残響recordに所属するバンドを一同に集めたコンピレーション『残響record Compilation vo l.2』が8月4日にリリースされた。この中から、次の時代を築き上げていくだろう新進気鋭のバンドが一同に介して"残響sound tour 2010"を行う。昨年は"残響祭"と題されて、東京・名古屋・大阪の3箇所で開催され、te'、9mm Parabellum Bullet、People In The Boxと言った第一線で活躍しているバンドの出演があったが、今回はレーベルバンドのみのツアーとなる。このツアーに参加をするバンドは相当な意気込みを持って臨むんだろうと想像していたが、当の本人達は残響だから気負いがあるということではなく、自分たちがどれだけ良いライブを見せられるか、どれだけ楽しむ事ができるかを重要視し、それが結果ファイナルを迎える新宿ロフトまで素晴らしいライブを魅せてくれるに違いないと思っている。
今回は、ツアーに参加する中からAFRICAEMOとハイスイノナサにお話を伺うことができた。両者、音楽のアプローチは違うものの、刺激を受ける仲間であるということを感じる事ができた。この2バンドのワイワイした感じが、参加するオーディエンスにより楽しみになったと感じてもらえるひとつになれたら嬉しい。(interview:やまだともこ)
ここ数年であったターニングポイント
── いろいろとお聞きする前に、AFRICAEMOとハイスイノナサはお互い交流はあるんですか?
鎌野:…はい。
阿部:若干沈黙がありましたね(笑)。実はそうでもないんです。
中村:最初に対バンしたのが1年前の残響祭の時で、名前は知っているのでお互いに意識していたところはあったかもしれませんが交流はなくて…。
金子:よくライブに来てくれるお客さんがハイスイノナサも大好きで、「ハイスイノナサと一緒にやってください」ってすごく言われてて、勝手に知ってる気にはなっていたんですけど。
── レーベルメイトでもそんなに交流はないんですか?
中村:レーベルの中で一緒にツアーに回ることがあって、僕らが前にCDを出した時はperfect piano lessonと3ndとツアーに回って、昨年末にはtexas pandaaも交えて忘年会をしたぐらいなんですけど、AFRICAEMOは対バンが数回だけしかなかったので、深い交流はまだできてないんです。残響祭の時は話ができる環境でもなかったですから。でも今回のツアーで仲が深まるんじゃないかと思っています。
── AFRICAEMOは、どんなバンドと交流が深いですか?
阿部:この間うちらのリリースツアーに一緒に回ったcinema staffとかmudy on the 昨晩とかなんですけど、この2つは残響の中でも打ち上げが激しいバンドなんです。僕らも打ち上げが激しい人とおとなしい人に分かれるんですけど、その壁も崩されそうになるところが難点です(苦笑)。
金子:僕ら2人はAFRICAEMOの酒飲めない組なんで苦労してます。
阿部:まわりではしゃぐ分には良いんですけどね、一緒に飲まされますからね。
── AFRICAEMOに飲めない組がいらっしゃるというのが驚きです。みなさん浴びるように飲むんじゃないかと勝手に思っていたぐらいで。というのも、2年前の残響祭@新宿ロフトが開催される際にAFRICAEMOのみなさんにイベントに対する意気込みを含めたコメントを頂いていたんですが、全ての答えが英語でミステリアスなバンドだな思っていたんです。民族的で、たいまつを焚いている中で演奏していても違和感がないバンドだと思ってましたから(笑)。
金子:そこまでスピリチュアルなバンドを狙ったわけではないですけどね(笑)。
── 当時に比べると、音楽性も少し変わってきたのではないかと思っていましたが。
阿部:あの時はミステリアスな感じで行こうという時期だったんですけど、今はもうちょっとオープンになりましたね。そこは直していこうと思ったんです。
── 変わらなきゃというきっかけはあったんですか?
阿部:最初は音楽性がマニアックな感じで内に内にだったんですけど、その中でも何曲かは開けている曲があったんです。その曲をライブでやると盛り上がるし、そういう曲のほうが今後に繋がるなと思い、それがポイントになって今のようなスタイルになったんです。
── 開けている曲の方が、お客さんの反応が良かったと?
金子:ええ。一昨年に新宿ロフトでやった残響のイベントの時はバーステージに出演させてもらったんですけど、それまでにないぐらい良い盛り上がりで、その辺から外へ外へ向くようになったのかもしれません。曲自体はまだそんなに外向きな感じではなかったけど、ステージングがお客さんありきというか、わかりやすい方向に変わっていったんです。
── ライブを意識して作るようになったことが多くなったということですか?
阿部:前よりもお客さんを意識した曲作りをするようになりました。
── ハイスイノナサは2005年に鎌野さんが加入したあたりが、バンドのターニングポイントになったそうですが。
中村:鎌野さんが入って音楽はだいぶ変わりましたね。それまではミクスチャーみたいな時期があったり、ロックっぽくなったりしていて、鎌野さんが入って今のような音楽になりました。
── 鎌野さんはどういうきっかけでハイスイノナサに入ったんですか?
鎌野:ギターの照井(順政)くんとバイト先が一緒で、一度ライブを見に行った事があったんです。その時はかっこいいと思いつつも、すごく難しいことをやっているバンドだと思っていたんですけど、後日照井くんから「うちのバンドで歌わないか?」って言われて…。
── 歌声も聴かずに、いきなり誘われたんですか?
鎌野:たまにバイト仲間でカラオケに行って歌ったりしていたんです。
中村:そこで天使の歌声を披露したわけです。
鎌野:ライブを見に行った時にかっこいいとは思っていたので「やるやる!」って。
── それが初めてのバンドに?
