"普通"を取っ払えば面白い発想ができる
──秋には『RENT』というブロードウェイ・ミュージカルの日本版に出演することが決定していますし、新たなトライアルが続きますね。
T:ミュージカルは急遽出演が決まったんですよ。『RENT』はニューヨークのイーストヴィレッジを舞台にした物語で、映像作家のマークと元ロック・バンドのヴォーカルのロジャーという2人の主人公を軸に展開していくんです。ニューヨークだからいろんな人間が入り組んでいて、HIV患者、ゲイ、レズ、SMクラブのダンサーといった世間からはじき出された人間が登場するんですよ。僕が演じるエンジェルはゲイなんですけど、クリスマス・パーティーを盛り上げるために女装をするんです。ドラァグクイーンの格好をしてみんなをハッピーにさせる愛すべきキャラクターで、台本を読むと、物語が進行する上で割と重要な役なんですよね。
──稽古はもう始まっているんですか。
T:厳密にはまだで、ダンス・レッスンを福士誠治君と一緒にやった程度です。8月のAXでのライヴ以降、本格的に始動する感じになりそうですね。
──お芝居は初めての経験ですよね?
T:そうですね。ただ、『明日への階段』の歌詞に煮詰まっていた時にミュージカルの出演が決まったことが象徴的だなと思ったんですよ。スタッフの方とお会いして、3日後に帝国劇場まで唄いに来てくれと言われたんです。それまでに3曲を覚えてきてくれと唐突に言われて(笑)。僕が唄っている姿を映像に収めて、ニューヨークに住む演出家のエリカ・シュミットさんに送るということで。その結果、「是非彼で行きたい」と返事が来たそうなんです。
──一応、ちゃんとしたオーディションがあったわけですね。
T:自分の歌を評価してもらえるのは幸せなことだし、これも何かの縁かなと思ったんですよね。あと、女装したりメイクしたりするのが単純に面白いなと。自分のライヴ・パフォーマンスには演出もないし、振り付け師もいないし、舞台監督はいるけど流れは僕自身が作るし、舞台とは真逆なんですよね。舞台には演出も振り付けもあるし、ステップも決まっている。70公演全部、全く同じ動きをしなければならない。誰かに指示を受けて動く自分が最終的にどういう結果をもたらすのかが面白いと思ったし、自分じゃない役を演じることによってその役がどう活きるかを学べるいい機会だと思ったんですよね。これがたとえば「普段の卓偉君のまま演じて下さい」って言われたら、本来の自分とのギャップに苦しんだかもしれないです。でも、エンジェルは自分と極端に離れたキャラクター設定だったのが良かったんですよ。あと、これは僕のロック美学ですけど、KISSのポール・スタンレーが『オペラ座の怪人』で主人公のファントムを演じたことがあったじゃないですか。当時は僕も違和感がありましたけど、やっぱり抜群に歌が上手いし、ポール・スタンレーじゃなければできない役所なんですよね。狭いジャンルに収まるようなロックンローラーじゃないんだなと思ったし、素直に格好いいなと思えたんですよ。ポール・スタンレーのことを知らない観客もいたでしょうし、余程の実力がないと成し得ないことですよね。
──ミュージカルへのトライアルは、表現活動の中でのミクスチャーとも言えますね。
T:ホントに大変なことだし、凄まじい努力をしないと補えないことですけど、自分に跳ね返ってくるものは絶対に大きいと信じているんです。あと、ファンに対して自分をこれだけブチ壊していくのは最高なんだぜと伝えたい気持ちもあるんですよ。
──昨日までの自分をブチ壊して新たな自分を表現するのは中島卓偉の一貫したモットーですからね。
T:音楽以外の表現に取り組んでも、確たるポリシーさえ失わなければ格好いいと思うんです。ジョー・ストラマーだって『ミステリー・トレイン』でいい演技をしていますしね。「パンクの人間が俳優をやるなんて」みたいな非難もあったと思うんですけど、そんなの関係ないですよ。与えられたチャンスがある以上は精一杯やるのが筋だと思いますし。音楽とは無縁のことでも、最終的には音楽へとフィードバックして点と点が結ばれるものなんですよね。僕は歴史が好きなので、歴史番組のレポーターをやってもいいと思うくらいで(笑)。
──すべては音符の肥やしというわけですね。
T:映画を見るのも本を読むのも大好きなんですけど、それも結局は歌詞を書くためなんですよ。20代の頃はミュージシャン畑で音楽さえやれればいいと思っていたんですけど、今はその合間に遊び心に溢れた活動を組み込んでいきたいんですよね。理解のあるスタッフの協力があればどんなことでもできると今は思っているんです。ヘンなこだわりは取っ払いたいし、"普通"とか"アヴェレージ"と言われる考え方をなるべく排除したい。人間っておかしなもので、「普通さぁ...」ってうっかり口にするんですよね。"普通"を取っ払えば面白い発想ができるし、もっと昂揚できる何かが生まれるんです。まだまだスウィングしたいし、そのためにもありふれた発想はブチ壊していきたいですね。