9mm Parabellum Bulletという尋常ならざるエネルギーを放射するカルテットの中で菅原卓郎はバンドの顔役を張り、かみじょうちひろと中村和彦は刀の柄の部分となって屋台骨を支えている。では、滝 善充はただ天真爛漫にギターを操るだけなのか。もちろん答えは否だ。それどころか、大衆性と革新性がギリギリのせめぎ合いの末に極めて理想的なバランスで溶け合った9mmの楽曲がこれほどまでに支持されているのは、以前から作曲の大半を担っている滝の資質に負う部分が大きいのではないかと僕は見る。時にギターを弾くことすら放棄してステージ上で踊り狂うパフォーマンスを魅せる彼だが、このインタビューを読んでもらえれば判る通り、普段は至って穏やかな常識人である。この普通人としての感覚が恐らくは肝で、クセのあるカオティック・コアのような音楽的要素ですら滝の手に掛かるとポップ・ミュージックの絶妙なスパイスとして昇華するのだ。その驚異的なミクスチャー感覚の拠り所を探るべく、最新作『Revolutionary』の制作秘話を交えて話を訊いた。(interview:椎名宗之+やまだともこ)
一番のハプニングは雪山での遭難
──「最高のアルバムが出来た」と菅原さんもブログで書いていましたが、滝さんも同じ手応えですか。
滝:アルバムを作ってる時から手応えは感じてました。絶対手応えのあるものを作ろうと思ったし、手応えが出るまで頑張るぞ! みたいな。いいトラックばかりを録ろうというかなりの気概がありましたね。
──制作前から作品のヴィジョンはある程度見えていたんですか。
滝:1曲ごとに構想はありましたね。こんな感じにやって、あんな感じにやって、これくらい格好いいドラムとベースとギターが録れれば絶対に手応えが出るはずだというところまでは考えて取り掛かりました。
──中村さんに話を伺いましたが、かなりタイトなスケジュールの中でレコーディングに臨んだそうですね。
滝:けっこうパツパツで、今期は全く曲を作れなかったんですよ。『VAMPIRE』ツアーが終わった直後の去年の春くらいに合宿へ行って、そこでいろんな曲を作ったんですけど、今回のアルバムにはその合宿で作った8曲と昔に作った2曲(『Invitation』と『Finder』)が入っているんです。作れたのはその8曲くらいなんですよね。
──『VAMPIRE』の曲作りの合宿の時もいろいろとエピソードがありましたけど、今回も何かハプニングがありましたか。
滝:まぁ、一番のハプニングは雪山で遭難してしまったことですね(笑)。ノーマル・タイヤの車が雪山に突っ込んで、JAFを呼んで…。山中湖の周りの雪道を走っていたんですけど、凄いアップダウンが激しい道で、アップを上がり切れなかったんですよ。10度もないくらいの緩やかな坂道だったんですけどね。その体験が『Lovecall From The World』の異常なテンションに繋がってるんです(笑)。
──まさに“今世紀最大のドラマ”でしたね(笑)。
滝:ホントにそんな感じだったですよ。一瞬、死ぬかな? と思いましたから(笑)。
──そこで一生懸命『命ノゼンマイ』を巻いたわけですね(笑)。
滝:そうですね。巻いて巻いて、何とか生き延びました(笑)。遭難した後、誰かが「歌でも唄おうぜ」って言い出して、何とか明るい気持ちに持っていこうとしたんですよ。でも、しばらく唄うと誰も唄わなくなって。
──遭難したのはメンバー4人だけの時だったんですか。
滝:4人だけでしたね。機材もフルセットで持っていって、身重な状態で遭難したっていう(笑)。雪が何十センチも積もっていたので寒かったはずなんですけど、寒さを感じる余裕もなく。
──よく無事に生還できましたね。
滝:すべてJAFのお陰ですよ(笑)。
──合宿では、各自が曲のパーツを持ち寄って合わせていく感じなんですか。
滝:そうですね。最初からカッチリと作るわけじゃなくて、各々がラフを出す感じです。日頃から温めていたアイディアを出し合って、それでどうなるかみたいにやってましたね。
──今回はリズム隊のおふたりも作曲に参加していますが、曲を採用するジャッジは滝さんが握っていることが多いんですか。
滝:ある意味ではジャッジを握ってますけど、せっかく作ってきたんなら何とかして活かさないと…っていう気持ちがあるんですよ。かみじょう君がパソコンでパチパチやりながら曲を作ってるところも、音楽理論的な指導をさせてもらったり。『3031』はそんなことを繰り返して仕上がった曲ですね。
──かみじょうさん作曲の『3031』も、中村さん作曲の『Cold Edge』も、作曲ビギナーの割にはよく練られていますよね。
滝:そうですね。らしさがよく出てるし、凄くいいと思いますね。
