Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

稀代の女優が宇崎竜童・阿木燿子の名コンビと33年振りにタッグを組んで到達した歌手としての新境地

2011.06.01

互いに助け合い、困難に立ち向かう強さが日本人にはある

──宇崎さんによるブックレットの寄稿文にもありましたが、低い声、高い声、地声、裏声を変幻自在に出せる梶さんだからこそ多種多様な歌に対応できたんじゃないでしょうか。

梶:私、出そうと思えばいくらでも高い声が出ちゃうんですけど、それが自分でもちょっとイヤなんです。今回、宇崎さんはある程度の高い音を出さないようにしているんですよ。でも、低い音はギリギリのところまで出しているんです。特に『しなやかにしたたかに』は高く唄おうと思えばいくらでも高く唄えるんだけど、意識して高い声を抑えているんですよ。そこは宇崎さんの意図するところなのかなと思いました。

──『しなやかにしたたかに』はアルバムのエンディングを飾るに相応しい壮大なメッセージ・ソングで、溜めの利いた歌声だからこその説得力がありますよね。

梶:語りながら唄い上げると言うか、最初からずっと唄う感じではないですね。「さざ波が徐々に高波になっていくような表現をしてくれる?」っていうのが宇崎さんの希望でしたから。

──楽曲のヴァラエティさ、それを過剰に感じさせない構成の巧みさを含めて会心の1枚だと思いますし、往年のファンはもちろん、『キル・ビル』で梶さんを知った若いリスナーにも訴求力の高い作品に仕上がりましたよね。

梶:そう仰って頂けると凄く嬉しいですね。宇崎さんと最初にキーの合わせをした時に「宇崎さん、どうですか?」と訊いたら、「うん、いいんじゃない? やさぐれ女学生みたいでさ」って言われたの(笑)。今思えば、そのやさぐれ女学生みたいな部分は活かそうとしていたんじゃないかしら。つまり、どの曲にも梶 芽衣子らしさを入れるよ、と。

──それと、さっき梶さんが今のCDショップには大人の居場所がないと仰っていましたが、今回のアルバムは大人がじっくりと楽しめる作品だと思うんですよ。回顧的な復刻作品ではなく、純然たる新作で大人が心ゆくまで堪能できる音楽が最近は少なくなってきている気がするんです。

梶:そういうふうに思って頂けると有り難いですね。私、そんなに広くないライヴハウスとかでライヴをやりたいと思っているんですけど、それを宇崎さんに話したら「ホールもやらなきゃダメだよ」って言われたの。「とにかく歌に慣れといて」って突き放すような言い方をされて(笑)。そんなに小さなライヴハウスばかりじゃダメだよって意味ですよね。

──これだけの充実作を聴くと、ライヴで是非聴いてみたいと思うのは無理からぬところですよね。僕は逆に、我が新宿ロフトのようなそれほど大きくないライヴハウスでライヴを体感したいですけど(笑)。

梶:宇崎さんは「このアルバムを聴いて、ライヴを見てみたいと思われたらひとつのハードルを越えたってことじゃないの?」って仰って下さいましたね。私としても是非ライヴをやりたいんですけど、こういうご時世なんでね。今回の震災でご挨拶に伺ったCDショップやイヴェンターの方が津波に流されたり、想像を絶する悲惨な状況じゃないですか。テレビのニュースをずっと見ていても思うんですけど、私たちのほうが被災地の方々に励まされている感じですよね。さっきも話した『袋小路三番町』の「都会の人の無関心」という歌詞に象徴されるように、人間関係の稀薄さが当たり前みたいな世の中だけれども、こういう惨事があったことによってひとつの日本になれている現実があるじゃないですか。それは純粋に素敵なことじゃない? お互いに助け合って困難に立ち向かう強さが日本人にはあるし、それは被災されたお子さんたちを見ても思いますよ。私がもしあの立場になったらあんなに明るく健気でいられるだろうか? と思うし、私たちが今こそしっかりしなきゃいけませんよね。

