Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

冬枯れに顔を出した新芽の如く、力強く歩き出したAnyの未来

2011.01.28

 2010年9月にシングル『優しい人』でメジャーデビューを果たし、数々の曲が地上派テレビ番組のエンディグテーマに抜擢される等、現在飛躍的に活躍中のAny。昨年12月に待望の1st フルアルバム『宿り木』をリリースし、今年2月にはバンド史上初のワンマンライブを控えている。
 今回は、Anyの作詞・作曲も手がける工藤成永(Vocal & Guitars)にインタビューを敢行した。意欲が溢れ、ギラギラとした彼が放つ言葉の数々に、私は胸を打たれた。新作やワンマンライブが多くの人に届くよう、心から願っている。(interview:樋口寛子/ロフトプロジェクト)

Anyの像をずっと探していた

── まずはバンド結成のいきさつを教えてください
「高校の時に軽音学部と合唱部があって、大森慎也くん(Bass)と知り合いました。その時は別々のバンドをやっていて、僕が所属していた4人組のバンドは、その年のYHMF2006に出場してオリジナル楽曲でグランプリを頂いたんです。その後自分の実力って本当にどうなんだろうって確かめたくて、もう1回応募してみようって同じ部活だった大森くんと前のドラムと僕の3人で組んだのがAnyなんです。それで、YHMF2007に出場してまたグランプリを頂きました。この時に出会ったのが今のドラムの(高橋)武君で、ドラムが上手いという評判は聞いていたけど、実際見たらやっぱり上手くて予選終わった時に“いつか一緒にやれたらいいね”って話して帰ったんです。この時僕らとしては、プロを目指そうという決意は固まってました。でも大会が終わった後に、当時のドラムが脱退してしまい、誰にお願いしようかと大森くんと話した時に武君の名前が出て一緒にやる事になりました。あの大会がきっかけでCDをリリース出来るようになったんですが、傍目から見たら意外とすんなりいったイメージが持たれているかと思います。でも、最初は“新宿ロフトってどうやったら出る事が出来るんだろう”“あそこは実力がないとダメだよ”って話もよくしていたんですよ。CDをリリース出来るまでは短い期間でしたが、その間にも成長出来ていると感じています」
── 高校時代はずっと音楽漬けだったんですか?
「はい。音楽以外の話が出来なかったです(笑)。中学の時から音楽しかやる事がなかったですから。」
── 高校からずっとオリジナルにこだわって楽曲制作をしていたんですか?
「そうですね。高校の時にメレンゲや音速ラインがすごく好きでコピーしていました。自然とバンドと音楽を知って行く土俵になったというか、いろんな人に教えてもらったりとかして。」
── いろんな経緯を経て辿り着いた1st full album『宿り木』を作り終えた今の心境を聞かせてください。
「インディーズの頃は自分達の未熟さというのも知らないで“これがかっこいいんだ!”って思ってやっていたのもありましたが、今思うとAnyというものをずっと探していくような作業が多かった気がします。こうするのがAnyなんじゃないかと、自分達で自分達を作り上げていくような部分があったんです。ただ、この『宿り木』を作り終えた時に、もう探していかなくてもいいんだなって実感がありました。Anyに対して距離がなくなったんですよね。それが今回とても大きかったです。」
── 『宿り木』は自分達にとってどんな作品になったか? と問われるとどうですか?
「Anyという代名詞として『宿り木』が当てはまるんじゃないかと思います。」
── そしてアルバムタイトルの由来が気になりました。
「これにはエピソードがあるんです。以前、知り合いを通じて、カントリー系の音楽に精通している方に出会ったんです。でも、出会ってから1年経った頃にその方が病気で亡くなってしまい、そのことがきっかけで生きる事とか死ぬ事とかに対して、すごく考えるようになりました。おじさんが使っていたギターは今僕の家にあって、それを使って出来た『宿り木』という曲があるんです(※アルバムには未収録)。それで、“おじさんのギターがあったからこの曲が出来ました”とおじさんの遺影の前で歌ったことがあって、その時にご家族の方から、おじさんの治療薬の原材料が「宿り木」だったことを聞いたんです。僕は、「宿り木」という言葉を使いたいなと思い歌詞の中に入れたんですが、巡り合わせのような気がしていて。だからその曲のタイトルをアルバムのタイトルにしようと思いました。音楽をやっている中で、人との出会いがあったり、そこで繋がっているものってすごく信じているんですよ。縁みたいなものをすごく感じる。きっと『宿り木』がタイトルに呼ばれたのかなって思っています。今回の作品の全部は、出会いが生んだ楽曲だと思っています。」
 

