美しいと思い込んでいる過去は爆破してしまえばいいんです
── ところで、アルバムの最後に収録されている『ノンフィクションソング』は、生きていく上での壮大なメッセージソングだと受け取りましたが。
松永:昔であったら「生きろ」とか「死ぬな」とかを言うのはおこがましいかなと思っていたんですが、今回はあえてアルバムの最後で僕自身の個人的な気持ちを書いても良いんじゃないかなって。今までももちろんそういうことを歌っている曲もありましたけど、今回は今まで以上に個人的な気持ちで書きました。『ももいろクロニクル』でも、「君の病気は治らない だけど僕らは生きてく」という個人的な気持ちを書きましたけど、今回は命令形にすることで、おこがましい言い方をさせて頂いております。
── 何度聴いても鳥肌が立つんですよ。2人の声で命令形を力強く歌う感じも良くて。
浜崎:「アーバンギャルドなりの応援歌だね」って言われたことがあって、そこで初めて「これメッセージソングっぽいな」と思って。「頑張れ」と歌うこと自体がメッセージソングだと思ってましたけど、これだけ具体的に言葉を言うことが今の時代のメッセージソングになるのかなって。
松永:命令形で「生きろ」とか「死ぬな」とか言ってもいい時代になったんじゃないのかなって。それだけ世の中は切迫しているし、強い言葉で自分たちの在り方を決めていかなければいけない時代になったのかなという気はしています。
浜崎:より強く言う人がいないと響かなくなってきたのかなって。
松永:みなさんがネガティブだと感じる言葉で言えば、老いというものを初めて今回のアルバムで描けたと思っていて、1曲目の『魔法少女と呼ばないで』は、今までは「かわいい」というものに対しての執着を書いてきましたけど、今の若い女の人って、老いるということに対してすごく恐怖を抱いていると思うんです。それをありのままに書いてみました。
── それは何かきっかけがあったんですか?
松永:僕は今年30歳になって、自分自身の中でいろいろと切り替わった部分があったんです。『さよならサブカルチャー』のDメロで、「恋したレコードも埃をかぶってく 肩が出そうなワンピース もう着られない」という歌詞がありますけど、20代後半とか30代前半のファンの女の子が聴いたらショックを受けるような歌詞でもあると思うんです。
── 確かに私ももう着られないと思ってます(笑)。
松永:でも、そういうことを気にしなくても良いんだよということなんです。少女性だとかは老いても完全に失われるというものでもなくて、おじさんがときどき少年のような眼差しをすることがあるじゃないですか。
浜崎:あなたいつまでも少年のようだけど。
松永:変わることを恐れないでほしいし、変わるということは悪いことばかりじゃないし、過去ばかりが美しいわけではない。美しいと思い込んでいる過去は爆破してしまえばいいんですよ!! 爆破しても自分は自分でいられるし、爆破してもアーバンギャルドはアーバンギャルドなんだぞということだと思います。
浜崎:理想の死に方を考えることを終わりの活動と書いて“終活”と言うと、知人クリエイターが話していたのを聞いて、終活について考えるようになったんですけど、必ず死は来るし、必ず老いる。だったら今をもっと大切に生きることを考えなくちゃいけないとは思いますね。私も年を重ねていく中で、今までは人がどう見るかとか、こういうことはアーバンギャルドのボーカルは言っちゃいけないんじゃないかとか考えてましたけど、自分がどんなに一生懸命考えて言っても100%は伝わらないんだから、だったら自分がやりたいようにしたほうがいいって思うようにしたら気持ちがラクになりました。悔いが残るんだったらやれって思うし、迷ってるんだったらやめとけって。
── わかります。
松永:それと、これはあとになって気付いたんですけど、お釈迦様は人間が生まれた時から受け入れる四苦を生病老死と言いましたけど、今年リリースした3枚のシングルとアルバムのテーマがまさに生病老死で。『生まれてみたい』が“生”、『病めるアイドル』が“病”、『さよならサブカルチャー』が“老”、『ガイガーカウンターカルチャー』が“死”。
── この1年でお釈迦様の域に。
浜崎:この1年いろんなことがあって、いろんな人間を見て、いっぱいいっぱいになることあったけど、結局は良いものを作りたいだけなんだなって。原点に立ち返れた年でしたね。
松永:今までの自分たちにはありえないぐらい今年はリリースしたり全国ツアーに初めて行ったり、バンドというものにどっぷり浸かるようになって、自分が創作をすることが日常になったんですよ。インディーズ時代は趣味の延長で非日常の部分もあったけど、完全に日常になったことによって、自分の中でこうやって死ぬまで続けていくんだなというのが覚悟に変わった1年でした。30歳の節目になるようなものが出来たなと思います。
浜崎:人間覚悟しないで生まれて来るけれど、いつかは自分で覚悟しないといけない時があって、それが我々にとって今年だったなって感じてます。
── ターニングポイントというか。
浜崎:メジャーデビューした時も覚悟してやったと思っていたけれど、今はミュージシャンとして生きていくということに対して覚悟が出来たなって思います。本当の意味での覚悟を自分たちの中で見いだせたから、その流れでこのアルバムが出せるのは本当に嬉しいです。
── だから使う言葉が変わってきたのかもしれないですね。
浜崎:音もみんな強い音を選ぶようになったと思っていて、攻撃性だったりとかみんなの決意に表れているんじゃないかと思います。
知識を血肉にしていく過程でフィジカルなものに向いていく時期なのかな
── 『コミック雑誌なんかILLかい』はまさかミクスチャーで来るとは思ってなかったですし(笑)。
松永:アーバンギャルドなりのミクスチャーですね(笑)。ミクスチャーなのかもよくわからないですけど。
── タイトルは頭脳警察からインスパイアされて?
