どのパートもリードになるのがte'の凄味
──今回、プレイの面で気に留めたのはどんなところですか。
h:"全曲、予測不能な方向へ行こう"っていうコンセプトはありましたね。それが面白おかしくやる自分のポジションですし、1曲1曲、何が飛び出してくるんだろう? っていうビックリ箱みたいなことをやりたかったんですよ。普通のギタリストならまずやらないだろうなと思う限りのビックリ箱を用意したつもりではいますね。
──確かに、どの楽曲にも巧妙なトラップが随所に仕掛けられていますよね。
h:一度聴いたらそのトラップの種も判ってしまうでしょうけど、"もう一度罠にハマッてみようかな?"と思える中毒性や面白味もあると思うんですよ。せっかく落とし穴を作るのであれば、ちょっと癖になる落とし穴を作りたかったんですよね。
──ヘッドフォンでよく聴き込まないと判らない落とし穴もありますからね。
h:それはいいダシが滲み出ているということでしょうね(笑)。
──4作目ともなれば、メンバー間の阿吽の呼吸が功を奏した部分も多かったんじゃないですか。
h:確かにそうなんですけど、それが僕にとってはつまらなくなるひとつの理由なのかな? とも最近思うんです。長年連れ添った夫婦や恋人のような信頼関係はありますけど、次の行動パターンが判りきってしまうと面白くなくなるんですよね。"そう来たか!"っていういい意味での裏切りや落とし穴が僕は欲しいんですよ。
──hiroさんのギターのte'における役割は鉄砲玉で、他の3人がその土台を支える強力なトリガーだという印象が個人的にはあるんですよ。火薬を発火させる火種が4人の熱量と言うか。
h:僕の中では他の3人が鉄壁とも土台とも思っていなくて、4人全員が土台ではなくソロだと思ってるんです。インスト・バンドが面白いのは、曲の場面ごとにリードが変わることなんですよ。歌モノでは絶対にあり得ないことですね。ドラムのキックを踏む弱さでメロディを刻んだり、ベースの角度やギターのアルペジオがリードになったりしますから。それが意識的にも無意識的にもte'はできている気がしますね。
──新鮮であるために、互いが互いを欺くようなアイディアの出し方が今回はあったんですか。
h:それがないとバンドは絶対に続けていけないですよね。"お前はやっぱりこう返してくれるんだな"っていう安心感は与えられても、それ以上のものを返してもらえないとバンドは成長しないし、刺激にもならないから絶対に浮気をすると思います。
──4人の中でhiroさんが一番飽きっぽい性格なんでしょうか。
h:僕は意外とテッパンですよ。音楽に関しては一途ですね。でも、一途な中にも必ずお遊びを入れたい性分なんです。
──ヴォーカル不在のバンドではありますが、hiroさんのギターを歌として捉えているとkonoさんが話していたのは凄く納得できたんですよね。
h:パッと聴きはそうなんですよ。言うなれば歌の部分に僕がギターを弾いてますから。でもさっきも言ったように、その瞬間でドラムやベースも唄ってるんですよ。そこがte'の凄味なんですよね。
──hiroさんの主導でアレンジが固まっていった楽曲は本作の中でありますか。
h:ないんじゃないですかね。僕は後乗せなので、みんなの出方を窺って弾くんですよ。それに対してみんなが寄ってくるパターンはありますけどね。
──各人が持ち寄ったパーツを合わせて1曲になることは少ないですか。
h:ほとんどないですね。全曲、○○っぽいのを作ろうっていうコンセプトだけを決めて、"せーの、ドン!"で音を合わせる感じなんです。雨の日に合った曲にしようとか、激しくて格好いい曲を作ろうとか、最初は凄い大雑把なんですよ。でも、それが意外とイメージが合ってたりするから面白いですね。ジャズのセッションとかだと、ドラムを叩き出して、ベースが入ってきて、ギターがコードを決めて、ピアノが入ってくる...っていう定まったパターンがありますけど、僕らの場合はあっちの方向に球を投げるからそれをみんなで取りに行こうぜっていう犬的な発想なんですよ(笑)。
"敢えて"王道なことをやる意図とは
──ありきたりなことをありきたりのままやらないのがte'のポリシーみたいなところはありますよね。
h:とは言え、王道は王道で大事にしたいんですよね。今回は特にそうでした。王道なことをやるのは、僕らの世代的には恥ずかしいことだったりするんですよ。ギターでユニゾンを弾くとか、凄い恥ずかしいんです。でも、それを敢えてやることによって僕らなりに格好良さも出せるだろうし、やっぱり王道は王道で当たり前にいいものなんですよね。今回のアルバム・タイトルに"敢えて"という言葉が使われているのは、そういう部分もあるんじゃないかと僕は思ってるんですよ。すべてが"敢えて"に繋がるんですよね。敢えて王道をやろう、敢えてこんな曲を作ろう、敢えてこの方向性で行こう...。"敢えて"がひとつのキーワードになっている気がします。
──ある種、禁じ手を破った一枚であると?
