国内随一のロックンロール・プロ集団、ザ・マックショウが今年結成10周年を迎える。『HERE COMES THE ROCKA-ROLLA 〜情熱のロカ・ローラ〜』(2010年8月)、『ROCKA-ROLLA ZERO』(2011年9月)という日本のロックンロール史上屈指の名作において、ヴィンテージ機材を使った全編ノン・デジタルのアナログ・テープ一発録音という古式ゆかしい手法を突き詰めた彼らが選んだ次の一手は、ゴールドラッシュを夢見てロックンロールの桃源郷を追い求めることだった。それはすなわち、マックショウにしか為し得ない千本ノック級レコーディングをカリフォルニアの名門であるサンセット・サウンド・スタジオで敢行するという新たなトライアルである。その果敢なる戦線報告であり、来たる9月に発表されるフル・アルバムの予告編とも言うべき作品が5曲入りEP『LET ME ROLL』なのである。
その出来は、先に挙げた"ROCKA-ROLLA"2部作の延長線上にありつつも新章突入を予感させるポテンシャルに満ちたものだ。退路を断ち、極限まで自身を追い込み爆発させた直情径行で艶やかな彼らのロックンロールは、地元エンジニアやスタッフ、そしてあの伝説の名エンジニア/プロデューサーとして知られるグリン・ジョンズすらも驚嘆させたというのだから、現地での奮闘振りが窺い知れることだろう。仮に言葉が通じなくとも、導火線(プラグ)に火のついた本物のロックンロールは国境を超えるのである。
この『LET ME ROLL』と合わせて、代表曲16曲と全10曲のPVをコンパイルしたベスト・アルバム『ROCK'N-TWIST PARADE』を同時発売するなど、アニヴァーサリー・イヤーである節目にまだまだ貪欲に疾走を続けるマックたち。本誌は目下連日アルバムのミックス作業中であるコージー・マック(vo, g)とトミー・マック(b, vo)を直撃し、渡米秘話の数々と輝ける10年について激白してもらった。(interview:椎名宗之)
そこでしか録れない音が絶対にある
──“ROCKA-ROLLA”2部作でヴィンテージ機材を使った全編ノン・デジタルのアナログ・テープ一発録音という手法を突き詰めた以上、次にマックショウはどんな一手で来るのか!? と絶えず関心があったのですが、海外レコーディングに活路を見いだしたのはなるほどなと思って。
KOZZY MACK(以下、K):アナログ一発録りの手法は確かにやり切っちゃった感があって、発想の取っ掛かりとしてまずあったのは、昔は海外レコーディングなんてものに憧れたもんだなぁ…と。
──コルツでも『ROCKSVILLE』(2002年10月発表)で海外レコーディングを敢行していましたよね。
K:あれはちょっと変則的なレコーディングで、メンバー全員で行けたわけじゃなかったからね。その前にハワイのスタジオでレコーディングしたこともあったけど、それは技術的なことよりも雰囲気重視だった。俺たちは前作まででレコーディングの本来在るべき姿をもう一度自分たちの手で取り戻すんだという意気込みでやってきたわけだけど、その先にある試みとして思い立ったのが、昔に倣って憧れの海外レコーディングをやっちゃおう、ということだった。もちろん自腹でね。
──エッ、バンドの持ち出しなんですか!?
K:当然だよ。それはヘタなものは絶対に作れねぇぞって自分たちにプレッシャーを掛ける意味もある。海外レコーディングが廃れたのは、バブルに沸いてつまらないレコードばかり作った連中のせいだからね。気持ち的にはそんなバブル前の感覚なのかな。「アメリカでレコーディングしたらどうなるんだろう!?」って胸を躍らせる感じって言うかさ。「L.A.レコーディングだぞ、どうだこのヤロー!」みたいにまだ威張れた時代だよね(笑)。
──海外レコーディングが立派なステイタスだった昭和50年代の感覚ですね。
K:うん。ただ、向こうもスタジオ自体がもうあまりないんだよ。やっぱり家でデジタル・レコーディングしたほうが便利ってことなんだろうね。まぁ、海外へ行ったところで特に目新しい機材があるわけでもないんだけどさ。スタジオの規模は日本のほうが全然大きいし、設備も遙かに充実しているからね。じゃあ俺たちが何を欲しかったのかと言えば、向こうの空気感。それと、ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』、ドアーズの『ハートに火をつけて』、リンゴ・スターの『リンゴ』とかが生まれたサンセット・サウンドというスタジオでレコーディングできる喜びだよね。
──ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』も生まれた名門スタジオですよね。そうした古今東西のロックの名作が誕生したスタジオだからこそ選んだと?
K:それもあるし、今やサンセット・サウンドくらいしかまともなスタジオがなかったんだよ。間に入ってくれたコーディネーターにアメリカでレコーディングしたい旨を伝えたら、「そりゃサンセット・サウンドしかないよ」と言われてね。彼はマックショウのこともよく知ってるし、それなら行ってみようかということになった。見積もりを送ってもらったら、日本の中堅以下のスタジオよりも安かったくらいでね。今が円高なのもラッキーだったとは思うけど。
TOMMY MACK(以下、T):ただ、設備が凄くいいってわけでもなかったよね。
K:サンセット・サウンドっていうのは、もともとアパートや店舗だった建物群を複合スタジオに改築したらしいんだよね。でも、そこでしか録れない音っていうのが絶対にあって、あの環境の中で録ったからこそ名作となり得た作品もたくさんあると思う。
T:「一度はここでプレイしてみたい」と思わせる“何か”があるのは確かだよね。
K:そう、その“何か”っていうのは、パソコンを使っても決して形にはできない。
──実際、向こうでの作業環境はどんな感じだったんですか。
K:まずアレだよね、お昼におにぎりは食べないよね(笑)。日本のスタジオじゃだいたいみんなコンビニのおにぎりとペットボトルのお茶を持ってくるでしょう? 向こうはハンバーガーと炭酸飲料が基本だから。音楽に向かう精神性って言うと大袈裟だけど、取っ掛かりからして日本とは全然違う。おにぎりとお茶じゃないから力の入りようが根本的に違うよね。
──現地の食生活に準じてスタジオに入ると、歌も演奏も自ずと肉食系になると言うか…。
K:やっぱりちょっと変わると思うね。食事が違えば集中力の長さも変わるし、腹持ちのいい蕎麦なんて向こうにはないからあまり長くは集中できない(笑)。