──梶さんの歌の通り、“しなやかにしたたかに”生きていかなければ、ですね。

梶:本当にそうよ。“あやまち”もあったけどね(笑)。とにかく今は各自ができることを精一杯やるしかないし、この状況を救うにはまず経済を回していくことですよね。

──今回のアルバムが誰かの心の糧や一服の清涼剤になることもあるでしょうし、音楽も決して無力ではないですよね。

梶:そうですね。私の周りにいる20代、40代、同世代、70代の方たちに今回のアルバムを聴いて頂いて、ほとんどの方が「いいんじゃない?」「今度のはいいね!」って褒めて下さるんですよ。それが素直に嬉しくて、やった甲斐があったなと思って。私のファン層は若い世代から70代まで本当に幅広くて、それはとても有り難いことなんですね。年配の方は『一番星ブルース』の引きが強いでしょうし、『しなやかにしたたかに』は年配の方も若い方も広い層の方が「いい」って仰って下さる。お酒に喩えるならば、曲によってウイスキーが合ったり日本酒が合ったりするような感じで、いろんな呑み方、楽しみ方ができるアルバムだと思うんですよ。まぁ、私自身は一滴も呑めませんけどね(笑)。

「何言ってんだよ。これが始まりなんだよ」

──梶さんご自身は完成した音源を聴き返したりするんですか。

梶:聴かないですね。ライヴに備えて時々カラオケで練習はするけど、歌が入ってるものは聴かないです。聴けば絶対イヤになっちゃうから。私、映画もドラマも自分の出演作はほとんど見ないんです。それも、見るとイヤになっちゃうからなのよ。絶対に欠点しか見えないし、そうすると前へ進めなくなるから。私がまた歌を唄いたいと漠然と思った理由のひとつとして、歌は唄い終わったらそこで終わりっていうのがあって。映画にしてもドラマにしても後々まで映像作品として残るけれど、歌はその場限りでしょう? ライヴも演奏が終わったらそれで終わり。そこがいいんです。

──何事も一期一会のほうが性に合うと?

梶:そうなんでしょうね。その場限りの図りきれない緊張感がいい意味での快感なんですよね。怒髪天の『うたのうた』を唄った時なんて何も物怖じせずに出ちゃって、終わってから震えが来たくらいあがってましたから(笑)。

──こうして手応えのある作品を作り終えて、またコンスタントに音源を発表していきたいという思いはありますか。

梶:実を言うと、最初に宇崎さんにはこう申し上げたんですよ。「年齢的にも体力的にも恐らくこれが最後の作品になると思う」って。そしたら宇崎さんに言われたわけ。「何言ってんだよ。これが始まりなんだよ。これからだよ」って。さすがの私も「エエッ!?」って驚いちゃって(笑)。

──いや、これで唄い納めだなんてあまりに惜しいですよ。でもどうですか。役者と並行して歌手として活動されていた頃と比べて、今は歌を唄うことを純粋に楽しめているんじゃないですか。

梶:そうですね。33年前よりも少しはゆとりを持って歌を楽しめているのかもしれない。私は33年前に自分で歌をやめたんですよ。当時は気がつくと移動車の中でセリフを覚えたり、ヘッドフォンをしてレコーディングしていたんですね。自分のベッドの中でまっすぐ身体を伸ばして寝た記憶がないくらい忙しかった。映画があって、レギュラーのテレビ番組が3本あって、その上にレコーディングですから。成功することは有り難いし喜びでもあるんだけど、その反面でどうしようもない不安が付きまとうんですよ。こんな成功がいつまでも続くわけがないっていう不安がね。『女囚さそり』だって、最初はあそこまでヒットするとは誰も考えていなかったし、何の期待もされていなかったんです。でも、それが当たっちゃった。当然のように2本目が作られることになる。私がイヤだと言っても、すでに制作のお膳立てがされている。2本目の『女囚さそり』は1本目が公開された年のお正月映画になって、その時に『怨み節』のレコードを出したんですよ。それは約束されたようなもので、大ヒットになりました。そうなるともう、明けても暮れてもレコーディングなんですよ。私に発言権はないし、とにかく与えられたスケジュールをこなすしかない。2年くらいそんな毎日が続いて、私はこのまま行くと死ぬんじゃないかと思ったんです。

