“ヘアブレ像”の追究
── なぜ自分でレーベル(Play decibel)を立ち上げようと思ったんですか?
「下世話な話をすると、予算とか自分が出したいタイミングとの兼ね合いですかね。仲が良いNo Regret Lifeやつばきも自分たちでレーベルを始めたタイミングだったので話を聞いて、自分でやってもあまり変わらないかなと思ったんです」
── 立ち上げて2ヶ月ぐらい経ちますが、どうですか?
「しばらくいいかなと思う(苦笑)。もともとはヘアブレを自分のレーベルから出すつもりはなかったんです。いずれはそうしたかったけれど、最初はもっと気軽に配信だけで、若いバンドとかクラブっぽいトラックを作ってるヤツらの音源を出してっていうのをやりたかったんだけど、ヘアブレもクラブっぽいと言えばそうだから、メンバーにやってみようかなって話をしたら“やる”ってなって、レコーディングも自分でミックスとかやってみたかったというのもあるし、そういうところも含めて、やってみたいと強く思ったんです」
── 以前のレコーディングは、そこまで入り込んでなかったんですか?
「全然入ってなかったですね。曲作って、あとはお任せ。今回は素人だけど、出来る事を全部やってみたんです」
── 2年前に作った作品と今作は、ほぼ自分が手がけた以外だとどんなところが違うんですか?
「前は重低音ガッツリでしたけど、今回のは下の感じよりかは重心が上に上がっている気がするかな。クラブイベントで自分の曲をかけると、他の4つ打ちのバンドの曲より馴染むんだけど、それを家で長く聴くには疲れるなと思って(笑)。歌モノだし、キャッチーだし、そこに無理矢理クラブっぽい重低音を乗せても疲れると思って意図的に上げたんです」
── やっぱりヘアブレは歌モノの括りになるんですかね?
「歌モノだとは思ってるんだけどね」
── 私も2005年ぐらいの頃は歌モノのバンドだと思っていたんですけど、最近の作品はどんどんクラブ寄りになっているので…。
「そういうオケになっていますが、歌ってる以上は歌を大事にしています。今までは歌もあって、クラブっぽい感じのトラックでやるというスタイルだったけど、今回はもうちょっと歌に寄り添ったサウンドにしようと思ったんです。昔は、楽曲と歌のバランスがどれぐらいだと良いのかがわかってなかったから(笑)」
── ちょうど良いところが見つけられた。
「ちょっとそんな気がする」
── 『流れ星』はボーカルがかなり小さめになってますが、あの意図はどんななんですか?
「あれは古い感じにしたかったんです。80年代ぐらいの。この音ショボいなという感じにしたくて、ボーカルをちょっと小さくしてるんです。ボーカルを大きくしたり、いろいろと試してみたんだけど、1曲実験的にやってみたいなと思って」
── あと7曲目『little prayer』は4つ打ちで歌を聴かせるという、昔からのヘアブレの流れがすごくありますね。
「ヘアブレに対してあんまりハードな印象は持たれてないだろうなと思っていて、インストの『one』は激しめで俺は好きなんだけど、周りはそういう印象ではないんだろうなと」
── 最近のヘアブレだったら、『one』はイメージ通りなんですけどね。
「だから最近と昔のヘアブレのイメージを今作では織り交ぜているんです」
── 考え方の幅が広くなった感じですか?
「自分でサウンドメイクをするようになったから、今までの感じと新しい感じの振り幅を近づける事が出来る。今までだと『New World』のような歌が強くて切ない感じの曲に、重低音が効いたトラックを乗せてるというのが好きだったんだけど、それだと1曲の中でアンバランスな感じが見受けられるところがあるんですよね」
── 布谷さんの歌声はすごい綺麗じゃないですか。私はそこに重低音が鳴るというアンバランスさも面白かったですけどね。
「そういう部分も、その曲に基づいていないものはいらないかなって。歌を乗せるなら、軽いタッチの気持ちでいいかなって」
── だからインストは低音でゴリゴリに聴かせて、歌のある曲は軽やかに聴かせる感じにして、という。
「ハードな歌モノがあっても良いと思うんだけど、今回はそういう感じの曲が俺からは出なかったんですよ」
── 布谷さんの歌声だとオケは高めの方がより綺麗に聴こえますし。
「曲が求める音域を1曲ずつ定めようかなと。今まではアルバム単位で考えていて、これは重低音で歌モノで作ろうという感じだったけど、重低音の曲だったらこういう曲で、歌モノ中心だったらこういう曲で、『流れ星』みたいに実験した曲もあってと、曲単位で考えたんです。『流れ星』は、俺も意外だったんだけど人気があるんですよ。サンプルを渡した関係者が良いって言ってくれる回数が多い」
── 私はやっぱり歌が一番綺麗に聴こえる『little prayer』が好きでした。
「布谷と一緒ですね。バンド内でも話していたんだけど、好きな曲がそれぞれ違うんですよ。大佑は『New World』で、徹志は『now or never』、布谷は『little prayer』で、俺は『流れ星』か『HELLO』。『流れ星』は個人的な趣味が入っているので。だから、バンドとしてこの曲が推しっていうのがあまり出来ないんです(笑)」
── 全曲を通してサンプリングがすごかったので教えて欲しいんですが、メンバーさんは1枚を通してどれぐらい弾いているんですか?