鎌野:大学のサークルでやったことはありますけど、本格的には初めてです。
中村:鎌野さんは大学の時にクラシックをやっていたんですよ。
鎌野:はい。オペラをやっていて、オペラの舞台には立った事はありますけど、このバンドと出会っていなければずっとクラシックしかやってなかったと思います。
中村:大きなステージでも歌っていたんだよね?
鎌野:学校に大きなステージがあって、そこで生歌で歌ってました。
── でも、バンドで歌うのとオペラって全然違うから、最初はとまどいもあったんじゃないですか?
鎌野:全然違います。未だに試行錯誤してますし、バンドで歌う事の方が難しくて悩んだりします。
── しかもハイスイノナサは、演奏の方々も自由に演奏されていますから。
中村:あまり歌いやすい曲ではないですよね(笑)。歌もそうだし、メロディーもそうだし、バッキングもまともにバッキングしてる人いないから。
鎌野:初めてやったバンドがハイスイノナサなので、バンドで歌う普通ってこういうことなんだなって思っていたんです。
阿部:それはちょっと間違ってるね(笑)。
鎌野:そう(笑)。ハイスイノナサに加入してから何度か他のバンドで歌った事があるんですけど、なんて歌いやすいんだろうって思いました。なんて演奏が聴きとりやすいんだ!って(笑)。
中村:残響祭のDVDに入ってる『ハッピーエンド』なんて、5拍子→6拍子→5拍子→6拍子ですからね。あれを歌っていたら、4分の4拍子は歌いやすいですよね。
ライブはステージと客席のコミュニケーション
── ライブと言えばAFRICAEMOも、それぞれの楽器の配置がどこを向いているんだろうという感じですし、かなりフリースタイルですよね。
阿部:好き放題な感じでやってます。ドラムの配置は、社長のバンド(te')を見て良いなと思ったんです。だいたいのバンドはステージと客席が対面形式というか、バンドがいてお客さんがいて1対1のコミュニケーションという感じがあるんですけど、その軸をぶらせたいというのがあって、半円のような形で配置しているんです。そうするとお客さんからも囲むようになって、境界線があいまいになるから自由な雰囲気を作り出せるんじゃないかって。
── お客さんとの壁を取っ払いたい、と?
阿部:はい。ボーカルのジョージにしても、客席に行ったり、お客さんをステージに上げたりしてますし。
── 以前出演されたフジロックでは、外国のお客さんがステージに乱入してカウベルを乱打したというエピソードがありましたけど、それもバンドとしてはウエルカムなんですか?
阿部:どんなシチュエーションにも対応できるバンドでいたいんです。アクシデントでテンションが上がるみたいな。もともとロックとかってそういうもんじゃないかなと思っていて、ハプニングを求めているようなライブをやりたいんです。
── そしたら、客席にステージを作って、周りをお客さんが囲む中で演奏しても良さそうですね。
阿部:もともとそういう感じだったんですけど、あんまりやると支離滅裂になっちゃうので、最近はライブを見せるという基本を固めた上で、ステージにちゃんと立つようにはしています。でも、そういう遊びの部分はちゃんと持っておきたいのでああいうスタイルになったんです。
金子:新宿ロフトのバーステージぐらいの感じがすごく良いんですよ。お客さんとも近いし、しっくり来るんです。
── お互いのバンドを見て羨ましいと思うところってどんなところですか?
鎌野:楽しそうですよね。ライブでは一体感が生まれているし、絶対に盛り上がれるじゃないですか。目に見えて踊ってる感じというのは羨ましいです。私たちの曲は、目に見えて盛り上がるというよりは、それぞれが心の中で踊っているという感じだと思いますから。
金子:ハイスイノナサはバランスが面白いと思います。楽曲は構築的だし、演奏自体も上手いし、すごいなと思っているところで、あの下ネタを交えたMCでガラッと雰囲気を変えるのは憎いなって思います。ヒドイMCだと思ったけど(笑)。あれは天然なのか、狙って言ってるのかどっち?
中村:それはナイショ。
阿部:そこがナイショか(笑)。
鎌野:照井くんは曲のことよりも、ライブ前はMCのことばかり考えてるよね(笑)。それなのに、MCが決まらなかった時のあの焦りようって言ったらね。
中村:僕はとりあえず笑っておこうって思うんだけどね。
金子:MC以外だと、ハイスイノナサは自分たちの活動ペースをちゃんと保てているのが良いなって思います。いろんな事情があるとは思いますけど、ライブをガツガツやるわけでもなくて、ライブの期間と制作期間を自分たちのペースで作っているじゃないですか。僕らぐらいの年のバンドでそんなにちゃんとできるものではないと思うから、しっかりしているなって思います。
── AFRICAEMOから見て、ハイスイノナサのような女性の声が欲しくなったりしないですか?
阿部:それは常々思っています。3ヶ月に1回ぐらいは絶対に言ってますよ、女性コーラスが欲しいって。
金子:ファンキーな曲ができると、黒人女性コーラスが欲しいという話によくなるんです。これまでだと候補に出てくるのがtexas pandaaのお2人でしたけど、鎌野さんにもぜひお願いしたいですね。
阿部:僕らの曲は歌いやすいと思うよ。
金子:あまり変拍子とかないし。
中村:でも、あんまり楽しそうにしているところを見たら俺らが落ち込むかもしれないな(苦笑)。
金子:残響の中でもperfect piano lessonとtexas pandaaとか、一緒にやってるバンドっていますよね。ああいうコラボレーションって羨ましいなって思ってましたから。
鎌野:ぜひ。いつでも気軽に呼んで下さい。私も髪の毛を振り乱して歌ってみたいです。