「次のアルバムが最高傑作」と言い続けたい
──シェルター・ワンマンの話に戻りますが、どんな内容にしようと考えていますか。
K:シェルターでワンマンをやること自体が久々だからね。企画モノだったり、対バンありのライヴは何度かやらせてもらってたけど、純粋なワンマンはもう思い出せないくらい久しぶりだね。まだリハーサルをやってないけど、ちゃんと唄えそうなら当時の曲もいくつかやってみようと思ってる。
──眠らせておくにはもったいない曲ばかりですしね。
K:いや、個人的には眠らせておきたい曲が多いけど(笑)。でも、そういう曲をやりつつ、新曲も披露できたらいいなと思って。俺らはメンバーも代わることなくずっとやり続けているから、最近の曲と昔の曲を並列で聴いてもらえるのが強みなんだよね。
──一彦さんがヴォーカルを兼任して以降のグルーヴァーズはブルージーで大人っぽい要素があったから、トリオとして再始動した当初の曲も今なら歳相応な感じに響くんじゃないですかね。
K:そう言ってもらえると嬉しいけどね。ある人はブルース・フィーリングのことを“MOJO”と呼ぶでしょ? あれを持ってない人がブルースを奏でてもダメなんだよ。時々サポートをやらせてもらう佐野元春さんも、会話の中で「悪くないんだけど、少しブルースが足りなくないか?」って言い方をするんだよね。その感覚は俺も同じだから凄くよく判る。
──近況についても伺いたいんですが、ぼちぼち新作を聴きたいところですよね。気がつけば『ROUTE 09』の発表から早2年ちょっとが経過していますし。
K:そろそろ催促される時期だよね(笑)。今年中には何とか手を付けたいと思ってる。『ROUTE 09』を出す前からアコースティック・ソロもやっていて、ミニ・アルバムを1枚出してるんだよ(『LAZY FELLOW』、2008年発表)。当初はコンセプト的にもバンドの別ヴァージョンが弾き語り、という部分が大きかったけど、両方やり続けていくうちにそれぞれの良さが出てきたから、分けて考えたいと思うようになって。バンドならではの曲を敢えて弾き語りでやるのも面白いけど、最近は弾き語り専用の曲も増えてきて。だから本当はバンドと弾き語りのアルバムを一度に出したくてね。
──おお、ファンにとっては盆と正月が一遍に来るようなサプライズですね(笑)。
K:でも、口で言うのは簡単なんだけど、曲を揃えるのが大変だからね(笑)。何曲か曲が被っててもいいけど、最低でもいつもの1.5倍は曲を用意しなくちゃいけないしさ。でも、何とか両方とも年内中に手を付けられればと思ってる。弾き語りのほうは家でも録音できるから、少しずつ始めてるけどね。ただ、曲を熟成させたりとか、メジャー時代みたいな締め切りがないのをいいことにしてると、逆に時間が掛かってしまう部分もあるんだよ(笑)。それにサポートやプロデュースの仕事なんかもあるし。でも頑張るよ。是非待ってて欲しいね。
──シェルター・ワンマンはその前哨戦としても期待しております。ふと思ったんですが、グルーヴァーズが今までアニヴァーサリー・ライヴをやってこなかったのは、過去を振り返ることよりも今目前にあるものに対して全力で取り組むことを常に優先してきたからだとも言えませんか。
K:それは言えるかもしれない。もともと長いスパンでバンドを捉えていたから、“10周年くらいで自慢するなよ!”っていう気持ちもあったんだよね。ローリング・ストーンズなんて今年で47周年でしょ? それは極端な例だけど、たかだか10周年や15周年くらいで威張るなよって思ってた。同じメンバーでバンドを10年くらい続けるなんて当たり前の話だし、20年くらい経って初めて出汁が取れるものだからさ。ところがね、佐野元春さんとそんな話になった時に、佐野さんが加山雄三さんからこう言われたんだって。「佐野君、5周年、10周年、15周年、20周年…っていうのはきちんとやらなきゃダメだよ」って。「何でですか?」と佐野さんが尋ねたら、「そういうのは自分のためじゃなくて、ファンのためにやるものだから」って加山さんが答えたらしくてね。佐野さんもそれまで周年イヴェントには興味がなかったそうなんだけど、その加山さんの話を聞いてからやることにしたんだって。さすが若大将だよね(笑)。
──ムリにファンと迎合する必要もないと思いますけど、20年前のシェルター・ワンマンを体感したファンが“20years×20years”に足を運ぶかもしれないし、その意味でもアニヴァーサリー・ライヴはとても意義深いものでしょうね。
K:あの伝説の無謀ライヴに来てくれた人が今回も来てくれるのかどうか、凄く興味があるね。でもまぁ、ファンに「入れ替わり」があっても仕方のないことだから。当時20歳だった人は40歳になってるわけだし、家庭を持ったり、仕事で重要なポストに就いたり、ライヴどころじゃない人もたくさんいるでしょう? その中で長く応援してくれる人がいるのはもの凄く有り難いことだし、やっぱり大切にしなくちゃね。正直、今度のシェルター・ワンマンもあまり実感がなかったんだけど、こうして話をしているうちに少しだけ実感するようになったよ。今まで全くアニヴァーサリー・ライヴをやってこなかったからね(笑)。
──じゃあ、来年以降はアニヴァーサリー・ライヴに意欲的になるかもしれないと?
K:うん、今日ちょっとだけ火がついた(笑)。でもまぁ、グルーヴァーズとしては「次のアルバムが最高傑作」って常に言い続けたいからね。チャップリンも死ぬまで同じことを言ってたしさ。とにかくまだまだ全力で疾走し続けるよ。20年前もそうだったし、20年後も変わらないと思うから。