真剣にキメるところはキメることが重要
──何事も一期一会なんだし、後からいくらでもやり直しが利くという発想自体、どこか麻痺した部分があるのかもしれないですね。巨大な津波が東北の街を呑み込んで跡形もなくなった光景を見て以降、自分の中で諸侯無常という言葉が余計に重みを増した気がするんですよ。もしかしたら自分も『100メートルの恋』の主人公のように日常の生活を“永遠と信じてた”ところがあったのかもしれないと思って。
K:あの震災が起こって、パソコンなんて何の役にも立たなかったよね。元気がなきゃ何もやる気が起こらないしさ。震災から何日かは音楽すら無力だった。「津波で何もかも失ったけど音楽に助けられた」っていう人もいるかもしれないけど、少なくとも俺の家はあの日から数日は音楽も何もなくシーンとしてたよ。ましてやロックなんて無用の長物で、世の中には何の役にも立たないじゃないかって真剣に思った。でも、いち早くチャリティ・ライヴをやって、こういうことがやれて良かったなと思えたし、こういう曲を書けて演奏できる自分で良かったなと思えたんだよね。やっぱり、真剣にキメるところはキメることが日本のバンドとしては重要なんじゃないかなって。逆に言えば、もうそういうことしかやれない。
──でも、マックショウのロックンロールを求めるファンは全国にたくさんいるし、求められるものに対して誠実に応える真摯さがマックショウには一貫してありますよね。
K:俺たちにできることはそれくらいしかないから。ステージに立つ以上は言い訳なんかできないし、精一杯やれることをやるだけなんだよ。今はいいアルバムを作って、早く全国を回りたいよね。それはもう、感覚としては魚釣りに近い。“いい魚を釣りたいよね”みたいなさ(笑)。でも、確実にいい魚を釣れる保証はどこにもないし、釣れるかどうか判らない状態で釣ってるわけで。陶芸家もそうだよね。どれだけ気持ちを込めて作っても、土の種類やこね方、その日の天気や焼く温度とかいろんな条件があるから、必ずしも理想的な作品が作れるとは限らない。そういうのに近いよね。だって、バンドだもん。一人でやってるわけじゃないから。
T:メンバーそれぞれの体調とかもあるしね。
K:そういう予測不能な部分を含めてロックンロールだからさ。チャック・ベリーとかのオールド・ロックンロールやサン・レコードの作品を聴いても、明らかに演奏がおかしかったりヨレたところがあるからね(笑)。“もう何でもいいよ、売れてんだから出しとけ!”みたいな勢いで(笑)、一発録りしたらハイ次! っていう。それか、潔く消して上から録り直す。そこなんだよ、やっぱり。記録メディアっていうのは本来そういうものなんだ。その場のノリとか、替えの利かないものを刻み込むっていうね。そうなりたいよね、俺たちも。まぁ、後で困ることは判ってるんだけどさ(笑)。