死を恐れて遠ざけている場合じゃない
──やっぱり、THEATRE BROOKの最新作『最近の革命』の中で「ありったけの愛」をセルフ・カヴァーする必然性は今だからこそあったということでしょうね。
T:うん、今回はあったと思う。マネージャーの発案だったんだけど、こんな時代だからこそ「(最近の)ありったけの愛」として再レコーディングする意義がある気がした。ちゃんと筋も通っているしね。
──それにしても、「革命」とはまた大仰な言葉ですよね。大仰にならざるを得ない危機的な状況に僕らが身を置いているからこそなんでしょうけど。
T:安易に使ってはならないおっかないワードではあるけど、加藤登紀子さんとご一緒するようになって、加藤さんが「革命」という言葉をバンバン使うわけ。「革命」という言葉との距離感が凄く近い。そんな加藤さんに影響を受けたのは間違いないね。“そうか、言ってもいいんだ”って素直に思えたから。
──加藤さんと知り合ったのは『フジロック・フェスティバル』のアトミック・カフェですか。
T:その前に、今年の3月11日に日比谷公園で脱原発のパーティーがあって、そこで初めて話をさせてもらってね。それから「何か一緒にやろうよ」って話に自然となった。話を戻すと、今や「革命」という言葉を使わなくちゃいけない時代に差し掛かったんだなと思ったし、そこで怖がって使わないようじゃ、ずっと現状維持ってことになる。それはアカンのよ。今の状態を変えなくちゃいけないし、それを加藤さんはザックリ「革命」と呼んでいて、素直に「賛成!」って思えた。俺が気に入っているのは、「革命」の前に「最近の」っていう言葉を入れたことなんだよ。実はそこがミソなわけ。
──「最近の」を付けると、何となく「革命」という言葉が和らぎますよね。生活感もにじみ出て、絶妙なバランスになると言うか。
T:でしょ? そこだなって思って。「革命」って聞くとチェ・ゲバラみたいなイメージと直結しがちだけど、今は革命成就のために武装闘争する時代じゃないからね。チェ・ゲバラのことは尊敬しているけどさ。
──加藤さんをゲスト・ヴォーカルに迎えた「愛と死のミュゼット」は掛け値なしに素晴らしい出来ですね。こんなにもタイジさんと加藤さんのハーモニーが美しく溶け合うとは思いませんでした。
T:いいでしょ? 俺も凄く気に入ってる。加藤さんと唄うことを前提に作った曲で、加藤さんが唄うシャンソンの世界やジプシー(ロマ)音楽は俺も好きだし、その辺のニュアンスで加藤さんと合流できたらいいなと思って。
──だからアコーディオンの音色が程良いアクセントになっているわけですね。編曲のクレジットにも加藤さんのお名前がありますけど。
T:加藤さんなりのこだわりがあって、いろいろやり取りをさせてもらったからね。加藤さんはアコーディオンのプロと仕事をしているから、アレンジに関しても有意義な意見をもらえたりしたんだよ。
──「未来から見えたのは 愛と死のはざまにいるボクたち」という歌詞が象徴的ですが、この曲も〈3.11〉がなければ生まれてこなかったんでしょうね。
T:そうだね。あの震災があって、明らかに死が近づいてきた。放射能汚染は今も続いているしね。でも、死を恐れて遠ざけている場合じゃない。人間は愛によって生まれて、最期は独りで死んでいく。愛にも死にも形はないけど、その存在は確かに感じる。その意味でも愛と死はよく似ているんだよ。でも、愛はみんな好きなのに、死は疎まれるでしょう? 誰しもに等しく訪れるというのに。もし神様がいるとして、愛と死、つまり始まりと終わりを人間に課すことに何の意味があるのか。神様はそれを知りたくてこの星で実験しているようにも思える。愛と死は等比なんだし、みんなもっと死について考えたほうがいいと俺は思うんだよ。だって、〈3.11〉以前と違って、放射線被曝によるガンの発生率が今後確実に増えていくんだから。この先、今以上に死が重要なテーマになっていくはずだよ。皮肉なことだけど、〈3.11〉によって俺たちの社会が大きく変われる機会が来た。10万年後の世界を見据えられる社会になる機会がね。
