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INTERVIEW

トップインタビューキノコホテル('10年8月号)

『マリアンヌの休日』という名の夏の宿泊プラン

2010.07.20

方向性が広がりつつある片鱗を見せた『山猫の唄』

──『恋はふりむかない』は往時の和田アキ子さんを彷彿とさせる重厚なリズム&ブルース・ナンバーですね。

鴨川:「ハッ!」っていうシャウトもあるし(笑)。

東雲:元々はそういうテイストの曲ではなかったんだけど、アレンジをした時にソウルフルな路線を狙った感は多少あるわね。原曲はもっと淡々としていて、聴かせても仕方ないからエマとファビエンヌには聴かせていないのよ。まるで印象に残らないし、こんなGSじゃ「そりゃ売れないわ」っていう感じだから。

──そんなしょぼい原曲をここまで聴かせるナンバーとして昇華させているわけですから、皆さんの技量とセンスが凄まじく高いことを証明していますよね。

東雲:まぁ、そういうことになるわね。原曲を参考にするような部分もなかったし、『恋はふりむかない』は今回の収録曲の中でも相当化けてかなりいい曲になったと思うわ。原曲の曲自体はいいんだけど、アレンジが完全にやっつけ仕事で冴えない感じがしたから。

──『謎の女B』はエマさんのベースがとりわけいい音の鳴りをしていますよね。スンズン腰にクるグルーヴィーさが心地好い。

東雲:『謎の女B』もリズムから作っていって、ああだこうだ言いながら試行錯誤したのよ。

猪苗代:最後の最後までリズムで苦戦した曲ですね。リズムしかないような淡々としたアレンジですから。凄い集中して叩いて、1テイク目で「私はこれでいいです」って言ったんですよ。この曲は何度も叩けないと思ったので。

鴨川:私はどの曲も重ねてますよ。多くて3回くらい。多分、全然気づかれないと思うけど。

東雲:まぁ、ギターは重ねる意味があるけど、リズムはテイクを重ねても大抵ドツボにハマるのがオチよね。

──『謎の女B』の原曲は、初代オバケのQ太郎の声優として知られる曽我町子さんが唄っていたんですね。僕らの世代は『電子戦隊デンジマン』に出てくる悪役・ヘドリアン女王のイメージが強くて、それも含めて支配人にピッタリだなと思ったんですよ(笑)。

鴨川:デンジマン? ヘドリアン? 全然知らない。

──でしょうね(笑)。しかし、この歌の歌詞も凄いですよね。のっけから「謎の女(B)僕をAとする/AとBがある夜会った暗いある酒場」ですから。AとBに設定する意味がまるで判らない(笑)。

東雲:歌詞はくっだらないわよね。どうでもいいことをもっともらしく唄っているという。でも、そんなチープさが愛おしかったりもするの。嫌いじゃないわ、そういう感じ。

──書こうと思ってもなかなか書けない歌詞ではありますよね。

東雲:そう。意味のない歌詞を上手く成立させるのって意外と難しいものなの。当時の歌謡曲をあまり意識しないようにはしているけど、触発される部分がやっぱりあるわよね。くだらない歌から正統派な歌まで、歌詞も曲もそれなりにクオリティが高いのは確かよ。やっつけ仕事も確かにあるけど、プロの作詞家なり作曲家がある程度のレヴェルまで持っていっているから。少なくとも昨今のJ-POPに比べていい仕事をしているし、そういう感覚を自分も持ち続けていたいとは思うわね。

──キノコホテルが只者ではないと改めて感じたのは、最後の『山猫の唄』なんですよ。ラウンジ風情で始まったと思いきや、最後はプログレ顔負けの怒濤のアンサンブルで幕を閉じるという。

東雲:プログレだの何だのはワタクシにとってはどうでも良くて、ああいう激しいインプロヴィゼーションがやりたかっただけなの。最近のキノコホテルはあの手のアレンジが好きで、やたらと尺が長いサイケデリックな曲をオリジナルでやったりもしているの。方向性が広がりつつある過渡期にあるのかしらね。その片鱗を見せる曲があってもいいかなと思ったわけ。『山猫〜』は元々あんなふうに展開する曲じゃないんだけど、思いつきでああいうアレンジにしてみたのよ。

──今はジャム・セッションっぽい曲が増えつつあると?

東雲:そういう曲ばかりじゃないんだけど、インプロヴィゼーションみたいな曲をずっとやりたいと思っていたの。30分通して、ワタクシは一切唄わなくてもいいとすら思っているくらい。まぁ、観衆がそれを見てどう感じるのかは判らないけれど。



海外で消息不明になって伝説のバンドに!?

