Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー中島卓偉('10年7月号)

それでも“明日への階段”を登り続ける頑強な意志、
破壊と創造を繰り返すイノヴェーターの強靱な覚悟

2010.06.22

卓偉流"二八そばの論理"について

──ひとつのジャンルに固執する人はしたり顔でうんちくを語りたがりますけど、卓偉さんはあらゆるジャンルに精通しているのに声高に語ることがないし、楽曲の中に様々な音楽的要素をさり気なく盛り込むのがいつも粋だなと思うんですよ。

T:人類皆兄弟という言葉があるように、どの音楽も皆どこかで繋がっているし、僕には今のスタイルがごく自然なんです。この間、東京タワーでラジオの公開生放送をやったんですけど、その時にファッションのテーマを訊かれたんです。全身黒ずくめだったので「ジョニー・キャッシュです」と答えたんですけど、「何ですか、それ?」って怪訝な顔をする人もいて。判らないのは全然構わないんですけど、理解不能なことに対してすぐに壁を作ってしまうのは残念だなと。アコースティック・ライヴで必ず3コードのロックンロールをカヴァーするのも、「こういう音楽もあるんだよ」と聴く人の間口を広げたいからなんですよ。でも、そこで「ジョニー・キャッシュっていうのはさぁ...」と語り始めたら説教っぽくなってしまう。音楽の知識をあまりにひけらかすとトゥー・マッチになるし、そういう野暮なことは言いません。自分の曲を必要以上に説明しすぎるのも良くないと思っているんです。「どういうふうに作ったんですか?」と訊かれたら、「鼻歌まじりにササッと作りました」くらいに答えたいんですよね。

──ポール・マッカートニーもそんな感じですよね。「夢の中で浮かんだメロディを書いただけ」とか。

T:苦労は表に出さないけど、相当な努力をしているはずですよね。でも、表向きは平然としているのが格好いい。

──今回のシングルはどの曲もギターの鳴りがすこぶるいいなと思いきや、トライセラトップスの和田唱さんから借りたレスポールを使ったそうですね。

T:そうなんですよ。和田さんとは3年くらい前にラジオにゲストで出てもらってから交流がありまして。『すてちまえよ』のイメージが最初からレスポールだったんですけど、僕が持っているのはレスポール・スペシャルっていうジュニアとカスタムの間のもので、和田さんが持っているレスポール・スタンダードの太い音が欲しかったんですよね。それでダメ元で貸してくれませんかとお願いしたら、わざわざ倉庫まで取りに行ってくれたんです。しかも、何本か弾き比べて「これが合ってると思うよ」と選んでくれたんですよ。おまけに、レスポールを返しに行った時に「次のレコーディングでも使っていいから、持ってなよ」とまで言ってくれて、ホントに有り難かったですね。和田さんも物事の本質にこだわっている人で、判っている人にしか説明しないタイプなんですよ。レスポールの良さを知り抜いているから、選んでもらったスタンダードで弾いてみたら曲にピッタリだったんです。

──和田さんのさり気ない優しさ、粋ですね。

T:和田さんのお陰でいいアレンジになったし、いいレコーディングになりましたね。和田さんの魂でギターを弾けたところもあるし、凄く勉強になりました。

──疾走感のあるビートの効いた『再会』は、疎遠になった友達に会いに行けよと働き掛けるハート・ウォーミングな歌詞が秀逸ですね。

T:ずっと温めていたテーマで、やっと書き上げることができたんです。ビートルズで言えば『シー・ラヴズ・ユー』みたいな3人称の歌詞を書きたかったんですよ。今まで1対1のラヴ・ソングや友情の歌は書いてきたんですけど、1人はそこにいない設定で書いてみようと思って、自分が2人の間に入って励ます歌詞にしたんです。この手の歌詞はバラードになることが多いんですけど、敢えてパンキッシュなビートに乗せて唄おうと思って。

──それもまた卓偉さんなりのミクスチャー感覚ですね。

T:ここ数年、『ROOKIES』や『クローズZERO』といった不良映画がヒットしているじゃないですか。僕らが子供の頃は『ビー・バップ・ハイスクール』が流行っていましたけど。ああいう男同士の友情を描いた物語は普遍性があるんだろうし、いつの時代も心に響くんですよね。人間は決して独りじゃ生きていけないし、30を過ぎて他力の重要性を痛感しているんですよ。若いうちは120%自分でやり繰りしないと一人前じゃないんじゃないか? と自問自答していたし、全部を自分の手柄にしないと他人から評価されないと考えていたんです。でも、それは違うなと。そのいい例が二八そばなんですよ。

──そば粉8割、小麦粉2割で作るそばですね。

T:僕はそば粉10割の十割そばよりも二八そばのほうが美味しく感じるんです。十割そばは歯応えがキツイし、うどん粉を食べてる感じがする。そばの本を読むと、通は十割そばが一番らしいんですけど、一般大衆には二八そばが一番好まれているそうなんです。そば粉が8割で、あとの2割を小麦粉に頼るからこそ美味しいそばになるという論理は、どんなことにも当てはまると思うんですよね。



