それで大柴くんと2人で弾き語りのツアーに出て、30歳になってから毎年1枚ずつソロのCDを作っているんです。今32歳なので3枚リリースしてきましたが、そこでやっとミュージシャンになった気がしてます。それまではバンドのために曲を作っていたけれど、自分が書きたいから曲を書くという、心境にも変化があって。
── planeの活動よりもソロで活動するほうが多くなっていたんですか?
キクチ:そうですね。もうバンドは辞めてるんじゃないかぐらいの見え方はしていたかもしれない。でもその間に他のメンバーはサポートの仕事をしたり、他のバンドを始めたりしていましたから。その時にメンバーに言ったんです。バンドって、それぞれが1人で音楽を出来る人間じゃなかったら一緒にやる意味がなくない? って。
── どういうことですか?
キクチ:このメンバーがおらな音楽出来へんねんっていうヤツじゃダメだということなんですけど。僕がソロの活動をしたいとメンバーに言った時に、やって欲しくないって言ったメンバーもいたけれど、どんどんやったらって言ってくれるメンバーもいて、その言葉に救われてやるようになって。アルバムに収録している『街』という曲は、ソロで演奏していたものをバンドで合わせたんです。曲の作り方も前に比べると変わってきていて、ほぼ弾き語りで作った曲なんですよ。これまでは作曲はplane表記だったんですけど、今回初めてキクチユウスケが作詞・作曲したアルバムなんです。僕が憧れていたミスチルとか、そういう世代の人たちの作り方にようやく一緒になれたという感じもしてます。
── 一番やりたい形になってきてるということですか?
キクチ:やっとですね。バンドとして僕が思い描いていた普通の形になれたと思っていて、だからこそ次の作品もすごく大事なものになると思います。次はplaneでしか出来ない事をやる4枚目のアルバムと考えて始めています。
「続ける」ことは「やめる」と言わなければ簡単なこと
── 曲はキクチさんが作ったものをスタジオで聴かせて、バンドで合わせていくんですか?
キクチ:スタジオで気ままに弾き語りして、メンバーが乗ってこなかったらやめる。僕、歌詞カードも譜面も書いたことがないんです。歌詞は僕がレコーディングで歌っているのを聴いて、ベースの木田くんが歌詞をパソコンで起こしていく。歌い終わったら、ここ言葉ちゃうなとか、自分が思ってる漢字とかひらがなとかを確認するんです。というのも、曲が届いて欲しい人たちが、メロディーと歌詞を聴いた時にどういうふうに頭で変換して、どう受け取るかというのを知りたいんです。その1人目がメンバーなので、木田くんが起こしたものを見て、この漢字を使うんやとか、ここはひらがなにするんやというのを知れるから、そこで刺激を受けるんです。
── ということは、自分のイメージと違っていても直さないところもある?
キクチ:直さないほうが多いです。
── 聴き取れるようにはっきり歌うようになったりは?
キクチ:それはメジャーですごくしごかれましたから(苦笑)。今回3回ずつぐらいしか歌ってないんです。ライブで歌ってきた曲だし、間瀬さんからも木田くんからもOKが出たから。自分がOKかどうかより、聴いてる人がOKだったらそれが一番良いんです。だからレコーディングで全然時間がかからない。他の楽器もそんなに何度も演奏してないですね。
── 聞いて良いのかわからないですけど、レコーディングではコミュニケーションをとりながらやっていくんですか? メンバー間であまり喋ってないイメージがあるんですが…。
キクチ:あまり喋らないけど、仲は良いんです。好きとか嫌いという存在でもないし。だからといって喋らなあかんとも思ってない。最近、解散とか脱退とか多いじゃないですか。頑張ったからそういう結果に至るんだと思いますけど、辞めるほどでもないと思うし、逆に言ったら続けると決意してやるほどのものでもないと思ってるというか。僕は音楽をやってることが普通だという感覚があるんです。
── でも、その「続ける」ということが一番大変だという感じもしますが。
キクチ:辞めるって言われなければ簡単なことです。それに、例えばバイトをしながらバンドをやってる人も多いと思いますが、やらなあかんことが2つあるから大変なんだと思っていて、そしたら時給で働くのではなくて短時間で稼げる方法を考えれば良いんじゃないかと思うんです。そうすれば、音楽に時間を注ぐことも出来るんじゃないかと。就職して土日だけバンドやれたらいいですって言う人もいますけど、それは正論やと思う。
── 仕事をしてるからって音楽への情熱がなくなっているわけでもなくて。
キクチ:そうなんです。僕も今音楽をやりたいと思っているから、自分のライブもやるし、ライブが出来るバー(OOPS!!)を経営するようになったし。
── ところで、メンバーそれぞれ他のバンドを始めたり、サポートしたりしていた時間があって、演奏がパワーアップしてたりとかはあるんですか?
キクチ:演奏というよりは、みんなやさしくなりましたね。もともとやさしいですけどね。じゃないと、辞めてると思う(笑)。
── 向こうも受ける器がさらに大きくなった。
キクチ:それに、仲が悪かったら、ツアーで8時間とか同じ車乗ってけえへんかと思う。そこを売りにするつもりはないけど、そういう意味でも僕は良いメンバーに出会えていると思いますよ。音楽以外の仕事でも一緒にやりたいと思うメンバーやし、生活の保障さえちゃんとしてあげることが出来たら今の仕事も一緒にやりたいと思う。ただ、前にライブの打ち上げでボーカルは強制参加みたいなものがあって、僕の買った車でメンバーが手を振って帰って行ったことがあって、「えーっ?」って思った事はありますけど(笑)。