"A Crazy Ensemble"(ア・クレイジー・アンサンブル)の頭文字を並べて『A.C.E.』と名付けられた堂島孝平のニューアルバムが3月21日にリリースされる。今作は、小松シゲル(Dr./NONA REEVES)、鹿島達也(Ba.)、奥田健介(Gt./NONA REEVES)で新たに結成された"堂島孝平×A.C.E."による、遊び心も満載のやんちゃでソリッドなアルバムだ。常に新しい挑戦・発明を続ける堂島が、"削ぎ落とす"ことをテーマに作られた今作は、堂島史上最も短い11曲で36分という衝撃の作品。1曲目からドキッとするフレーズの数々は、"HARD CORE POP"を掲げる彼の、"体の芯からポップであるもの"が堂々と提示されているようでもあった。キラキラしてドキドキする、堂島マジックがかかったこのアルバム。ポップシンガーとしての立ち位置も確立した最高の作品だと私は思う。(interview:やまだともこ)
やんちゃでソリッドなアルバム
── すごいアルバムが完成しましたね。魔法がかかってるんじゃないかと思いましたよ。
「良いこと言いますね(笑)。でも、ここまで自分に対してショックを与えられるものが出来ると思ってなかったぐらい、おもしろいアルバムになりました」
── 昨年12月にリリースされたベストアルバム『BEST OF HARD CORE POP!』のインタビューの際に、「アルバムを作っている」ということをおっしゃってましたが、あの時でどれぐらい出来上がっていたんですか?
「12月の段階では半分ぐらいですかね。年明けから死にものぐるいでした」
── Twitterを読んでいると、かなり時間がない感じが見受けられましたし。
「完全にスケジュール調整ミスです(笑)! でも、時間ないと言うわりにはバッチリなものが仕上がりましたけどね」
── 時間がないと言いつつ、すごく楽しんで作られた感じもCDから伝わって来ました。
「めちゃめちゃ楽しかったです。今回最初のテーマが、“削ぎ落とす”ということだったんです。削ぎ落とした上で自分がどうなっていくかというのが新しい挑戦だったんですよね。毎回音楽を作る時に新しい挑戦をしているんですけど、今回は極力楽器数も減らし、アレンジはハイパーなものにせず、全部ソリッドな方向に持っていくというところがスタート地点だったので、アレンジや全体のサウンドの厚みとかでごまかせないわけですよ。もちろん今までの経験もあるから、いろんなアレンジも出来るんだけど、シンプルにエッジの効いた方向にということだったので、そこで何を歌うかとか、曲の作り方、歌詞、そしてシンガーとして最初に自分で追い込んでおいて最後に自分が追い込まれる。シンガーとしても作詞家としても追い込まれて逃げ場がなくなってました」
── 追い込まれたほうがアイディアがどんどん出てくるという感じもありますか?
「今回はまさにそうでした。頭では考えていても、本当に自分が追い込まれた時にどうなるのかがわからなかったんですが、“やんちゃでソリッドなアルバム”を目標に、自分を追い込みながら実際どういうことを歌ったらおもろいかみたいなところをすごく考えました」
── そのイメージに沿って曲を作っていくという感じだったんですか?
「もっと言うと、普段から自分が考えていること自体がやんちゃだったりするので、パーソナルなものをいかにポップソングにしていくかということへのトライだったんです。やんちゃしなきゃいけないということではなくて、普段考えていること、日常の中の毒づいている自分、ちょっと楽しかったこととか、どうでも良いことをポップに歌うことも“やんちゃ”という括りで作っていきました」
── “やんちゃ”で言えば、1曲目の『ギミラ!ギミラ!ギミラ!』で心を掴まれ、『ベランダでベルリラ』〜『バスルーム・マーメイド』〜『センタッキ!』を聴いて衝撃を受けたんです。特に『センタッキ!』は、これをモチーフに曲を作る人っていないし、すごいわかりやすくて、これが本当のポップスなのかなって。
「“家シリーズ”ですね。まあ、最初は洗濯機を表現したかったわけじゃないんですよ。結果そうなっちゃんだけど(笑)。そういう音楽があったら、今の時代で考えると新しいものを作ったことになるんじゃないかって。最近の曲の作り方として、どうしてもみんな大きいことを歌いたがるというか、間奏を行った後に暗めのサビが来るとか、それも良いんですけど、音楽ファンとしてはそういうのってアルバムの中で1〜2曲あれば良くない? って思うんですよ。家シリーズは、自分が音楽家として作ってみたいポップソングのあり方でもあったし、音楽ファンとしてもこういう音楽があったらすごいハッピーなんだけどなって思いもあって作りました」
── これこそ遊び心がすごくあってやんちゃですよね。でも、なんで『センタッキ!』になったんですか?
