「これが本物のロックンロールだから」
──レコーディングはどれくらいの日数を掛けたんですか。
T:録りに4日、落とし(ミキシング)に1日。
──海外でも千本ノック級のレコーディングは何ら変わらなかったと(笑)。
K:現地のスタッフも笑ってたからね、「プリプロじゃねぇんだから」って(笑)。
──資料を拝見したところによると、グリン・ジョンズ(イギリスの名エンジニア/プロデューサー)が現場にいたんですか?
K:うん。最初はグリン・ジョンズにエンジニアを頼んだんだけど、日程が合わなくてね。でも、たまたま打ち合わせか何かでサンセット・サウンドに来てたんだよ。事前に渡しておいた資料をちゃんと読んで聴いてくれたみたいで、「面白いからYouTubeで映像をいっぱい見たよ、凄いね!」って笑ってた(笑)。
──録りに関するアドバイスとかは?
K:何も言われることなく、すぐに帰っちゃったね(笑)。
──でも、サンセット・サウンドにグリン・ジョンズがいるだなんて、『メイン・ストリートのならず者』のシチュエーション以外の何物でもないですよね。
K:ホントにね。スタジオの中はゴールド・ディスクやプラチナ・ディスクが山になってる部屋があって、ちょっとめまいがするくらいだった。
──現地のスタッフにとっても録りに4日しか掛けないことが尋常じゃないということは、マックショウのレコーディングの手法が世界で最も苛酷なものだと実証されたようなものですね(笑)。
K:実際に「クレイジー!」って言われてたけどね(笑)。でも、「これがホントのレコーディングなんだよ」とも言っていた。若いアシスタントが「レコーディングを見てこい」って言われてたみたいだよ。「これが本物のロックンロールだから」って。
──そんな世界が認めたレコーディング環境の中から生まれたEP『LET ME ROLL』なんですが、タイトルトラックは溜めを利かせたブルージーなナンバーだったのが意外でしたね。ロックンロールの真髄をとらえた小粋な一曲なんですけど、ここまで軋んでざらついた音色で来たか! という新鮮な驚きがありました。それこそ、グリン・ジョンズの手掛けた諸作品のようなゴツゴツとした肌触りのサウンドを目指していると言うか。
K:そんな感じは意識してたね。向こうのスタッフに「どうだ?」って訊いたら、「もっとテンポを落とせ」って言うわけ。それで演奏し直して「これでどうだ?」って訊いたら、「もっと落とせ」って(笑)。結果的に、これ以上テンポを落としたら演奏できないよっていうギリギリのところまで落としてみた。
T:向こうのスタッフがノリにノっちゃってたからね(笑)。
K:「ロックンロール!」って言ってたよね(笑)。その割にはテンポ遅くね? って思ったけど(笑)。
──ちなみに、今回のレコーディング用に何曲持っていったんですか。
K:15、6曲くらいかな。それを向こうでリハーサルする段階でもうちょっと絞り込んでいく感じ。
T:向こうで作った曲もあるよね。
──ホントに日本でレコーディングする状況と何も変わらないんですね(笑)。
K:全然変わらないよ。前の日まで曲を作ってたのも変わらない(笑)。
──もしかして、「きこえないラヴ・ソング」は現地で書かれた曲ですか?
K:うん。曲も歌詞も向こうで書いたよ。
──やっぱり。雨の夜のドライヴを唄った歌ですけど、サウンドにはどことなくカリフォルニアの乾いた青空を連想させるものがあるんですよね。
K:向こうに着いたら、ずっと雨だったんだよね。俺は他のメンバーよりも先に現地入りして、曲を作ったり楽器屋へ行ったり準備をしていたんだけど、カリフォルニアは年に7日間くらいしか雨が降らないらしいんだよ。それがよりによってそのうちの4日間くらいを現地で過ごすことになって(笑)。降り方も凄くてさ。バーッと降りしきったかと思ったら、一気にカンカン照りになって、これじゃ焼け死ぬぞ! と思ってるところへまたバーッと雨が降る。そのレンジが凄いわけよ。車の流れも、一度渋滞になったら鬼のように渋滞。3、40分の間に50キロくらい渋滞してるから。
──でも、真ん中がなくて常にどっちかに振り切るというのはマックショウと性が合うのかもしれませんね(笑)。
K:その意味ではね(笑)。車でかすぎ! みたいなさ(笑)。
カリフォルニアのおバカな感じが今の日本には必要
──今回は新曲のレコーディングと並行して、“california sessions”と題された既発曲のセッションも行なわれたんですよね。今回のEPには「ビッグママ・ヘイヘイ」が収録されていますけれども。
