宙に浮いていない醒めた感じ
──seekさんも幸樹さんも、純粋なファンとしてライヴを楽しめるのはLUNA SEAのようなビッグ・ネームに限られていますか。
seek:そうですね。ライヴは結構見に行くんですけど、どうしても仕事目線で見てしまうんです。お客さんがどういうことで楽しんでいるのか、ステージの作り方をどうしているのか、構成をどう決めているのか…そういうことをつい考えてしまうので、最前列で頭を振っていた昔のような楽しみ方はできないですね。何と言うか、お客さんがちょっと宙に浮いているような感覚が凄く大事なんですよ。僕らもステージに立つ側としてお客さんを宙に浮かせないとダメやなと思うんです。ただ、お客さんのテンションに関しては時代が変わったなと感じることが多いですね。
雨宮:具体的に言うとどんなところですか?
seek:今は宙に浮いていない、醒めた感じがあるじゃないですか。ここ数年、そのことで凄く悩んでいるんですよ。でも、よくよく考えてみれば今の子にはその醒めた感じが普通なんやろなと思って。僕らが中高生の頃は田舎やからわざわざ大阪まで行かないとCDが買えないとか、ライヴに行かないと次のライヴのフライヤーが貰えないとか、情報が極端に少ない状況の中でバンドに憧れを抱いていたから余計にテンションが上がっていたんです。それが今の時代はホームページがあって当たり前、スケジュールが出ていて当たり前、ゲリラ・ライヴをやっても「何で事前に告知してくれないんですか?」というクレームが来る(笑)。
雨宮:ゲリラの意味がありませんよね(笑)。
seek:そんな時代の中で育った子らに「お前ら、判ってないな」って言うのもちょっとちゃうなと最近思うんです。醒めた感じであっても、それが今の子らの中で一番楽しめてる姿なのであれば、僕らもまた新しいことを考えていかなきゃいけないなと思って。「昔の時代は良かったな」って言うのは好きじゃないですし、単純に時代が違うんだなと。これだけツイッターが流行れば、バンドマンが今何をやっているのか全部判りますからね。何時に起きて、昼食は何を食べたかまで全部お見通しじゃないですか。
幸樹:つぶやかなかったら「その時間は何をしていたんですか?」みたいなことを言われますからね(笑)。
seek:ツイッターにしろブログにしろ、今はアウトプットがたくさんあるじゃないですか。昔はライヴのMCか雑誌のコラムとかでしかその人が考えてることは判らなかったわけで。今は書き手側の資質が問われる時代なんだと思いますよ。もちろん、ツイッターやブログを全否定するわけやないです。僕も最初はツイッターに無茶苦茶抵抗があったんですけど、今は楽しんでやってますし(笑)。バンドマン同士で「メールすれば済む話やん」みたいなつぶやきをし合うんですけど、お客さんがそのやり取りを見てたりするじゃないですか。お客さんにはそういう楽しみ方があるんだなと思ったし、それも時代の変化ですよね。ツイッターもそうですけど、お客さんの中で完結させるものが増えたなと思うんです。好きなものを自分のところに集めてくると言うか。昔は自分からライヴハウスに行って、その環境に染まっていったものですけどね。
真っ白な状態で曲作りをしたい
──seekさんと幸樹さんは雨宮さんの著作を読んだことがありますか?
seek:僕はこの間『バンギャル ア ゴーゴー』を雨宮さんから頂いて、速攻読みましたね。ツアーにも持っていって、面白く読ませて頂きました。
雨宮:わぁ、どうもありがとうござます!
seek:言ったら、バンギャルってもの凄く近い存在じゃないですか。でも、あの本を読んで「まだまだ知らないことがたくさんあるんだな…」って衝撃をいっぱい受けたんですよ。
雨宮:たとえばどんなことですか?
seek:僕らがツアー中にバンギャルさんたちと会うのはライヴハウスに出入りする時とライヴの時間の12時間程度で、それ以外の移動やら何やらの時間を知れたのは興味深かったですね。あと、バンギャルさん一人一人の考えみたいなものとか。そういうのがあの本には詰まっていましたね。一番よく知っていたはずの存在が実は一番よく知らなかったというのが衝撃でした。
──読書は普段からよくされるんですか?
幸樹:僕はコミックばっかりですね。小説とかも読みたいとは思うんですけど、如何せんコミックが大好きなもので(笑)。この間、47都道府県を回ったツアーをやったんですけど、全箇所を回ってくれたファンの方もいるんですよ。2ヶ月半ずっと移動行程が同じで。
雨宮:ええ! それは凄いですね!
幸樹:その時にファン心理みたいなものを相手の立場になって考えてみたいと思ったんですよ。なので、僕もいつか『バンギャル ア ゴーゴー』を読んでみようと思います。
雨宮:幸樹さんにも読んで頂きたくてお持ちしましたので、どうぞこれを…(と、持参していた『バンギャル ア ゴーゴー』の文庫本全3巻を差し出す)。
幸樹:ありがとうございます!(笑) 是非読ませて頂きます!
雨宮:seekさんは凄い読書家ですよね? seekさんの『凡人水族園』を読ませて頂いたんですけど、見沢知廉さんのことが書かれてあったりして凄いびっくりしたんですよ。
seek:その辺がステージに立っている姿と直結していないんですけどね(笑)。僕はゲームもあまりしないし、マンガも全然読まないんですよ。こんな格好をしているんで「ゲームはよくやるんでしょ?」なんて言われるんですけど、仕事上白塗りをしています(笑)。
幸樹:僕も生きているうちに一度は執筆活動をしてみたいと思っているんですけど、表現力とかはあまり気にせず書かれているんですか?
seek:文章を書きたい欲求のほうが最初は強かったですね。あと、バンドのイメージと直結していない自分のプロフィールを知って欲しいという欲求もありました。
雨宮:私、seekさんの文章が大好きなんですよ。バンドのイメージとは全然違って、まるで文学者みたいで。
seek:いやいや、滅相もないです。書きたいことを書いているだけですよ。僕は褒められると上手いリアクションができないので勘弁して下さい(笑)。
──書物からインスパイアを受けて曲作りをすることはありますか?
幸樹:僕はそれもあって、敢えて本を読まないところがありますね。自分が格好いいと感じてしまうと、深層心理の中にそれが残ってしまいそうで。今まで聴いてきた音楽も、作曲の時はなくしたいと思うタイプなんです。何の影響も受けずに真っ白な状態で曲を書きたいし、書き溜めもしないんですよ。それでいつも自分の首を絞めてるんですけどね(笑)。でも、その時々に感じたことや考えていることをダイレクトに出したいと思っているので、そこは仕方ないですね。ただ、雨宮さんの本はちゃんと読ませて頂きます(笑)。
雨宮:歌詞を書く時はどんなテンションで臨むんですか?
幸樹:決まった書き方はないし、状況は色々ですね。部屋をグッチャグチャにして書く時もあれば、歌詞が出来るまで家に帰らないと決めてバイパスを延々歩き続けることもあります。
──締め切りまで自分を追い込まないと書けないものじゃないですか?
雨宮:そうですね。私は絶対に家でしか書けないんですけど。家を一歩出たら何一つ書けないし、ちょっと音がするだけでもダメなんです。
seek:へぇ。家にいたら誘惑がいっぱいありそうで、仕事ができなさそうですけどね。
雨宮:誘惑はないですね。家には猫が2匹いるだけで(笑)。seekさんは何処で文章を書いているんですか?
seek:特に決めてないですかね。喫茶店とか、適度なざわつきがあったほうがいいかもしれないです。静まりすぎた場所だと、逆に集中できない気がしますね。