アナログ・テープの一発実演録音が最善の手法
──敢えてライヴ音源を入れるというのは、古式ゆかしいロックンロールに対するオマージュもあるわけですね。
K:うん、あるよね。今、俺たちのライヴにはまだ子供なのにマックショウのファンっていうのが凄いたくさん来るんだよ。もちろん親が連れてきてるんだけど、よくある子供連れの風景とはちょっと違うんだよね。だって、子供が全曲唄ってるんだよ?(笑) 多分、ヒーローものの歌と勘違いしてるんじゃないかと思うんだけど(笑)。親が好きなアーティストをその子供も好きになるっていう話はよく聞くけど、ちょっと間違ってるよね(笑)。
──いやいや、最高の情操教育じゃないですか(笑)。
K:俺たちが思春期の頃にロックを聴いて“何だこれは!? ライヴに行ってみてぇな”とか“この人たちはどんなモノを食ってるんだ!?”みたいな感覚を、マックショウが好きな今の子供たちはどうやら持ってるみたいだね。俺も中高生くらいまではロックンロールに対して同じようなことを思ってたよ。今と違って情報量も圧倒的に少ないしさ。ロックのレコードを聴いて、“世の中、どうにかなっちゃうんじゃないか!?”って思ったからね。実際にはならないんだけど(笑)、それくらいのことは思ってた。
──今回のEPは9月に発表されるニュー・アルバムのパイロット盤と言うよりも、ひとつの独立した作品として捉えられますよね。互いに補完作用のある収録曲だし、明確なコンセプトが貫かれていますし。
K:結果的にそうなったよね。最初は新曲を『ロックンロール・スルー・ザ・ナイト』だけにしようと考えてたんだけど、後からもう1曲入れたいなと自分で思ったんだよ。それで作ったんだけど、何か合わなくてさ。急遽作り直して、その場でレコーディングしたのが『トゥイスティン・ナンバー・ナイン』だった。こうして見るとミニ・アルバムとまでは行かないまでも、これはこれでひとつの作品として仕上がっているよね。
──7月末にはアルバムのレコーディングに入るそうですが、曲の揃い具合は如何ですか。ちなみに今日は7月19日なんですけど。
K:ギリだね(笑)。今週が勝負だな。
T:今週どころか、もうすでにかなりのギリだよね(笑)。
──前作の『Here Comes The Rocka-Rolla 〜情熱のロカ・ローラ〜』は個人的にも未だ日常的に愛聴していて、あの完膚無きまでの傑作を超えるのはかなり難儀なのではないかと思いますが。
K:毎回難儀だよ。10代のロックンロールをレコーディングしてCDにして出すことを完全に否定した中で『BEAT THE MACKSHOW』というファースト・アルバムがあったわけ。曲を作って、通り一遍のレコーディングをやって、プロモーションをして…っていう一連の作業をそれまでコルツで散々やってきて、俺は嫌気がさしていた。そういうのを一度ブッ壊そうってことでマックショウのファースト・アルバムがあり、セカンド、サード…と来たわけだよ。その流れで7、8年やってきて、アナログ・テープで一発録音した『〜ロカ・ローラ』に到達したっていうのは、従来通りの手法がやっぱり一番なんだってこと。
──去年のインタビューでも、コージーさんは「プロツールスを捨てるまで、絶対にロックンロールは戻って来ない」と断言していましたよね。
K:うん。頑張って曲を作って、リハーサルをして、一発で録音をキメて、最良のパフォーマンスを収録して世に送り出すっていうのが最善の方法で、それがロックンロールには一番合ってるんだよ。それを理解できたのが『〜ロカ・ローラ』だった。俺たちが18、9の頃に初めて出したレコードと全く同じ手法だからね。次のアルバムももちろん同じ手法で臨むわけだけど、今はまだどうなるか判らない。『〜ロカ・ローラ』はアナログ・テープの一発実演録音っていう手法自体にインパクトがあったから、あれを超えるのは難しいよ。モノのインパクトとして『BEAT THE MACKSHOW』を超えられないようにさ。まぁ、俺は今度のレコーディングが楽しみだけどね。一時期はレコーディングするのに嫌気がさして、「もういいじゃん、CDなんか出さなくても」ってコルツの時に言ってたんだよ。93年くらいかな。
T:「ライヴだけやれてればいい」って、全然乗り気じゃなかったね(笑)。
K:インディーズから一番最初の『LIFE IS A CIRCUS』を出す前に定期的にライヴをやっててさ。俺は人前でパフォーマンスするのが好きでね。その時にトミーから「オリジナル曲が山のようにあるし、いい加減CDを出そうよ」って言われて(笑)。
T:“こんなことをやってます”っていう名刺代わりになるモノがあったらいいなと思ってね。
K:俺は“何でCDを出さなきゃいけないの? ライヴへ聴きに来いよ!”って思ってたんだよ。“CDなんて要らねぇよ!”って。自分の大好きなクラッシュとかがCDになって聴いてみたけど、その時もCDは要らないと思った。その前に出てたテープしか聴かなかったし、CDに対する拒絶反応があったんだよ。まぁ、その前にレコードは全部売っちゃったんだけどね(笑)。アナログからCDへの移行っていうのは今の地デジ化みたいなものでさ、何から何までCDにしなくちゃいけないみたいな感じがあって、それがイヤだったね。
その場でやれる最大限のパフォーマンスをやる
──CD、つまり音源を出さなくてもいいという発想は、最良のパフォーマンスは音源ではなくライヴにこそあるとコージーさんが考えていたからじゃないですか?