「“ゲロッパ”とか“ギロッポン”みたいなもので、ああいう言葉遊びみたいなところだと思うんです。JBなら“センタッキ!”とか言いそうだし(笑)」
── だから、ファンキーなサウンドになっているんですか?
「僕からすると、ファンクをやるならくだらないことを歌う方が正解でしょってことなんです。まあ、出来ちゃったんですよね。…出来ちゃったんですよ」
うまいプレイをしないでください
─── その遊び心のある曲からの流れで『A.C.E.』が来て胸をキュンとさせられ、『赤と白』も思いがけないアレンジがどんどん押し寄せて感情を揺さぶられました。
「クレイジー・アンサンブルですから。『赤と白』は、すごい人気があるんですよ」
── クレイジー・アンサンブルの全てが凝縮されてますね。
「『赤と白』って曲としてはすごいベタな曲だけど、例えばベースがずっとメロディーラインを押さえていて、きっかけのピアノ以降で初めてルート弾きにすることもそうだし、アレンジ自体をハイパーにしないということだったので、楽器数と演奏出来る範囲でアイディアを出していく。曲によっては、後で僕がシンセをあてるというのも半分ぐらいあるんですけど、『赤と白』はみんなで出せる音を考えて、そこにピアノが入ってくるんだけど、コードを押さえているわけでもなくて、カーンと鳴ってるだけなのに、それが異様に泣けるとか、なるべくアレンジも常套手段を使わずに、ドキッとさせるとか、ロマンティックな気持ちにさせる、ほろっとさせることをすごく心がけていたんです」
── アレンジはA.C.E.の皆さんで考えるんですか?
「基本的にはそうですね。僕が曲を作ってきた時点でイメージを伝えて、リハスタに入る時はヘッドアレンジはある程度してから行く。間に合わないものに関しては、全部自分が考えてきたものを伝えて一度それ通りにやってみて、そこから発展させていくというやり方で」
── 気心が知れてるメンバーさんなので、言わずともわかるみたいなところもありますか?
「精神性として今回は新しくなること、やんちゃすること、あとユーモアがあるという意識を共通として持てていましたから。一緒にやってるメンバーも常にドキドキしたいというタイプのミュージシャンなんですよ。僕が今まで関わってきた人たちって基本そうで、音楽家として新しい音楽を作りたいし、新しいプレイをしたいし、そういう意味で言うとやってきたことにあぐらをかかないとかね。だから、この3人には、“うまいプレイをしないでください”って伝えたんです。演奏が上手すぎると今回のアルバムはキレイにまとまっちゃうから、なるべくうまくないということでプレイしてもらって」
── 皆さんの経験上、その方が難しいですよね。
「それまでの方法論を持ち出して作ろうと思ったらいくらでも作れるんだけど、今回はそうじゃないし、8ビートの曲をたくさん作ってくれとういうリクエストもあったんだけど、8ビートの曲ってめっちゃ難しくて考えても作れないんですよ。バーンと出てくるものを動物的にやるしかなくて。最初から今までの経験値で音楽を作ろうとするというのはNGだったんです」
── それは初心に返る感じとは違います?
「毎回そういう気持ちは持っているんですけど、より今回は音楽的にもニューウエーブとかポストパンクとか、ヘタなんだけどめっちゃ良いとか、ヘンテコだし歪なんだけど聴いていると胸がドキドキするとか、ああいう瑞々しさとか青さがおそらく目指すべきところだったんですかね。それはやっていく中で、今回ってニューウエーブだなって気付いたことで。自分たちの中で新しい波を起こすとか、自分たちの立ち位置をここだ! と言いきれるものを作るということだったから」
── そしたらポップシンガーとしての立ち位置は、確立した感じが今回ありますよ。
「そうかなぁ。そうかもしれないですね」