「全部弾いてますよ。編集とか最終的な音の加工は全部俺がやってるんだけど、サンプリングしている音も生音を加工しているもので、ああいう音にしようと思えばなる。もちろん打ち込みの音を重ねたりしているけれど。生だけのところもあるし、徹志の音以外に鳴ってないというところもある。生っぽい音にはしてないけれど、1曲目(『intro-2011-』)以外全部叩いてます。というか、1曲目は俺が1人で勝手に作ったんです。ここ3作ぐらいイントロは全部1人で作ってます」
── アルバム1枚を通して、ミックスの作業はどれぐらい時間がかかるものなんですか?
「曲作りに関しては出れば早いです。でも歌も録り終わって、最終的にCDの音にしますというのは1ヶ月半ぐらいかかりました。みんなは自分のパートを録り終えたら出来ましたってなるから、言わなかったけど“今何やってるんだよ”っていう時間はあったかもしれない。ドラムは3月末ぐらいに録り終わっていたから。歌を録り終わったのが6月ぐらいで、そこから1人で作業を始めたんです」
── これまでの経験もあるし、DJもやっているし、作業は手慣れてくるものなんですか?
「ヘアブレで作るとなると、俺が個人で作るのとはまた違う認識。全部俺が作詞・作曲だから“お前がやりたいことやってるんだろ”ってよく言われるけど」
── 私もなんとなくそんな気持ちはありました(苦笑)。
「そうでしょ(笑)。でも、“ヘアブレのあなたが好きにやっていいんですよ”って言われたらこういう感じ。俺が思うヘアブレはこうだよって」
── 自分の中のヘアブレ像に近づけているという感じ?
「そうですね。ヘアブレで曲を書く時はいつもそうです」
バンドのスピード感を掴みたい
── この作品が10月5日にリリースされて、10月15日からはツアーが始まり、ファイナルは11月30日に下北沢シェルターでありますが、シェルターはだいぶひさびさじゃないですか。
「一番初めに出したCDのレコ発もシェルターだし、初ワンマンもシェルターだし、なんだかんだでシェルターは実は節目節目でやっているんですよ。機材が増えてからイベントだと転換が出来なくて出る機会が少なくなってしまったんですけど、箱自体はすごい好きなんです。ああいうところで今の音を出したらどうなるかなって」
── ツアー自体も2年ぶりですからね。
「ツアーも2年ぶりだし、何もかも2年ぶり」
── 全国各地待ちくたびれてましたよ、きっと。
「待ちきれずにどっか行っちゃった人もいるかなと思うんだけど(苦笑)。2年ぶりだから、ツアーに行こうかなって思えたのかもしれない、もしかしたら。昨年とかにリリースしていたら、東名阪ぐらいで良くない? って言っちゃいそうな空気感だった」
── バンドがより意欲的になれたという感じなんですか?
「行きたいと思ったんです。自分で出したからこの作品を持って4人でツアーに行きたいなと思った。それと、自分たちの現状や、置かれている立場を知りたい。行ってみないとわからないことがいっぱいあるから。この2年の間にもライブはやっていたけれど、2年前から止まっていると言っても過言ではない。ここから動かす。気分的には再スタートみたいな感じです」
── 今バンドは結成して13年が経ちますが…。
「昔ほどがむしゃらにはやれないけれど、バンドのスピード感を掴みたいんです。自分たちのバンドの中もそうだし、自分たちの音楽を聴いてくれている人がどういうものを求めているのかも含めて知りたいし、それがわからないと解散しちゃうような気がする。スピード感がバラバラになると続けられないと思うから。やるんだったら、今の自分たちのスピード感を知った上でちょっと無茶をするぐらいじゃないと」
── 30代にも入りバンドは結成から10年越えて、音楽に向き合う環境も含めて変化ってありますか?
「20代とか30代とかあまり気にしないようにはしているんだけど、2年前とも違うし、デビューする前とも違うし。辞めたいとは全然思わないけれど、苦痛になるのが嫌だなと思う。がむしゃらになって苦痛になるよりかは、自分たちが苦痛じゃないギリギリのラインで誰かが求めてくれているものに合致するスピード感ってないのかなと思っているし、俺が頑張って何かが補えるならそれでも良いし、わからないけどそれを探したい。CDを出したりツアーに行ったりしてみて、今後はワンマンを増やしたいなのか、ライブの本数を増やしたいなのか、どれが一番見せ方的に良いのかを含めて考えたいんです。特に不平不満もないし、楽観主義なので(笑)、何か見つかるんじゃないかなぁぐらいの感じですけど。でも、見つかると思っているからやってるし、見つからないと自分で思っていたらツアーにも行かないし。ひさしぶりにライブを見る人もいるだろうから、そういう人の意見も気になる」
── みなさん自身も、人としても脂が乗ってくる年齢ですしね。
「30代だから出来る何かがあるかもしれないし、もうちょっと頑張りたいなとは思いますよ。俺らしか出来ない事をやりたいって常々思っているんだけど、それが何か知りたい。まあ何かちっちゃい何でも良いんだけど発見出来たら良いなと思っています」