何十年経っても聴かれる作品を

── 今回収録されている各曲の解説を聞きたいのですが、1曲目『クローゼット』から。
「押し入れとか引き出しとかに大事なものを入れると思うんですけど、大事なものがどんどん積み重なってしまって、一番大事だったものが下になっていく感覚を曲にしたいなと思ったんです。大事なものって忘れてしまったり、見失ったりするだろうけど、それを思い出す事で自分自身も変わっていけるし、そういう大事な事に気付きたいなと思って書いた曲が『クローゼット』です。言葉では忘れないよって言ったとしても忘れますよね(笑)? それを実感したので、忘れない為にも封じ込めたいなって。」
── 1曲目に『クローゼット』を持ってきた意図は?
「“大事なものって何だろう”というのがこのアルバムのテーマとしてあって、インパクトよりも意味があって言葉がちゃんと立っているものがいいなと思ったんです。1曲目にこの曲を持ってきた事によって、Anyの新しい部分を知れるだろうし、伝えたいメッセージがドンと乗っている方が良いと思い、この曲を1曲目にしました。」
── では2曲目『アンチエイド』は?
「これは高校時代に作曲した曲なんです。僕はボツにした曲はもうやらないと決めてしまうのですが、大森くんは昔の音源をちゃんと持っているんです。で、この曲をプロデューサーの片寄明人さんに聞いてもらったところ“何でこの曲をボツにするんだよ”と言われて。歌詞を書きながら考えていた事は、最初から自信なんてないけれど、自分が守りたいものっていうのは誰にでもあって、それをちゃんと歌えるようになりたいと思い歌詞を書きました。レコーディング中に考えた事が全部乗っかっている感じ。全然上手くいかないなと思ったり、それでもやらなきゃいけない状況でもあって、その中で自分が本当に守りたいものについて歌っています。歌詞は高校時代に作ったものとは変えていて、今の気持ちを届けたいと思ったら歌詞を変えたいと思い、この形になりました。やはり、どうしても昔の気持ちには戻れないですから。」
── 3曲目の『セレナーデ』は?
「これは自分の弱さだったり、向き合わないといけない現実があって、そこに向かう葛藤だったりとか、どうしようもない孤独感だったりとかを感じて書いた曲です。相手を思う気持ちだったりとか、日々生活していく中での葛藤だったり苛立ちを歌詞にしました。」
── 4曲目『JAM』は? メロディーに遊びが効いてるなと思いましたが。
「家を出た時に花が咲いていて、実をつけていたんです。それが何色だったかは覚えていないのですが、それを見た時にハッと浮かんだ曲で。この曲に描かれている実って苦いんです。自分にとって都合の悪い事だったり、難しい事だったり大変な事を苦くても食べて味わってみようって。その実は、1つのモチーフではあるんですけど、自分の足りないものであったり、受け入れていかなきゃいけないものは、ちゃんと受け入れていくという曲ですね。そのメッセージとは裏腹に軽快な曲調だったりするんですけど。そういう重いメッセージに重いメロディーを載せるのは、ある意味ロックなんでしょうけど、ポップではない。そこはメッセージと曲のバランスをとりました。」
── 2nd singleにもなった5曲目の『落雷』はどうでしょうか?
「どうしたら曲が書けるんだろう? って悩む事があって思いっきりギターを弾いた時に出来た曲です。コンセプトを1つ作って書いてみようかなと思った曲なんです。自分にとって大事な人に会いに行く事だけをコンセプトに、自分が思った事を素直にどんと出して行こうと思って書きました。本当は石橋を叩いて渡るタイプなんですけどね。こういう部分を強く出してもいいのかなって。」
── 6曲目『13月の雨時計』はどうですか?
「大切な人とか自分にとって心地良い瞬間があったとしたら、それが永遠だと思っていたいけれど、時間はどんどん過ぎてしまう。自分の中で“時計”に興味を持ってた時期で、時計を壊して時間を止めてみようとしても、時間はどんどん過ぎていってしまうし…。そしたら、“今”を生きる事にちゃんと目を向けていかなきゃなと思って作った曲です。最初はボーナストラックの予定だったんですけど、あまりにも良い感じだったのでそのまま入れてしまいました(笑)。タイトルは、ちょっと異世界な感じを出したいなと思い付けました。」
── では7曲目『雨のパレード』は? 『優しい人』のカップリングにもなっている曲ですが。
