久々に次世代を担うポテンシャルに満ちた気鋭のバンドと巡り会うことができた。その名はSEBASTIAN X。2008年2月に結成された男女4人編成のギターレス・バンドだ。表層的には明朗快活、誰しもが親しめる大衆性を全面に押し出した彩り豊かな音楽を奏でているが、歌の世界観は闇と病みにどっぷりと浸かった者だけが体現し得る人生讃歌と言うべきものである。ただ闇雲に明るくハッピーに行こうという安直なポップ・ソングではなく、表現の発露がネガティヴな思考や感情なのが信用できる。日常を生きる中でドン詰まりの絶望を感じることもなければ、明日への希望を盲信するわけでもない僕らにとって、彼らの歌はヒリヒリするほどにリアルだ。その生々しさをトロピカルな音色で甘味加工する手腕も見事だ。歌の世界観を構築するヴォーカルの永原真夏、音作りのネゴシエーターであるドラムの沖山良太にSEBASTIAN Xの特異性について大いに語って頂こう。(interview:椎名宗之)
できる限り明るいことを唄い続けたい
──前作から僅か9ヶ月で今回発表となる『僕らのファンタジー』を完成させたということは、今は新曲が湯水の如く生まれている状態なんでしょうか。
永原:いや、全然そんなことないですよ(笑)。発売時期に合わせるように、搾りに搾って作り出した感じです。
──音の抜けがだいぶ良くなったことが前作との大きな相違点のひとつだと思うんですが、やはり音質の改善は今回の課題点でした?
永原:録りに関しては、今まで何も知らずに不慣れだったんですよ。バンド以外のスタッフの方と上手く意思疎通が図れなかったこともあったし。今回のセカンドは、その歯車がちょっとずつ噛み合ってきた気がします。
──『ワンダフル・ワールド』の前に録ったちゃんとした作品は、自主制作盤の『LIFE VS LIFE』だけですか。
沖山:そうですね。まぁ、ちゃんとはしてなかったですけど(笑)。レコーディングからミックスまで、何から何まで全部自分たちでやったので。ノウハウもなく、完全にDIYで作ったんですよ。
──結成から2年でここまでの躍進を続けているのだから、かなり順調な足取りと言えますよね。
永原:でも、この同じ顔触れでもう5年もバンドをやってますから、歩みは遅いほうだと思うんですよね。SEBASTIAN Xを始めてからは2年になるんですけど、それまで3つくらいバンドをやってたんです。ギターがいたりいなかったり、それぞれのパートが違ったりしてたんですよ。
──最初は今と全く異なる音楽性だったんですか。
沖山:全然違いましたね。最初は、今キーボードを弾いてる(工藤)歩里とまなっちゃんがツイン・ヴォーカルのコピー・バンドだったんですよ。
永原:まだピチピチの17歳だった頃で(笑)。
沖山:そのサポートとしてベースの飯田(裕)君と僕が入ったのが発端だったんです。それ以降、激しい感じのバンドになったりして。
──どんな経緯で今のような賑々しい多国籍音楽風情になったんですか。
沖山:ワールド・ミュージックにもの凄く詳しいわけでもないし、狙って多国籍っぽい音楽をやるようになったわけでもないんです。自分たちが面白く感じるヴァリエーションを出していったら自然とこんなふうになった感じですね。一個前にやってたバンドは歌モノの曲もあったんですけど、ちょっとハードコアっぽい感じもあったんですよ。唄わずにシャウトするのみ、みたいな(笑)。
永原:言葉の羅列だけで1曲終わるっていう(笑)。
沖山:マシンガン・トークならぬマシンガン・ヴォーカル(笑)。飯田君もベースを弾かなかったり、歩里もピアノを連打しかしなかったりもあったりで(笑)。
──今からはとても想像できませんけど(笑)。と言うことは、音楽的な視野がだいぶ広がったわけですね。
永原:プレイするという意味ではかなり広がりましたね。
──メッセージ色の強い歌詞が増えたりもして。
永原:メッセージ云々はそんなに意識してないんですけど、説得力があるとはよく言われますね。
──カラフルな音色と相反するように、ネガティヴな感情を出発点とした歌詞が多いじゃないですか。アイリッシュな匂いのする人間讃歌『フェスティバル』は"明日死んだらどうしよう"、ホーンを従えた力強いラヴ・ソングの『世界の果てまで連れてって!』は"今日もなんだか苦しいね"というマイナスなフレーズでいきなり始まりますよね。