松永:あとは、内田裕也さんの映画『コミック雑誌なんかいらない!』のイメージもありつつ。今回のアルバムって今の文化をそれぞれ歌にしているんです。『コミック雑誌なんかILLかい』は今の漫画文化とかコミケ文化に対して書きたいなと思って。「世界は壊れかけのコミックマーケットだから」というワードがはまった。僕ら自身もリアルとフィクションの間で揺れているようなところがあるなと。それで曲の中で面白味として、浜崎さんの声にボーカルエフェクトをかけまくって初音ミクみたいな声にしたり、ヒップホップ的な打ち込みのサウンドと、バンド風のサウンドが交互に来ることによって、リアルとフィクションの間で揺れているニュアンスが出せればなと思ったんです。
── ドラムの鍵山さんが手掛けた『トーキョー・天使の詩』はサビでこんな大袈裟なバラードを入れてくるとは! と思いましたよ(笑)。
松永:鍵山くんの曲は初めて採用されましたけど、最初はロカビリー風のものだけで全編通してたんだけど、それだとちょっと聴き流せちゃうからここでクイーンになろうよって(笑)。
── 『処女の奇妙な冒険』では、浜崎さんが「処女」を連呼する潔さも良いですね。
浜崎:人からはばかられる言葉って、言ってみるとけっこうスッキリしますよ(笑)。
松永:この曲のタイトルは某漫画からですけど、イメージ的には女子高生文化です。援助交際とか出会い系とか、女の子って成長してくると街からいろんな誘惑があったり、悪い大人が声をかけてくるようになる。それがまさしく奇妙な冒険なんですよね。路地裏につながる冒険というか。
── 『眼帯譚』はどこか80'sPOPS的な要素もありつつ。
松永:『眼帯譚』はダンス的なものと和ロック的なものをまぜつつ、歌詞とサウンドは“あなた”と“私”という、カメラワークが切り替わっていくようなイメージで作りました。
── この作品を持ってツアーがありますが、今回も濃厚なライブになりそうですね。
松永:今回の作品は今まで以上に生楽器が出ているので、かなり楽器隊は大変ですけど、ライブらしいライブになりそうです。1曲目のド頭からドラムソロで、とにかく楽器が目立ってる。打ち込みを極力抑えてキーボードだけでやってる曲もあるし、今まで以上にサウンドが血肉になっているんじゃないのかなって。その分僕ら自身のハードルを上げなきゃいけない部分もありますし。だから僕もライブを乗り切るためにジョギングとか始めたり!運動音痴なんですけど(笑)。アーバンギャルドは知識を詰め込むバンドですけど、知識を血肉にしていく過程でフィジカルなものに向いていく時期なのかなと。体を使って楽しみたいなと思っている時期なのかもしれません。
── 次のツアーは、一皮剥けた天馬さんの機敏な動きが見えるかもしれませんね。
松永:浜崎さんも一皮剥けるんじゃないですか。
浜崎:…そういうのいいよ。
松永:浜崎さんは衣装に注目です。
浜崎:赤坂ブリッツでさらにすごくなる予定ですので楽しみにしていてください。とにかく衣装も派手にしたいし、アルバムも派手じゃないですか。だからド派手に行きたいなと思って。今はYouTubeでライブも見れるし、曲も聴けるけど、CDを通して聴いたほうがより面白いものが発見出来るかもしれないし、ネット配信しているのを見てライブに参加したつもりになるなよとは思いますけど。ステージ上ではアクシデントもありますし。人の気持ちはつなぎ止められないから、その時に好きでいてくれることが大事だと思ってますが、ライブも今後やりたいことがいっぱいあるし、これが最終形じゃないし、その時に来たいと思ったら来てくれたら良いし、でも逃したら同じものは見れないよって言いたいです。