K:完全に思い付きなんだけど、「ビッグママ・ヘイヘイ」がいいかな? と思って。すぐにできる曲だからさ。それに今年は結成10周年でもあるので、ファースト・アルバムの『BEAT THE MACKSHOW』に入ってる曲を今改めてやってみるのも面白いんじゃないかと思ってね。
──“california sessions”の「ビッグママ・ヘイヘイ」の爆発力たるや尋常ならざるものがありますけど、それと同時に並々ならぬ緊張感まで真空パックされているように感じますね。
K:ちょっと腰の入った感じはあるかもしれないね。さっきも言ったように、おにぎりとお茶がないわけだから(笑)。それ以前にまず言葉が通じないしね。でも、音の細かいニュアンスを伝えようとして言葉が通じなくても、エンジニアも俺たちも何となく雰囲気で分かるものなんだよね。向こうもこっちの素性をよく理解したもので、ドラムの両横にギター・アンプがあるわけ。音が全然分かれてないし、俺はそういうのが好きだけどこれでいいの? って訊いたら、「だってやり直さないでしょ?」って(笑)。ドラムのチューニングも適当だしさ(笑)。でも、楽器の鳴りが日本とは全然違って凄く良かった。それが欲しくて向こうに行ったんだけど、音決めはすんなり決まったね。
──乾いているんだけど芯が太くて重厚さがあると言うか。
K:乾燥した空気の伝わり方が全然違うんだろうね。そんなに有名なエンジニアではないけど、彼はサンセット・サウンドでいろんなセッションに立ち会っているから、そこでの音の捉え方は早い上に的確だし、凄く上手い。だから彼にいつも通りやってもらうだけで充分だった。
──「LET ME ROLL」のイントロでも空気の振動が生々しく音として刻まれていますよね。
K:ああいうのは日本じゃ録れないのかもしれない。それか、ただのノイズになってしまうのかもね。「LET ME ROLL」で使ったのはシルヴァートーンっていうちっちゃなギター・アンプなんだけど、それはエンジニアが持ってきたわけ。こんな日本の質屋に置いてあるような安物のアンプで大丈夫か? と思いながら弾いてみたんだけど、これが凄く良くてさ。エンジニアもその音の鳴りに感動してたからね。
──それを日本で再現しようと思っても、またちょっと違う音になるんでしょうね。
K:俺も1台買ってきて鳴らしてみたけど、やっぱりちょっと違うね。近い音はするんだけど、何かが決定的に違う。向こうで弾くと、壊れる寸前の良さみたいなものを感じるんだよね。その味わいはないかな。
──あのサンセット・サウンドで弾いているんだという身震いするような昂揚感もプレイに反映されたんでしょうね。
K:ずっと身震いしてたからね。思わず兄貴に自慢のメールをしちゃったくらいだから(笑)。スタジオにあるゴールド・ディスクの数々を見ると、俺が小中学生の頃に見た兄貴の部屋のレコード棚そのまんまだったりしてさ。途中で兄貴からメールの返事が来なくなっちゃったんだけど、きっと棚から引っ張り出してレコードを聴いていたんじゃないかな(笑)。そうやって「どういう音だったっけ?」ってレコードをターンテーブルに載せて聴き返すと、そこには擦り切れるほど聴いたあの頃の空気や思い出までが詰まっている。それが俺はロックだと思うんだよね。昔、レコード屋に行くと「ウェストコースト」とか「プログレッシヴ」とかジャンル分けがされていたでしょう? それか、イギリスやアメリカの国旗なんかが貼ってあって区別されていたりして。ああいう記憶まで記録しているのがレコードって言うかさ。そういうのが俺たちの思い出の中のレコードだし、L.A.レコーディングで欲しかったのはそのニュアンス。それをみんなに聴かせたかったわけ。『LET ME ROLL』のジャケットも、革ジャン、リーゼントにオープンカーだなんてベタベタじゃない?(笑) 「海外まで行ってこいつらバカだな」って思ってもらいたいんだよね。このカリフォルニアのおバカな感じが今の日本には必要だと思ったし、実際に行ってみてそれを実感したんだよ。このご時世、みんな大変だと思うけど、こういうのを聴かせてやりたいなって言うかさ。
──ロックに淫したあんちゃんたちが夢のカリフォルニア・レコーディングに浮き足立つ姿って悪くないものだし、凄く共感できますよ。
K:やり方はいつも通りなんだけどね。もっと細かく作ることだってできたし、時間を掛けりゃいくらでもいいものが出来たのかもしれないけど、現地へ行ってバーッと録って、「出来たぞー!」って持ち帰ってみんなに聴かせるのが自分たちのやれることって言うか。いろいろギスギスした時代だし、俺たちのやってることが少しでもガス抜きになればいいなと思うよね。