Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューアーバンギャルド(Rooftop2012年11月号)

古い価値観を爆破せよ!
「価値基準の創造」から生まれた『ガイガーカウンターカルチャー』

2012.11.01

 アーバンギャルドが10月24日に『ガイガーカウンターカルチャー』をリリースした。今年は3月に『生まれてみたい』、6月に『病めるアイドル』、9月に『さよならサブカルチャー』の3枚のシングルと、ライブDVD『アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気。』を発表している。
 『ガイガーカウンターカルチャー』は、前作でサブカルチャーにさよならをした彼らが「新しい基準値を作る」と同時に、現在の日本において自分はどう生きたいのかを問い直すという意味も込められた作品だ。インタビュー中、松永天馬は何度も「自分自身が持つ既存の価値観を爆破して欲しいんです」と言っていた。そうして自分の価値基準を更新しながら「生きる」ということが大事なのだと。剥き出しの「生」と「死」が提示された作品だ。しかし、一見過激なバンドと思われがちな彼らだが、曲は普遍的なものが多いし、歌詞も現代を象徴しているようで、2012年の日本をありのままに映し出しているように見える。
 今回もボーカルの浜崎容子と松永天馬にお話を伺った。予定時間を大幅に超えるインタビューではあったが、彼らの思いは充分に感じられるのではないだろうか。(interview:やまだともこ)

カウンターを決める相手というのは他者であると同時に自分である

── 2012年はシングル3枚、アルバム1枚、DVD1枚をリリースし、活発に活動されてましたね。

松永天馬(Vocal):メジャー1st.アルバムの『メンタルヘルズ』(2011年10月リリース)でインディーズで培ってきたことが総括できた気がしていて、シングル『生まれてみたい』では今まで作ったことがないやさしい歌に挑戦しました。その後にリリースした『病めるアイドル』ではバンドがアイドルをやるというコンセプトのもと、演奏をせずに楽器陣も含めてライブで踊ることにも挑戦して。

浜崎容子(Vocal):6月のツアーで初披露して。7月に“アイドル五番勝負!!!!!”と題してBiS、でんぱ組.inc、Negicco、バニラビーンズ、ぱすぽ☆といった個性派のアイドルとツーマンライブをやって、そこでも踊りを披露して。初めてCDからオケを流したんです(笑)。

松永:それで、9月には『さよならサブカルチャー』をリリースして。これは僕らサブカルバンドと言われることがけっこうあって、サブカル的なものはもちろん好きですけど、サブカルが趣味ですとか、サブカルだから好きですみたいな人が増えてきて、そういうものに違和感を感じたんです。それで、今までの“サブカル”に一度さよならを告げようということで、PVでは僕たちの今までの衣装だとか、サブカル的なレコード、漫画、本とか、ファミコンソフトなどを棺に詰めて最後に爆破しました。

── 爆破はCGじゃないんですか?

IMG_4880-1.jpg松永:本当に爆破したんです。法律で爆破シーンを撮って良い場所というのが決まっていて、戦隊モノで使う採石場に行って。そこに西部警察などを手掛けている特効さんが火薬をしかけて「5秒後に爆発します!」って。イメージ的に昔の刑事物みたいな感じで、僕らが歩く背後に棺が置いてあって爆破するというシチュエーションで、あらかじめ「大きい音が出るのでビックリしないようにしてください」って言われていたんですけど、予想以上に大きい音で。

浜崎:しかもすごく熱いんですよ。背中に熱風が来て焼けそうなぐらい。

松永:その部分はスローモーションで使ってます。今どきCGで済ませるのが多いと思いますけど、爆発の現場に立ち会えることなんてないから。

浜崎:PVを撮って頂いた監督さんも爆破に立ち会ったのは初めてだって喜んでいて。

松永:最初は棺を燃やしたいという話だったんですけど、爆発にしたら面白いんじゃないかって。

浜崎:そんなに別れたかったんかって思いますけど(笑)。

── 以前みなさんのイメージキャラクターでもあるキューピーを、ライブ中にステージ上でぶった斬ってましたし…やることが大胆ですよね。

松永:たぶん自分たちの型が決まっていくことがつまらないんですよ。今回のアルバムは、『メンタルヘルズ』で一度固まった自分たちの型を崩しながら作っていったアルバムなんです。僕らとしては自分たちの持っていたサブカルチャーというものをもう一度捉え直すことによって、新しいカルチャーの形を提示したいなと思って、このタイトルにしました。今の日本のサブカルって、社会や政治とかにうまく絡め取られちゃってる不甲斐なさを感じている部分があるんです。僕はエヴァンゲリオンが昔から好きで、エヴァって当時メインカルチャーには出てこれないものでしたけど、今は庵野秀明さんが美術館で展示をやったり、日経ビジネスに「エヴァとコラボすることによって利益が2倍向上」って書かれたり、ビジネスになっていて、それってサブカルではなく実際にはメインカルチャーなんですよね。