K:そうだね。自分たちの一番いいパフォーマンスはCDになってないと思ってたから。それがこの歳になって、その場でやれる最大限のパフォーマンスをやることに集中できるようになった。それが今は幸せだし、レコーディングが楽しみに思えるようになったんだよね。曲を作るのは相変わらず大変だけどさ。
──まぁ、レコーディング直前になって曲を書き直す大変な技量があるわけですから(笑)。
K:ロックンロールってそんなものだからね。ロックンロールのレコードってもの凄くいっぱいあるけど、全部残らず聴かないでしょう?(笑) “この曲、別に入れなくても良かったんじゃない?”とか“サボってんなぁ…”って明らかに感じるレコードがいっぱいあるじゃない? そういうのもロックンロールの良さなんだよね。運転のハンドルさばきに遊びが必要なのと一緒だよ。
──ロックンロールってキメの美学がある一方でヨイヨイな感じがあるのがいいし、それでこそリアリティがあるじゃないですか。清濁併せ呑んでこそのロックンロールと言うか。それを学術的にではなくストレートに享受できるのがマックショウの音源でありライヴだと僕は思うんですよね。
K:やっぱり、体感してもらいたいんだよね。ライヴで体感するロックンロールの良さっていうのを客も俺たちも知ってるから、それをCDに持ち込むにはムダなものを極限まで削ぎ落としてパフォーマンスするしかない。俺たちの好きなオールド・ロックンロールやビートルズは、一発録りも何も、それしか選択肢がなかったわけだから。ビートルズから(美空)ひばりさんまでずっとそうだよ。「ちょっとアンタ、一回しか唄わないからちゃんと録ってよ」みたいなさ(笑)。それがだんだん作品を残すことばかりに重きを置くようになって、今の世の中、作品が大事なのか、データが並んでるのが大事なのか、アーカイヴが大事なのか、よく判らなくなってきた。だから俺たちはレコーディングの手法を従来の形に戻したんだよ。集中して一発でいいパフォーマンスをしなくちゃいけないのは大変だけど楽しいし、「これはあまり良くないんじゃない?」って評価されても仕方ないっていうね。『〜ロカ・ローラ』はみんないいって言ってくれるけど、トミーは自分の歌が気に入らないところがあったんだよ。それで「どうしてもやり直させてくれ」って言われたんだけど、そこは俺がジョージ・マーティンになって、「ダメだ。ハイ、次!」って(笑)。しょうがないよ、そこは一発勝負なんだから。
T:俺は一発勝負に負けた男ということだね(笑)。
K:ジョージ・ハリスンは「ギター・ソロを弾き直させてくれなかった」って何年経っても文句を言ってたらしいからね。ジョージ・マーティンは「ギター・ソロなんて曲の休憩部分だからダメだ」って録り直しを認めなかったらしくて。
──いずれにせよ、怒濤の千本ノックのようなレコーディングが実り多きものになることを願ってます。
K:今回はレコーディング日数が意外と長くて、4日間もあるんだよ。3分前後の曲を一体何回やるんだよ!? って感じだけど(笑)。『〜ロカ・ローラ』で突き詰めた後に何が出てくるのかは自分たちでも判らない。いいパフォーマンスをしたいし、いい作品を残したいけど、スタジオに入って初めて引き出されるマジックがあるからね。『ロックンロール・スルー・ザ・ナイト』だって、結果的にストレートでいい具合に仕上がったとは思うけど、録ってる時はそんなこと判らないんだから。トラックダウンもその場でやってるから、何もやり直せないんだよ。せいぜいマスタリングをやり直して、上の音が少ないからちょっと足した程度でさ。『〜ロカ・ローラ』の時と同じ中川っていうエンジニアと俺で卓で作業を詰めるからマスターはテープしかないし、パソコンには一切データが残ってない。
T:怖いよ、これは(笑)。
K:やり直しが一切利かないからね。ダビングしちゃったら二度と元の形に戻らないし。