人間の不完全さはチャーミングに繋がる

──なるほど。その思考からもあくまで大衆性を追求する卓偉さんの姿勢が窺えますね。

T:20代の半ばくらいまでは、そば粉が10割じゃないとダメだったんですけどね。10割の表現で何が悪いんだ!? くらいに思っていましたし。でも、腹八分目という言葉もあるじゃないですか。全部を表現し切らずに、わざと歪なところで終わらせて人に投げ掛けることが大事なんですよ。10割出し切ると、それ以上入り込む余地もないし、料理のしようがない。それは取っ付きづらい表現になるんです。

──さっきの話で言えば、20代半ばまでの卓偉さんなら『風穴メモリー』にホーン・セクションを足したりもしていたかもしれませんね。

T:そうですね。昔は足し算の論理でしたから。でも、人間の不完全さはチャーミングに繋がると思うし、適当なところで筆を置くのが今はいいと思えるんですよ。完璧な小説や完璧な映画で好きなものもあるんですけど、ちょっとボロが出たくらいのほうが面白いんですよね。

──自分にも身に覚えがありますが、ズッコケた自分を許せるようになるのは30歳を超えてからですよね。

T:10代、20代の時はとにかく精一杯ですからね。余裕をかます暇は一切なかったですし。少なからず経験を積んでいって、物事の楽しみ方を理解するようになったということですかね。頼み事をしたほうがその人とより近い距離になれるし、みんなと一緒に曲を磨き上げていくほうが今は楽しいんですよ。昔は自分の仕事に反映できないものにはまるで無関心で、自分で勝手に物事をカテゴライズしていたんですよね。でも、二八そばの論理を身に付けてからは、目に映るあらゆる物事が音楽に反映するなと思って。

──聴き手が楽曲に思いを託す糊代を作れるようになったわけですね。

T:最近は曲作りの途中でわざと違うことをやって、気を紛らわすようになったんですよ。途中で本を読んだり、映画を見たり。気を紛らわすことがいいテンションで曲作りにフィードバックされるんです。あと、頭でっかちの人のことを放っておけなくなると言うか。スタッフにそういう人がいると、気を緩めさせて「一緒にやろうぜ!」と発破を掛ける。最終的にそれがいい気として自分に跳ね返ってくるんですよ。

──『再会』のサビはベーシストの牧田拓磨さんとのツイン・ヴォーカルになっていますが、これも二八そばの論理に基づく卓偉さんの采配なんでしょうね。

T:彼はソロで唄っているし、一緒にやるならそういうコラボレーション的なことをやったほうが面白いと思ったんですよ。『再会』は随分前からあった曲なんですけど、彼の歌のお陰で新たに曲が生まれ変わったんです。

──こうして収録曲を見ていくと、際限まで作り込むレコーディングと衝動で突っ走るライヴとの距離がだいぶ縮まったのを感じますね。

T:そうなんですよ。最終的にはオリジナル・アルバムがライヴ盤のようなところまで行きたいんですよね。

──ビートルズで言えば、『サージェント・ペパーズ〜』までのスタジオで緻密に音作りをしていた時期から"ホワイト・アルバム"のラフな作風に変化していったような感じですか。

T:"ホワイト・アルバム"を飛び越えて、今は"ゲット・バック・セッション"くらいまで行ってるかもしれないですね。

──それじゃ活動が停止しちゃいますよ(笑)。

T:確かに(笑)。この間、『レット・イット・ビー ネイキッド』を改めて聴き直したんですけど、凄くダイレクトな音で素晴らしかったですね。ポールがピアノを弾く時のジョンのベースがまたいいんですよ。歌心のある人が弾くとホントに格好いい。ダビングがされていないから、ジョージがバッキングからギター・ソロに移ると音が薄くなるんですけど、それすらも愛おしい。僕もあの水準に到達したいんですよ。

レコーディング技術の向上と弊害

──卓偉さんの志向も音楽性もどんどん"ネイキッド"になってきているんでしょうね。

T:まだこれでも飾ったところがあるんでしょうし、ヘンにこだわってしまう部分もあるんですよ。でも、今のパーマネント・バンドが今以上に上手く転がっていけば、ギター・ダビングは後回しにして最初から歌録りすることも可能なんだと思います。