浜崎:それとサブカルっていつのころからか、自己顕示欲とかを満たしてくれるものになっちゃったなって思うんです。これ知ってる自分イケてる、というものになってしまったなって。それを知ってるからって優越感とか持たなくても良いのに。最近の世の中って“個性”って言葉が汎用化されすぎちゃって、個性的なものを探し出すためにサブカルという道に乗ってる人もいるし、だからサブカルが好きっていう人もいるんじゃないかなっていうところに違和感があって。

松永:サブカルがモテの道具になってしまっているところがありますし。

── ありますね。一部から絶大な支持を受けていると思います。

松永:“ガイガーカウンターカルチャー”は、ガイガーカウンターとカウンターカルチャーをかけた言葉ですけど、ガイガーカウンターをみんなが持てば良いということじゃなくて、心に自分の中にしかない基準値を持とうというか、自分の中にしかない命の基準であったり、物事のよしあしの基準であったりを作っていかなければいけない時代になったという意味を込めたつもりなんです。ガイガーカウンターは数値を出してくれるけど、その数値に対して安全ですとか安全じゃないとか住めませんとかを判断するのって結局自分なんですよね。数字が正確な生き方を示してくれるわけではない。震災以降顕在化した、実は不安定なこの国で自分はどう生きていくのか、どう生きたいのか、自分がどうしたいのか、ということがすごく問われる時代になったと思うんです。そういう意味で、カウンターを決める相手というのは他者であると同時に自分であるということを伝えたかったんです。

浜崎:自己責任という言葉はあまり好きじゃないけれど、それぞれ自分の中で基準があって、自分と価値観が違う人を攻撃するのは違うと思いますし。

松永:時に人に対して意見することは大事だと思いますけど、人のことより自分をなんとかしたほうが良いんじゃないの? と感じることが多いですね。自分で決めたことに確固たる信念があれば、他の人の判断や考え方に対して頭ごなしに否定する必要はなくなると思うんです。

── なるほど。

松永:3月にリリースした『生まれてみたい』以降の3枚のシングルからこのアルバムに至るまで、繰り返し出てくる歌詞が「私になりたい」とか「私ってなんだろう」というもので、『病めるアイドル』はアイドルをシニカルに描いている部分があって、『さよならサブカルチャー』はサブカルになりたいって思ってる人たちに対して、僕自身もサブカルクソ野郎ですが(笑)、自分になるということを問い直すための曲になりました。

浜崎:それを言ったら私もサブカルクソ女かも(笑)。

松永:自分自身が持つ既存の価値観を爆破して欲しいんですよ。これがロックだとかロックじゃないとか言い始めるとロックがつまらなくなるのと同じで、サブカルとかそういうものに対する価値観を爆破する。どんどん意味を拡張させていきたいんです。

浜崎:今高校生だったり大学生だったりでサブカルが好きという人も、きっと10年後に思い出してモンゼツするぐらい恥ずかしい黒歴史になってしまうものだと思うんです。でも私はそれを黒歴史にしないで欲しいなと思っていて、自分の歩んだ道というのをもっと誇らしくして欲しいし、なかったものにされたくないんです。私たちアーバンギャルドの音楽を聴いていた時代が黒歴史になる子たちも出てくると思いますけど、私たちも一生懸命作ってますし、他のマニアックな人たちも命を削って作品を作っているし、そういうものをなかったものにしてほしくないんですよね。

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ガイガーカウンターカルチャー

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1. 魔法少女と呼ばないで
2. さよならサブカルチャー
3. 病めるアイドル
4. 処女の奇妙な冒険
5. コミック雑誌なんかILLかい
6. 生まれてみたい
7. 眼帯譚
8. 血文字系
9. トーキョー・天使の詩
10. ガイガーカウンターの夜
11. ノンフィクションソング

■初回限定盤のみDVD同梱
・さよならサブカルチャー PV
・病めるアイドル PV
・生まれてみたい PV(FULL未発表)
・病めるアイドル 本人だけど踊ってみた(FULL未発表)

LIVE INFOライブ情報

『ガイガーカウンターカルチャーツアー、或いは生き残るための。』

11月3日(土・祝)名古屋 ell.FITSALL
11月4日(日)大阪 Music Club JANUS
11月11日(日)赤坂 BLITZ
11月16日(金)京都 MOJO
11月18日(日)福岡 VIVRE HALL
11月19日(月)広島 ナミキジャンクション

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