──想像を絶する過密スケジュールだったわけですね。

梶:私の知らないところで、1年に60曲唄うというレコード会社との契約があったんです。だから明けても暮れてもレコーディングだったんですね。その60曲を全部唄い終えた時に「もういい!」って歌をやめたんですよ。この世界に入ったのはあくまでも役者としてですから、役者に専念しようと思ったんです。基本に立ち返って自分自身を見つめ直す時間が必要なんじゃないの? と囁くもうひとりの自分がいたんですね。ヘンな話、役者として稼ぐ1ヶ月分のギャランティを歌手の営業なら1日で稼げてしまうんですよ。確かにお金は大切だけれど、ダメになった時はどうすればいいのかという不安が絶えずあったので、自分から歌を断ち切ることにしたんです。それに私、CDプレーヤー自体をずっと持ってなかったんですよね。それくらい音楽を聴いていなかったんです。音楽を聴くのもイヤでしたから。もう徹底的に音楽を切り離していたんですよ。持っていたのは自分のレコードくらい。

──それはまた気持ちいいくらいの潔さですね(笑)。

梶:ええ。レコード・プレーヤーは持っていましたけどね。でも、ウチのマネージャーから「あんたね、自分でCDを出したんだからCDプレーヤーくらい買いなさいよ」って言われてやっと買ったんですよ(笑)。

──歌を唄うことで自身のキャリアの突破口にしたいと冒頭で仰っていましたが、実際に風穴を開けられた自負はありますか。

梶:このアルバムがそういう存在であって欲しいですね。これをきっかけにまた新たな扉を開けたいですし。私、表現するという意味では芝居も歌も同じだとずっと思っていたんですよ。でも、敢えて違いを言うならば、それは“間”だろうと。歌の“間”というのは音符で出来ているからそこに嵌め込まなきゃいけないけど、芝居は自分の“間”で演じることができる。これが決定的に違う。それを今回、凄く感じましたね。そういう意味で芝居と歌は違うなと思いました。

──くどいようですが、一瞬一瞬の数珠繋ぎであるライヴでの活躍も期待しております。

梶:私、ライヴは自分の好きなようにやろうと思います。その時々の感情が趣くままにやりたいんです。私はそのことを宇崎さんに申し上げました。そしたら宇崎さんから「当たり前だろ」って言われたんですよ。「俺はプロデューサーで、作曲家で、如何にしてCDをアピールするかを考えてる。梶さんが好きなように唄う歌をCDにしたら売れないよ」って(笑)。自分の話があまりに素人っぽくて、もう本当に恥ずかしくなったわよ(笑)。

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LIVE INFOライブ情報

梶 芽衣子『あいつの好きそなブルース』発売記念トーク&ミニライブ

ゲスト:宇崎竜童

【開催日時】2011年6月5日(日)14:00
【場所】タワーレコード渋谷店 B1「STAGE ONE」

◎参加方法:ご予約者優先で下記対象店舗にて5月25日(水)発売(5月24日入荷)アルバム『あいつの好きそなブルース』をご購入の方に先着でペア入場券を配布いたします。ご予約のお客様には優先的に入場券を確保し、商品ご購入時に入場券を差し上げます。CD1点につき1枚のペア入場券を差し上げます。1枚の入場券で、2名様までご入場頂けます。当日イベントご参加の方(ご購入者様に限り/当日購入も可)は、握手会にご参加のうえ、梶 芽衣子から自筆豆色紙のプレゼントがございます。また、イベント内で行われる抽選会(本人の私物プレゼントコーナー)も入場券をお持ちの方が対象になります。

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