──オーガニックなアンサンブルが心地好い「キミを見てる」でも、「静かに拳をあげよう/伝わることを信じて」と苦難の時代を生き抜く決意が唄われていますね。
T:他のメンバーも「今回のアルバムはTHEATRE BROOKにとってもの凄く大事なものだ」っていう認識があってね。『THE SOLAR BUDOKAN』は俺が携わるユニットが全部出るからその準備だけでも大変なんだけど、今回は短期集中でいい作品を作れた自負があるんだよ。お陰で今は凄く充実しているね。
より身近になった忌野清志郎の存在
──〈3.11〉以降にタイジさんが何を思い、何を考えてきたのかが凝縮した作品だと思うし、その意味でも発表が待ち望まれていたアルバムだと言えるんじゃないですか。
T:ホントはTAIJI at THE BONNETのアルバムを先に出す予定だったんだけど、〈3.11〉が起きて『LIVE FOR NIPPON』があって、このタイミングでTHEATRE BROOKのアルバムを出したことは自然な流れだったんだよね。同世代のミュージシャンはみんな〈3.11〉後の世界に意識的だし、俺も含めてひとつの明確な方向へ向かっているし、それをどこまでやれるのか? を試されている気がする。ちょうど〈3.11〉の1週間くらい前にCHABOさん(仲井戸麗市)の還暦を祝うライヴがZepp Tokyoであって、そこに(斉藤)和義君とか(奥田)民生ちゃん、吉井(和哉)君なんかがいて、電話番号を交換し合ったりしたわけ。その場にいた連中の横の繋がりが、CHABOさんがいることによって太くなったんだよ。それと、打ち上げの席でCHABOさんが「アイツがいてくれたら…」と言っていたように、(忌野)清志郎さんの存在だよね。俺は正直、いなくなってからのほうが清志郎さんの存在がより身近になった。『ARABAKI ROCK FEST.』の忌野清志郎トリビュート・ライヴで清志郎さんの曲をやって、清志郎さんが如何に純粋に音楽をやっていたのかがよく分かったんだよ。ミック・ジャガーやキース・リチャーズとはまた違う、完全にオリジナルなロックの姿勢とサウンドって言うかさ。俺にとって未だに巨大な存在であることに変わりはない。絶対にマネできないよ。
──清志郎さんのスピリッツは『最近の革命』の中でもしっかりと根づいているように思えますね。
T:うん、それはあると思う。ベースになる哲学の部分は清志郎さんのフォロワーでありたいってことだから。昔はそうは思ってなかった。でも今ははっきりと思う。清志郎さんの後輩でありたいって。
──『THE SOLAR BUDOKAN』の出演者も、清志郎さんのDNAを受け継いだ人たちばかりですしね。
T:結局ね。日本でロックをやる以上、絶対に清志郎さんを避けて通れないよ。そうじゃないとブレると思う。いい先輩がいてくれたよね。
──加藤登紀子さんのゲスト・ヴォーカル然り、うつみようこさん、Leyonaさん、真城めぐみさん、多和田えみさんといったコーラス然り、今作では武骨さを中和するような女性の歌声がいつになく耳に残る気がしましたが、これは意図的なことなんですか。
T:最近、ブルックリンの若いバンドが好きでね。けっこう斬新なことをやっていて、ブルックリンのバンドのCDをよく買っているんだよ。どういうわけか女性ヴォーカルのバンドが多いんだよね。DIRTY PROJECTORSとかさ。男と女が一緒に何かをやるって、実は凄くバランスがいいんだよ。NASAの研究チームにも必ず女性がいるし、そのほうがチーム・プレイは上手く行く。それは何となく分かるんだよね。ようこちゃんとTAIJI at THE BONNETやインディーズ電力をやっているのも、同じような流れがあると思うんだ。男性ばかりだと上手く行かないことも、女性がいることで上手くまとまることがよくあるしさ。それはサウンド的にもそうで、今回のアルバムは音楽的にもけっこう斬新なことがやれているわけ。俺の中では“NASA方式”って呼んでいるんだけどね(笑)。
──戦隊シリーズの中にも必ず紅一点の女性メンバーがいますしね。
T:モモレンジャーね。やっぱり男性と女性がいてこその社会だし、それが音楽の中でも反映されたほうが絶対に取っつきやすいんだよ。