「『13月の雨時計』と対比で、永遠なんてつかの間の出来事だと『13月の雨時計』では歌っていて、『雨のパレード』では想像が膨らめば永遠だってありえると歌っていて。その2つは自分の中の感覚として両方あると思います。『雨のパレード』はもっともっと強く言い切りたいという変化を求めた部分ではありました。素直に思った事を『雨のパレード』でも歌いたいなと。次の8曲目『Waffle』は、『落雷』と同じで“大切な人に会いに行く”というコンセプトで書いた曲です。自分の心の中で色々と考えいると、“大切な人に会いにいく”ということに対しての葛藤って絶対あるなと思ったのです。こんな事を言ったら嫌われてしまうとか葛藤しながら前に進んでいく印象が『落雷』ではあるのですが、『Waffle』の場合は壁を超えてしまうのような、自分の中で一番ポジティブな部分を出したいなと思いました。タイトルは、単純にワッフルが好きってのもあります(笑)。ワッフルって甘くて魅力的だし、まるで吸い寄せられるような魅力があるんですよね。甘い蜜を吸いにいく蜜蜂みたいに、吸い寄せられてしまうというか…。そんな感じもありつつタイトルを『Waffle』にしてみました。」
── 9曲目『ハリネズミ』は?
「この曲は真夜中に書いていました。ちょうどこの曲を書いた頃から、生きている事にちゃんと向き合いたいなぁと思って書いたんです。この曲のタイトルは、『ハリネズミのジレンマ』という、心理学の用語を授業で聞き感じて書いた曲なんです。相手のトゲも含めて抱きしめる、相手を認めて受け入れていくという凄い大事な事だなと感じました。自分が成長していく上で必要な事だと思う。」
── では最後10曲目『優しい人』は?
「この曲は2曲目『アンチエイド』より昔の曲で、高校時代に出来た曲です。僕らにとってもキーとなる曲で、デビューシングルに選んだ事も1つ大きな事だったりします。音楽において自分達はどこに向えばいいんだと考えた時期にこの曲をやる事になり、スタジオで音を合わせた時にこの曲のメロディや言葉は凄く強いなと感じました。この曲は唯一当時からの原曲通りなんです。当時の僕らが出ている曲で、Anyとして大会で優勝した時もこの曲を演奏していてとても思い出深い曲です。原点という事を考えた時にこの曲しかないなと思いました。この曲からまたスタートするという意味でデビューシングルにし、このアルバムの最後に持ってくる事によって原点として残し、『クローゼット』に戻る事によってまたAnyを知ってもらえると思ったんです。最初は、メロディーだったり音の感じで、Anyはこういうバンドなんだって知ってもらえたらそれだけで十分なんですが、僕はこのアルバムは10年、20年経っても聴けるものを作ろうって思っていました。メッセージとして濃いものが出来たし、ただ楽しみたい、刺激が欲しいって作った訳じゃないので、理解されるのにすごく時間がかかるのかなと思います。楽しみ方は人それぞれですが、他の音楽とは違うんじゃないかなと思います。」
── 私が聴いた印象としては、今回の新作は、想像とリアルがあったら全体的にリアリティーの部分が多く感じました。
「全体的に嘘はつきたくないなって思ってました。今まで嘘をついてきた訳じゃないんですけど(笑)。ただ生きていく事とかに対してもっともっと考えていかなきゃいけないと思った時に、言葉の深さを知らなかったなと単純に思ったんですよね。相手を認めるってどれだけ大変な事なんだろうとか、ちゃんと生きるってどうゆう事なんだろうって考えた時にこういう作品になったんです。」

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1st フルアルバム「宿り木」

PCCA-03319 / 2,500yen (tax in)
IN STORES NOW
ROCKER ROOM/PONY CANYON

amazonで購入

01. クローゼット
02. アンチエイド
03. セレナーデ
04. JAM
05. 落雷
06. 13月の雨時計
07. 雨のパレード
08. Waffle
09. ハリネズミ
10. 優しい人

LIVE INFOライブ情報

【Beat Happening! VOL.471】
2月16日(水)渋谷LUSH

出演:NEKOZE / 或るミイ / The Rouxtz / The Levee Breaks / 工藤成永(Any)
【問】SHIBUYA Lush 03-5467-3071
※工藤成永の弾き語りです。

初ワンマンライブ【Any 宿り木 tour 2011】
2月25日(金)東京・渋谷 Shibuya O-nest

チケット発売中
3月18日(金)神奈川・横浜 BAYSIS
一般発売:2月5日(土)
問い合わせ:VINTAGE ROCK 03-5486-1099
 

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