──なるほど。次のオリジナル作品を予見する橋渡し的なニュアンスも本作には込められているわけですね。

東雲:次なる作品をどういう方向性にするかはまだ決めていないんだけど、『マリアンヌの憂鬱』からいきなり次の作品に行くよりも、『マリアンヌの休日』みたいな作品を挟むことでキノコホテルの多面性を出したほうがいいと思ったわけ。ワン・クッション置く意味でも、こういうタイミングで『マリアンヌの休日』を出すのは結果的にいい流れだなと思って。

──本作のようなカヴァー・アルバムならぬ“昇華アルバム”は今後も是非発表し続けて頂きたいですね。まだまだレパートリーはふんだんにあるでしょうし。

東雲:ご期待に添えたいわね。カヴァーはこれからも新しいのをやっていくと思うので。ただ、それを作品として昇華する時にオリジナルと混ぜたくはないのよ。こうやって時々『マリアンヌの休日』みたいな作品をオリジナルの間に発表していくのは、ひとつのスタイルとして悪くないのかもしれないわ。

──現段階で出来つつある新曲は、やはりスペイシーでサイケデリックな類のものが多いんですか。

東雲:そうでもないです。どんなふうに整備していこうかとワタクシの頭の中で考えあぐねているところなの。

──支配人の脳内の設計図がまとまらなければ、従業員の皆さんも動きようがないですね。

鴨川:そうですね。歌がないと、私が一番動きようがない。

──じゃあ、支配人には早々にバカンスを切り上げて頂かないと(笑)。

東雲:切り上げるも何も、まだ何処にも行ってないわよ! 嗚呼、バカンスが恋しいわ…。

──追い打ちを掛けるようで申し訳ないですが、ミニ・アルバムが続いているので、ぼちぼちフル・レングスのアルバムが聴きたいところですけど。

東雲:ワタクシも聴きたくてよ。『マリアンヌの憂鬱』はその時点であった曲、実演会でやり慣れた曲を詰め込んだけど、その次の作品はそれなりの進化を見せつけたいと思うし、今はその進化をどう形にするかをじっくりと考えているところよ。

猪苗代:同じことばかり続けていると煮詰まるので、実演会でもちょっとアレンジを変えたりしているんですよ。既発の曲でも少しずつ更新していると言うか。

──でも、あまり変えすぎると後で支配人からヤキを入れられそうですけどね(笑)。

小湊:まぁ、そうですね(笑)。

猪苗代:「このパートは私なりに変化を試しているので、ダメならダメと言って下さい」とは言ってるんですよ。

東雲:試したいのなら「どうぞやってごらんなさいよ」って言うけれど、気に入らなければハッキリと「イヤだ」って言うわよ。格好良く変えてくれるのなら全然構わないわ。

──秋にはドイツ・ベルリン〜ポーランド・ワルシャワという海外での実演会も予定されていますが、これは遅延となっている支配人のバカンスを兼ねたものなんですか。

東雲:そんなところね。でも、せっかくのワタクシのバカンスにこの3人が付いてきちゃうんだからウンザリだわ。個人的に東ヨーロッパへ行きたいと思っていたのに、周りの狡賢い大人たちの策略でツアーにされてしまったのよ。バカンスに重たい楽器を持っていかなければならないなんて、エラく不本意よ。

──敢えて東ヨーロッパを訪れる日本のバンドも珍しいですよね。

東雲:スターリンがやっていたわよ。ベルリン〜ワルシャワっていうコースで回ったことがあったわね。

──スターリン、キノコホテルとはコケシ繋がりですね(笑)。今はMySpaceもあることだし、異国の観衆も違和感なく受け入れてくれそうですけど。

東雲:どうなのかしらね。全くもって謎だわ。海外での実演会はこれが初めてなんだけど、果たして無事に帰ってこれるのかしら。そのまま消息不明なんてことになれば、伝説のバンドになれるかもしれないわ(笑)。あるいは、現地の殿方と恋に落ちて亡命するのも悪くないわね(笑)。

──その恋を肥やしにして、またいい歌を聴かせてくれるのなら大歓迎ですけど(笑)。

東雲:ドイツ語の歌なんて、『ジンギスカン』くらいしか知らないけどね(笑)。

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マリアンヌの休日

WAX RECORDS/徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-73550
2,100yen (tax in)
2010.8.04 IN STORES

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01. 真夜中のエンジェル・ベイビー(作詞:橋本淳/作曲:筒美京平)
02. ピーコック・ベイビー(作詞:東大寺千弘/作曲:小林亜星)
03. 恋は気分(作詞:なかにし礼/作曲:井上忠夫)
04. 恋はふりむかない(作詞:阿久悠/作曲:三木たかし)
05. 謎の女B(作詞/作曲:平岡精二)
06. 山猫の唄(作詞/作曲:TEN LITTLE INDIANS)
*映像作品『真夜中のエンジェル・ベイビー』収録(CD-EXTRA仕様)
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LIVE INFOライブ情報

8月1日(日)名古屋得三[単独公演]
8月13日(金)RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO
8月19日(木)下北沢CLUB Que[with:KING BROTHERS]
8月22日(日)大阪Shangri-La
9月5日(日)下北沢CLUB Que[黒沢 進トリビュート]

サロン・ド・キノコ〜秋の人間狩り〜
10月3日(日)大阪 心斎橋CLUB QUATTRO[単独公演]
10月9日(土)新宿LOFT[単独公演]
10月17日(日)名古屋CLUB QUATTRO[単独公演]

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