「何これ!?」って笑ってくれればそれでいい
──今回、『Pop town』と題されたアルバムでメジャー・デビューを果たしたわけですが、これはどんな経緯で?
なつみ:新しいCDを出したくて、そんな頃にちょうどタイミング良く声が掛かったんです。入ってる曲はここ2年ぐらいで出来たものがほとんどですね。
──「私の犯罪学」の「あなたが笑うとわたしは吐きそう」というフレーズ然り、「ゼスチュア」の「あなた、わたしをさらってくれますか」というフレーズ然り、内なる感情を叩きつけるように綴られたなつみさんの簡潔にしてインパクトの強い歌詞がTHE××ズの特性を決定づけている要素のひとつに思えます。
なつみ:難しい言葉で唄われても、“意味分かんないじゃん!”って自分で聴いてて思うんですよ。だから、自分でも意味が分かるような言葉を使うように意識してますね。そのほうが相手にも伝わりやすいと思うので。
──影響を受けた詩人なり唄い手はいらっしゃいますか。
なつみ:昔はブルーハーツが好きだったから、甲本ヒロトの詞に凄く惹かれてました。意識して詞を書くようになってからは小説とかも読むようになって、太宰治とか寺山修司とかが好きになりましたね。ヴォーカリストとして影響を受けたのは、甲本ヒロトとジョン・ライドンです。
──そう言えば、「はなきちGUY」のPVの中で太宰治の『晩年』がチラッと映りますよね。
なつみ:太宰の『葉』っていう小説が『晩年』の中に入ってて、そこで「花きちがいの大工がいる。邪魔だ」って一節があるんですよ。それで『晩年』の文庫本をPVで使ってみようと思って。
──太宰のデビュー作である『晩年』をデビュー・アルバムのリード・チューンのPVで使うなんて、何だかシャレてますね。
なつみ:でも、『晩年』が太宰のデビュー作だったなって気づいたのは実は昨日のことなんです(笑)。それまで全然意識してなくて、全くの偶然なんですよ。バンドの活動もそうなんですけど、偶然が重なって重なってこうなった感じなんですよね。
──それにしても、「はなきちGUY」のPVはパンチがありますよね。曲のコーラスの「ウマウマ」に合わせてなのか、メンバーがウマに扮してナゾの踊りを披露するっていう(笑)。
なつみ:こないだ久し振りに友達から電話が掛かってきて、「PV見たよ」って言われたんです。「どうだった?」って訊いたら、「笑っていいのか笑っちゃダメなのかよく分からなかった」って(笑)。でも、自分たちとしては完全に笑って欲しくて作ったつもりなんです。
──まぁ、「何じゃこりゃ!?」と度肝を抜かれるのは確かですね(笑)。
なつみ:まさに「何じゃこりゃ!?」用に作ったんですよ。「何これ!?」って笑ってくれればそれでいいかなって感じのPVなので。
──楽曲自体が「何じゃこりゃ!?」ですしね(笑)。でも、日本人の血が躍る和製グルーヴが全編で貫かれていると言うか、パンクと祭り囃子が融合したようなTHE××ズ流の乱舞チューンだと思うんですよ、「はなきちGUY」は。
なつみ:今年に入ってパソコンを買って、専用のソフトで曲を作ってるんですよ。「はなきちGUY」はたまたまあのリズムが思い浮かんで、それからメロディとかを付けていったんです。日本人っぽい感じは自分ではしなかったですけど(笑)。ホントはもっと遅いテンポだったんですけど、メンバーに持っていったらどんどん曲調が早くなっていって、それはそれで面白いねっていうことになったんです。今回のアルバムの中でも一番面白い曲だなって思います。
──パソコンを購入するまで、曲作りはどうしていたんですか。
なつみ:全然作ってなかったです。れんさんがメインで曲を書いて、私は詞だけを書いてました。上京する前はネット環境もテレビも何もなかったんですよ。コンビニも近所になかったし。何せ最寄りの駅まで自転車で20分掛かるような所に住んでいたので(笑)。れんさんの家は割と近かったんで、バンドをやる上では良かったんですけど。
──今作では半分ぐらいの作曲をなつみさんが手がけているそうですね。
なつみ:前回は曲がれんさん、詞が私で分かれてたんですけど、今回は曲が半分れんさんで半分自分、詞は全部自分っていう割合なんです。曲を作りなさいよと周りからずっと言われてて、自分が作れるわけないじゃんと思ってたんですが、「GarageBand」っていう便利なソフトがあるんだよって教わりまして。いざ作ってみると、意外と楽しいですね。
──初めて作曲を手がけたのは……。
なつみ:「はなきちGUY」か「愛の生活」のどっちかですね。
──「愛の生活」は収録曲の中で唯一穏やかな曲調で、愛くるしい小品と言うべき曲ですよね。7分近い長さがあるから小品とは言えないかもしれませんが(笑)。
なつみ:THE××ズではちょっと変わった曲ですね。最初はもっと曲が長くて、あれでもけっこう削ったんですよ。