──考えてみれば、『明日への階段』のストリングスはフィル・スペクター以上に真に迫る"ネイキッド"な質感ですね。

T:今の時代の弦はギラギラしすぎだし、60年代の泣きの弦が欲しかったんですよ。音もちょっとこもっている感じで。それで、狙ってがさついたミックスにしたんですよね。

──60年代のロックンロールは、チャンネルの数が少ないのに奥行きと広がりのある音なのが凄いですよね。

T:今は便利になりすぎて音の配置が綺麗にできるし、美しく整っているからこそ逆に気持ち良くないんだと思います。最近思うのは、「音がいい」って何だよ!? と。各パートの音が全部よく聴こえるのがいいミックスかと言えば全然違うし、便利すぎるのもどうかと思いますね。たとえば、唇の破裂音やブレス、ベースのピッキングが当たる音までを細かく録るレコーディングは、その狙い自体がおかしいんです。確かに50年代、60年代には息遣いが聴こえるレコーディングもありますけど、それは決して狙って録っていないからこそ凄いんであって、狙って録ったらそうはならないんですよ。それが僕の持論なんですよね。ありのままでいいんです。ありのままを録って、よく聴くと息遣いが聴こえる程度でちょうどいい。もちろんプロトゥールスも便利なんですけど、僕はMTRがあった時代と同じ録り方でやれますよ。多分、8チャンネルで行けると思います。ドラムのシンバルの数やアンプの数を入れたらチャンネルは増えていきますけど、ドラムは最悪4チャンネルで録れますから。

──マイキングはオーヴァーヘッド2本、キック、スネアで行けますよね。

T:最近はドラムにパンを振りたがるエンジニアが多いんですけど、僕が好きな60年代のレコードはパンなんて振られてないんですよ。ステレオはおろか、モノラルだったわけですから。

──フィル・スペクターの"BACK TO MONO"の精神は今こそ必要なのかもしれませんね。

T:音数が減れば、いずれモノラルで出すのもアリじゃないかと思うんです。モノラルの位相感も素晴らしいですから。幅ではなく、奥行きのある音作りを目指したいんですよ。

──やはりアナログ録音がベストなんでしょうか。

T:以前、リズムから何から全部をアナログで録ったことがあったんです。その時に思ったのは、プロトゥールスを使わなければなお良かったなと。せっかくアナログで録るなら潔くアレンジまで済ませて、歌詞も完璧に書き上げたところで録るのが一番合理的ですね。アナログはとにかく録り音がいいですよ、ドラムは特に。

──アナログ録音で、今回のシングルの延長線上にあるフル・アルバムを是非聴いてみたいですね。

T:今のところ、シングルをもう1枚作りたいと思っているんです。今回同様、勢いのある感じで。もっとシンプルにしていきたいし、ホントは一発録りをしたいくらいなんですよ。今回も一発録りにしたかったんですけど、初めて録る布陣だったから演奏が硬くなってしまうかなと思って。あと、細かいことを言えばマイクの本数が課題ですね。本数が多いからこそ配置が難しい。ミュージシャンは自分の音が聴こえないとストレスになるんです。僕はヴォーカリストだから、楽器は歌を支えているものであって欲しいんですよ。ドラムとベースは歌を立たせるようにリズムを刻んで欲しいし、ギターは歌に寄りそうように弾いて、歌のないところで食って掛かってきて欲しい。60年代のロックンロールはそういうパートの在り方だからこそ歌にパンチがあると思うんですよ。僕もそういうレコーディングが理想ですね。

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明日への階段

zetima EPCE-5716
1,500yen (tax in)
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01. 明日への階段
02. 風穴メモリー
03. すてちまえよ
04. 再会
05. 明日への階段 〜vocal off version〜
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LIVE INFOライブ情報

中島卓偉 LIVE 2010
120% TAKUI NAKAJIMA〜3時間一緒に唄えますか!?〜

2010年8月1日(日)SHIBUYA-AX
OPEN 16:00/START 17:00
チケット料金:4,500円(税込・ドリンク代別途500円)/全自由(整理番号付)/スタンディング/未就学児入場不可
*チケットは、電子チケットぴあ(Pコード:103-876)、ローソンチケット(Lコード:78132)、e+にて7月3日(土)に一般発売。
musicians Guitar:生熊耕治/Bass:牧田拓磨/Drums:石井悠也
お問い合わせ:オデッセー 03-5444-6966

音霊 OTODAMA SEA STUDIO 2010
『波打ち際ROCK』

2010年7月20日(火)逗子海岸
OPEN 16:45/START 17:30
チケット料金:前売3,500円/当日4,000円(税込/ドリンク代別途500円/IDチェック有)
出演:Do As Infinity/中島卓偉/椎名慶治(ex.SURFACE)/Opening act:LOVE
お問い合わせ:OTODAMA 運営事務局 046-870-6040(11:00〜20:00)

ブロードウェイ・ミュージカル『RENT』
2010年10月7日(木)〜11月23日(火・祝)日比谷シアタークリエ
脚本・作詞・音楽:ジョナサン・ラーソン
訳詞:吉元由実/演出:エリカ・シュミット
*公演詳細は東宝のホームページをご参照下さい。
http://www.toho.co.jp/stage/

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