沖山:確かに、出だしはどっちも暗いですね(笑)。
──だから、ただ闇雲に明るくハッピーなわけじゃなくて、ちゃんと痛みを知った人間が唱える明るさなんだなと思って。
永原:言葉はできる限り明るく書こうと思ってるんですよね。前身バンドの時は陰の部分を全開にしていて、それに凄く嫌気が差しちゃったんですよ。自分は何でこんなに暗い気持ちになって、暗い歌ばかりを唄ってるんだろう? と思って。当時はそういう負のループが凄くて、しかもそれに他人を巻き込むことはしたくないなと。だから、このバンドでは頑張ってできる限り明るいことを唄い続けようと思ってるんです。
声を大にしてラヴ・ソングを唄う意図
──前のバンドの反動が大きいわけですね。
永原:めっちゃデカいですね(笑)。その反動で今はやってます。
沖山:ヴォーカル以外もその反動はかなりデカいんですよ。当時はギターもいたので、その兼ね合いで歩里も自由に弾きたいスタイルで弾けなかっただろうし。飯田君もちゃんとベースを弾きたかったみたいだし、僕も速いドラムを叩くのが疲れちゃったんです(笑)。
──何だかバンドの黒歴史を聞いているみたいですが(笑)。
永原:ピアノもベースもドラムもちゃんと自由に演奏できて、私も自由に唄いたいことが唄えていれば、激しい音楽で陰の部分が強いままでも良かったんですよ。当時は20000Vでよくライヴをやっていて、あそこにはハードコア系の格好いいバンドがいっぱいいたじゃないですか。そういう人たちを目の当たりにして、同じことは自分たちにできないと思ったんですよね。ハードコアはめっちゃ速いから凄い練習も必要だし、ストイックな人にしかできないと思うし。それで、自分がもっとストイックになれる音楽が違うところにあるんじゃないかな? と思って模索して、辿り着いたのが今の音楽なんですよね。
──ピアノとギターは本来噛み合いづらいものだし、ギターレスになったぶんピアノの自由度が増したのは今回のミニ・アルバムを聴いてもよく判ります。
永原:ギターレスってことをよく言われるんですけど、ギターのいないバンドって意外といるし、割とスタンダードなのかなって思うんですよね。
──ギターがない代わりに、いろんな楽器をアクセントとして組み込みやすいじゃないですか。『フェスティバル』のアコーディオン、『世界の果てまで連れてって!』のホーン、『夏の王様』のヴァイオリン、『GOODMORNING ORCHESTRA』のスティールパンと、今回は多種多様の音が楽曲ごとに導入されていますし。
永原:以前に比べて、音の組み合わせはかなりしやすくなりましたね。
沖山:『GOODMORNING ORCHESTRA』は、最初スティールパンを入れない方向で考えていたんですけど、+αの部分で何か入れたくなったんですよ。それでたまたまスティールパンを思い付いて、パノラマ・スティール・オーケストラの方の協力を仰いだんです。お陰でいい感じに仕上がりました。
──リード・トラックの『世界の果てまで連れてって!』はラヴ・ソングの体裁を取りながらも、"友情と文化とユーモアで 太陽迎えにいこう"という普遍的なメッセージが込められた逸曲ですね。
永原:アンダーグラウンド・シーンはJ-POPに対するアンチテーゼみたいなものが強いじゃないですか。アンダーグラウンドに身を置いているのにラヴ・ソングをテーマにするのは格好悪いことだとされてるし。愛だの恋だの唄ってる場合じゃねぇだろ!? みたいな(笑)。でも、だからこそ声を大にしてラヴ・ソングを唄いたいんですよ。格好悪いことだと思われてることに対するアンチテーゼなんです。
──ノリの良いアッパーな曲ばかりではなく、『ハムレット』や『永遠のラスト・ワルツ』のようなじっくりと聴かせるバラードもまたいい出来ですね。
永原:アッパー系と聴かせる系をいいバランスで入れたかったんですよね。その中間にある曲は排除して、二極化を図ったと言うか。結果的にバンドの特性がよく出せた気がします。
──『サファイアに告ぐ』の中で"次は僕らの時代だ"と上の世代に向けて堂々と闘争宣言をしているのが威勢いいなと思って。久々に新しい時代を切り拓いてくれる若いバンドが出てきたなと感じたんですよ。
永原:旧態然とした世界に新たに斬り込んでいきたい気持ちもあります。いろんな気持ちがありますけど、そういう気持ちもありますね。