生温いメジャー・シーンを震撼させた衝撃のデビュー・アルバム『マリアンヌの憂鬱』から早半年、そのポップで過激で中毒性の高い大衆音楽を拠り所として昇竜の勢いを続けるキノコホテルが『マリアンヌの休日』と題したアルバムを発表する。収録された全6曲は、橋本淳&筒美京平、小林亜星、阿久悠&三木たかし、なかにし礼&井上大輔(忠夫)、平岡精二といった名だたるヒットメーカーたちが残したマニアックかつカルトなナンバーばかり。マリアンヌ東雲が半裸で浜辺に寝そべり真夏のバカンスを享受しているジャケットが示す通り、彼女の作詞・作曲活動はひと休みという体で1967年から1975年にかけて発表された名(迷)曲の数々をキノコホテル流に昇華させた作品集である。「なんだ、単なるカヴァー・アルバムか」と侮ることなかれ。人知れず世に埋もれた楽曲を見いだす慧眼、オリジナルと見紛うばかりの卓越したアレンジ・センス、そして見巧者を唸らせる歌唱と演奏。そのどれを取っても絶品であり、他人の楽曲でもキノコホテルの本質を余すところなく体現している辺り、やはり只者ではない。『マリアンヌの休日』という名の夏の宿泊プラン、満室になることは必至なのでご予約はどうぞお早めに。(interview:椎名宗之)
カヴァーとオリジナルの境界線が薄いアルバム
──最近の皆さんはメディアの露出が激しいので、質問が重複してしまうかもしれませんがご容赦下さい。
マリアンヌ東雲:バンド名の由来とか訊かないでよ。もう二度と答えないから。
──さすがにそれは(笑)。でも、実際どうですか。今年の2月に衝撃のメジャー・デビューを果たして以降、尋常ならざる注目を集めるようになって、周囲を取り巻く環境も大きく変化したと思うんですが。
東雲:全く変わらないわね。こんなにも変わらないものなの!? ってくらい変わらない。むしろ、どんどん人から距離を置かれるようになったわ。
イザベル=ケメ鴨川:友達は減る一方ですよ。
東雲:「どうせ忙しいんだろうし」みたいに言われて、ふて腐れて家で酒を呑んでばかりいるわよ。
──実演会での観衆の反応が過熱気味になったりとかは?
東雲:何も変わらないわね。この間の大阪城野音の時みたいに、雨の中をステージ前まですっ飛んでいってゴロゴロ寝転んだりしないと観衆は沸きません。関西は割とウケがいいんだけど、関東の観衆は相変わらずお地蔵さんのよう。
──ただ、今月は“RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO”という野外の大舞台も控えているし、着実にステイタスを高めているじゃないですか。
東雲:野外と言っても、“CRYSTAL PALACE”っていうサーカス小屋みたいな特設テントでやるのよ。テントだなんて、暴れまくっていたらすぐに壊れちゃいそうでワタクシとしては心配だわ。
──何だかのっけから後ろ向きな話ばかりですけど(笑)。劇的な変化を天狗になって饒舌に語る支配人を期待しておりましたのに。
東雲:この先、変わる予感もないわね。どうなの、その辺? 実は裏でエマが美味しい思いをしていたりするわけ?
エマニュエル小湊:いや、環境は全然変わってないですね。励ましのお便りも増えるどころか減る一方ですから。
東雲:強いて変化を挙げるなら、単独の実演会をやると酒の差し入れが増えたくらいね。ただ、「持ち帰る身にもなってみなさいよ!」ってくらいに重い一升瓶がやたらと増えたのが困る(笑)。まぁ、有り難いことではあるけどね。
ファビエンヌ猪苗代:私は、お酒ばかりでお菓子が減ったことが悲しいです…。
東雲:お菓子なんて、ワタクシが所望していないから要らない。ワタクシは楽屋に自分の嫌いなものが差し入れてあると不機嫌になるの。
──この際、この誌面を通じて差し入れて欲しいものを挙げておいたほうがいいんじゃないですか?
東雲:じゃあ、現金と書いておいて。それが一番話が早いわ。
──かしこまりました(笑)。で、この度発表となるセカンド・ミニ・アルバム『マリアンヌの休日』についてお伺いしたいのですが、支配人の作詞・作曲活動がお休みということで命名されたタイトルだそうで。
東雲:そういうことです。あまりの多忙さに堪えられなくて、フラッと海外へ一人旅をしようと思っていたのよ。だけど、「次のアルバムまで間があるから何か出しませんか?」とレコード会社から言われて。ワタクシはとにかく休みたかったし、最初は全然乗り気じゃなかったわけ。そこを「カヴァー・アルバムなら大急ぎで曲を作る必要もないじゃないですか」と説得されて、渋々了解したの。ワタクシの休日っていう体で好きなようにやっていいのなら、やってあげてもいいわよ、と。
──選曲はどれもマニアックでカルトだし、カヴァー・アルバムと聞かされていなければキノコホテルのオリジナルだと思うでしょうね。
東雲:そうかもしれないわね。最近はカヴァー・アルバムが流行っているけれど、その手のアルバムは大抵誰もが知っている有名な曲を選ぶじゃない? 『マリアンヌの休日』はそういう方向性からして違うし、収録した6曲とも知らない人のほうが世間では圧倒的に多いわけで、カヴァーとオリジナルの境界線が薄い稀有なアルバムだと言えるんじゃないかしら。