h:いや、破ってはいないと思うんですよね。まだまだ禁じ手も金字塔もあると思いますし(笑)。
──"敢えて"konoさんとふたりだけで奏でられた『瞼の裏に〜』は技量を問われる部分もあったんじゃないですか?
h:僕らに技量はないですよ。あの曲はkonoがレコーディング当日に持ってきて、「俺がこう弾くから、お前も考えて弾いてくれ」といきなり言われてその場で録った曲なんです(笑)。いろんな意味で強くなれた気がしますね(笑)。
──昔はそんなムチャ振りにはとても応えられなかったと?(笑)
h:そもそも僕は後からte'に加入したんですよ。まだ3ピースだった頃のte'を見て"何か惜しいな"と思ったので自ら志願してte'に入れてもらったんです。
──その"惜しいな"というのは?
h:3ピースとして完成していたバンドに僕がメロディを加えさせてもらったんです。それまでのte'はメロディが全くなくて、掴み所がなかったんですよ。そこが惜しかった。僕は歌モノが大好きなので、チャチャを入れさせてもらったんですね。まぁ、ただメロディを入れればいいってものじゃなくて、やっぱり細かい感情を注ぎ込むことが大事なんですよね。日本人独特の細やかな感情ってあるじゃないですか。海外の人ならきっぱり"No!"と言うけれど、日本人は"イヤだけどちょっと好き"みたいな細かいニュアンスがありますよね。
──確かに、白でもなく黒でもないグレー・ゾーンがありますね。
h:そう、まさにそのグレーです。そのグレーな感情を日本人らしく音に出したほうがいいと思ってte'をやってるんですよ。日本人らしく、自分たちらしく表現できればいいなって。
──後から加入しただけあって、hiroさんが一番te'を客観視できているんでしょうか。
h:それはもうないですね。僕とtachibanaが加入したのはホントに初期段階だったので、今は完全に主観でしかないです(笑)。
──日本人的な情緒を出すという部分では、本作が最も理想的な形で成し得ているように思えますが。
h:どうなんですかね。"今回は上手く行ったな"って毎回思うんですけど、日が経つにつれて次に頑張ろうと思う部分が必ず出てくるんですよ。一番悔しいのは同じような音になったり、安定を求められるようなことなんですよね。
──でも、手癖みたいなものはどうしても出てきてしまいますよね。
h:手癖は全員バリバリ出てますよ(笑)。引き出しも全然ないし、ない引き出しの中から"何かないかな?"ってあくせく探し出してるレベルです。でも、4人の力が融合して偶然生まれた面白いものが必ずあって、それが僕らにしかできないことなんでしょうね。各々が刺激を与え合って、ちょっとずつですけど成長もしていますし。
──hiroさんから見た3人の特性とはどんなところなんでしょう?
h:まず、tachibanaは僕が上京してから組んだバンドのドラマーなんですよ。当時所属していたレーベルの方に紹介してもらったんですけど。それ以来、あいつが20歳の時からずっと一緒のバンドをやってきてるから、もう阿吽の呼吸ですね。私生活も含めてすべてを判り合えていますし、その関係性だからこそ生まれるものもあるんじゃないかと思います。あいつは常に成長し続けてるし、"おッ、こう来たか!?"っていう刺激は凄いもらいますね。特にプレイ面で常に僕を刺激してくれる男だし、ピッチャーとキャッチャーの関係に近いのかもしれません。