──滝さんは普段、どうやって曲作りをしているんですか。
滝:僕も意外とパソコンでパチパチ派なんですよ。大まかですけど、8割方は完成しているくらいのところまでは作ったりもしますね。ドラムとベースを打ち込んだりして。
──1曲を仕上げるのに時間が掛かるほうですか。
滝:掛かったり掛からなかったりですね。気分が乗ってるか乗ってないかで全然変わるんですよ。『Lovecall From The World』は一瞬で出来ちゃったような曲でしたけど、『命ノゼンマイ』は凄く難しかった曲なので、1ヶ月間ずっと集中して試行錯誤しましたね。
映画の主題歌という新たなトライアル
──映画『彼岸島』の主題歌として書き下ろされた『命ノゼンマイ』は、事前に原作の漫画を読んでから曲作りをしたんですか。
滝:公開される映画の未完成版を合宿中の夜にみんなで見させてもらって、次の日の朝から作り始めた感じですね。その場ではそれぞれが見たイメージでフレーズを並べて、とりあえず録っておくんです。それを後で聴いて、いろいろと積み木のように組み替えていきました。『命ノゼンマイ』はホントに積み木のような曲で、積んで積んで曲にしていった感じですね。
──せっかく積み上げても、しっくり来なければ最後に崩してしまうようなこともあるんですか。
滝:そういうのは意外となくて、土台と最終形は崩さずに真ん中を組み替えたりすることが多いですね。
──ジェンガみたいに構築していくわけですね。
滝:うん、まさにそんな感じです。割と緻密に作り込んでいるんですよ。
──『彼岸島』は“吸血鬼サバイバルホラー”と呼ばれるだけあってかなりおどろおどろしい内容でしたけど、その世界観をちゃんと踏襲していこうとしたんですか。
滝:もちろん。主題歌をやらせて頂くにはがっぷり四つに組んだ曲にしたほうが映画を見る人も楽しいだろうし、映画のイメージに合わせていくことで自分たちも意外な部分を引っ張り出せるし、これはチャンスだと思ったんですよ。それで従来の自分たちのイメージに囚われずに思い切り振り切って、映画の世界観にどっぷり浸ってみることにしたんです。
──でも、いつもの9mmらしさとはそれほど懸け離れていない気もしましたけど。
滝:今となってはそうかもしれないです。完成した当初は画期的だなと思ったんですけどね(笑)。
──いや、スケールの大きい力作だと思うんですが、アルバムの中盤に置いても流れを損なわないなと思って。
滝:そうなんですよね、不思議なことに。最初はアルバムに入れたら流れが変わっちゃうんじゃないかと心配していたんですけど、入ったら入ったで自然に聴けてしまうんですよね。
──映画の主題歌として曲を作ったのは初めてですよね?
滝:アニメとかはありましたけどね。僕自身は『彼岸島』のことを知らなかったんですけど、メンバーの中には知ってる人もいて。そういう話を頂いて、曲作りの余裕もあった珍しいケースだったので、是非やらせて頂きたいなと。面白そうな話だと思ったし。
──ただでさえ過密スケジュールなのに、そこで新たに曲を書き下ろすのは至難の業のように思えますけど…。
滝:でも、せっかく主題歌をやらせてもらえるなら、しっかり書き下ろしたかったですからね。忙しいと言っても、まぁそこそこですよ。昨年度中はいろいろと動き回っていましたけどね。シングルのリリースが続いたり、くるりやイエロー・モンキーのトリビュートに参加したり、ライヴやフェスも多かったですから。あっちこっち転々としていたので、春の合宿で作ったアレンジをレコーディング直前の10月までにまとめることができなかったんですよ。結果的に半年間寝かしてしまったんです。
──半年間寝かせたことがアレンジを見直す良いきっかけになったりとかは?
滝:なかったですね(笑)。ライヴで新曲をやることもあまりないし、そこで曲の反応を窺うこともないですし。基本的に新曲は完成した後じゃないとライヴではやらないんですよ。レコーディング直前にライヴが入ってる時は、度胸をつけるためにちょっとグダってもいいからやってみることもあるんですけど。
──半年間、まるっきり手を加えなかったんですか。
滝:ほとんど寝かせっぱなしでしたね。完全に放置プレイでした(笑)。さすがに途中でこれじゃまずいなと思って、夏前に『光の雨が降る夜に』だけは最後まで仕上げたんですよ。でも、アレンジの詰めの作業は半年間微々たるもので、詰めて詰めて落とし込む作業を最後の最後にさんざんやりましたね。そのせいか、アレンジの詰めから録り終えるまでの記憶がほとんどないんですよ。凄い集中していたので、3ヶ月くらいの期間が一瞬のうちに終わってしまったような感じですね。それだけ充実していたということなんでしょうけど。